2500g未満で生まれた赤ちゃんをもつママたちへ。自らの体験を伝えて不安に寄り添う活動をしている【家族会「一歩」代表・川満ひとみさん】

2人の女の子のママである看護師の川満ひとみさんは、2019年2月に次女・夏歩(かほ)ちゃんを897gで出産しました。妊娠7カ月のとき職場で出血し、救急搬送されて出産となりました。およそ10人に1人が2500g未満の低出生体重児で生まれている現状があります。川満さんは自身の経験を活かし、埼玉県上尾市で「小さく生まれた子どもと家族の会 一歩」を立ち上げました。一歩の代表を務める川満さんに、一歩の活動や小さく生まれた赤ちゃんをもつママへの思いをうかがいました。

産後、孤独で寂しかった日々。SNSのオフ会で、初めて小さく生まれた赤ちゃんのママたちと交流

川満さんの次女・夏歩ちゃんは897gで生まれました

――小さく生まれた子どもと家族の会「一歩」を作ろうと思った理由を教えてください。

赤ちゃんが小さく生まれると不安や悩みが尽きず、同じ境遇のママと話したいと思うのですが、なかなかそうした機会ってないんです。

私も夏歩が897gで生まれて、NICU(新生児集中治療室)に入院しているときに、小さな赤ちゃんを生んだママと話したいと思ったのですが、その赤ちゃんやママの状況がわからないので気軽に話しかけることができませんでした。入院中は誰とも本音で話せずに、孤独や寂しさ、不安に押しつぶされそうでした。そのためSNSで、小さく生まれた赤ちゃんをもつママグループとつながるようになったんです。

――そのママグループとは、直接会ったりしたことはありますか。

夏歩は約4カ月入院していたのですが、退院して2カ月ぐらい経ったある日、オフ会がありました。赤ちゃん連れのママたちが集まれる場所ということで、都内のカラオケルームの大きな部屋を借りて集まりました。今、考えると無理をしたと思うのですが、小さな夏歩を抱っこして1時間ぐらい電車に乗って都心まで出かけました。夏歩が生まれてから、初めての外出です。振り返ると、同じ立場のママたちと会って話をしたいという思いが募って、追いつめられていたんだな…と思います。

最初に、みんなで自己紹介をしたのですが、自己紹介するだけで「そうそう!」「私も!」「よく頑張ったね~」と共感の嵐で、「参加してよかった」と心から思えたんです。

でも同時に、こういう会を私が住む埼玉県上尾市に作りたいと思いました。

次女が1歳になったときに、小さく生まれた子どもと家族の会「一歩」を立ち上げました

「あげおLittre Baby Handbook」より

――「小さく生まれた子どもと家族の会 一歩」ではどのような活動をされているのですか。

「一歩」を立ち上げたのは、夏歩の1歳の誕生日です。主な活動は親子の交流会です。子どもの成長や療育、保育園、就学のことなど話題は尽きません。現在は埼玉県さいたま市を中心に活動していますが、オンライン交流会もあるので県外から参加してくれるママもいます。

また上尾市の保健センターなどで、1117日の世界早産児デーに合わせて写真展も開催しています。小さく生まれた赤ちゃんの成長をたどる写真展です。

母子手帳のサブブック「リトルベビーハンドブック」の作成に協力

――一歩では、上尾市で小さく生まれた赤ちゃんと家族のための母子健康手帳のサブブック「あげお Little Baby Handbook」の作成に協力していますね。「リトルベビーハンドブック」について教えてください。

「リトルベビーハンドブック」は、小さく生まれた赤ちゃんの成長記録が残せる手帳で、作成する自治体が増えてきています。昨年の9月に「こども家庭庁」から低出生体重児に関する支援や制度について通達があり、保護者向け情報コンテンツも公開されました。

私が夏歩を生んだ当時は、上尾市には「リトルベビーハンドブック」がなかったので、静岡県の役所に電話をして事情を説明して、静岡県の「リトルベビーハンドブック」を送ってもらいました。手にしたときは、本当に嬉しかったです。

静岡県が発行している「リトルベビーハンドブック」を手にしたことが、上尾市での普及活動につながりました

小さく生まれた赤ちゃんには、通常の母子手帳は使いづらい

普通の母子健康手帳は、実は小さく生まれた赤ちゃんには使いづらいのです。

たとえば、成長曲線も体重が1kgから始まるので記録できないこともあります。母子健康手帳に記録しようとするたびに「早く生んでしまったから…」「うちの子はやっぱり普通の子とは違うんだ」と悲しくなるママ・パパもいるようです。

