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赤ちゃんだった娘たちのケンカが穏やかに…「積み木ってすごいかもしれない」
――miharuさんの作品は素晴らしいものばかりです。積み木に出会われたきっかけを教えてください。
miharuさん:ご近所さんから、積み木を含めたいくつかのおもちゃを譲り受けたのがきっかけです。
出産し、娘たちが6~7か月くらいになったころ、その中にあった音楽が流れるおもちゃを気に入ったようでした。私も一緒に歌うなど楽しんでいたのですが、そのうち取り合ってケンカになってしまって…。あまりにもそれが続くとき、娘たちに渡したのが積み木でした。
すると、どちらも穏やかに、なめたりにぎったりして、それぞれがずっと遊んでいて。「積み木ってすごいかもしれない」って思いました。
そこから遊んでいくうちに積み木の魅力に引き込まれ、子育ての視点からも、手指の運動や想像力、集中力、達成感を育むおもちゃとして積み木に惹かれていきました。
そして、積み木について調べるとすごくたくさんの種類があったんです。 その奥深さに私自身がハマっていきました。講演会に話を