「あげお Little Baby Handbook」では、先輩ママたちの声を多数紹介

「あげお Little Baby Handbook」は、先輩ママたちの声を紹介していることが特徴の1つです。

    • ●「おめでとう」という言葉を言われるのがつらい。または「おめでとう」と言ってもらえなくてつらい
    • ●産んだ実感や自分の赤ちゃんだと実感できない。また、赤ちゃんに会うのが怖い
    • ●他の赤ちゃんと比べてしまい、我が子の成長を素直に喜ぶことができず、落ち込んでしまう
    • ●お腹の大きな妊婦さんを見るのがつらく、羨ましいと思ってしまう

 といった声も掲載されています。

初めてこうした声を目にした方からすると「えっ…」と思うかもしれませんが、小さな赤ちゃんを生んだママの気持ちはとても複雑です。でも誰にも相談できずに1人で悩んだり、苦しんでいるママが多いんです。「あげお Little Baby Handbook」を通して、そうしたママたちに寄り添いたいと思います。

また1カ月ごとに育児記録を書き込める欄もあります。私は夏歩を生んでから、そのときの素直な気持ちを母子健康手帳に書き込んでいました。当時はまだ「あげお Little Baby Handbook」がなかったので…。なぜ母子健康手帳に書き込んでいたかというと、ずっと大切に保管するものだからです。でも母子健康手帳だと、書き込めるスペースが限られているんです。

小さく生まれた赤ちゃんが無事に成長して大人になったとき、わが子に「どのようにして生まれて、ママ・パパはどのような思いで育ててきたか」を伝えられるツールになればいいなと思い、育児記録の欄を多く設けました。

>>>>小さく産まれた子どもと家族の会「一歩」@上尾.さいたま

小さく生まれた赤ちゃんのママの不安に寄り添いたい~ 夏歩ちゃんの成長をたどったフォトブックや絵本を作成

先ほど「入院中は誰とも本音で話せずに、孤独や寂しさ、不安に押しつぶされそうだった」と話しましたが、私と同じような寂しさを感じていたり、不安を抱えているママに読んでほしくて、NICUや学校、公共施設などにフォトブック『かほちゃんの軌跡』を置いてもらっています。

 

体重897gで生まれたときから1歳、2歳、3歳…と夏歩の成長を追ったフォトブックです。「今は小さくても、こんなに大きくなるんだ」「こんなこともできるようになるんだ」と思いながら見てほしいです。

――絵本も作成されたそうですね

 はい、20251月に「くものなか」のペンネームで絵本『さくらの咲くころに あなたがくれた宝物』を出版しました。

 『さくらの咲くころに あなたがくれた宝物』 くものなか/著 価格1,100

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夏歩が生まれたときは合併症の心配などもあり、まるで先が見えない雲の中をさまよい歩いているような毎日でした。でも時が経ち「いつかきっと光が差す」と思えるようになりました。小さな赤ちゃんを生んで不安を抱えているママだけでなく、子育てに疲れたり、悩んだときに読んでほしいと思います。

忘れられない、初めて赤ちゃんを抱っこできた瞬間のうれしさ

私は1000gにも満たない我が子を出産した7年前、毎日が不安と悲しみの連続でしたが、そんな私の心を大きく変えてくれたのは、「初めて赤ちゃんを抱っこできた瞬間」でした。あの時の嬉しさと温かさは、今でも忘れられません。

そんな「初めてだっこした日」の想いをぎゅっと詰め込んで絵本を作りました。いつかこの想いを絵本にしたい!そんな想いがようやく叶いました
この本が、リトルベビーのママや、不安を抱えているママたちに少しでも寄り添い、力になれたらと思っています。

川満さんのリトルベビー出産体験記事はこちらから

妊娠26週で手のひらサイズ897gの赤ちゃんを出産したママの体験談。10人に1人の赤ちゃんが2500g未満で生まれる現状
不妊治療で第二子を授かるも、妊娠3カ月で切迫流産と診断され自宅安静に 夏歩を授かったのは、私が32歳、夫が39歳のときです。 結婚し...

取材・構成/麻生珠恵 写真提供/川満ひとみさん

 

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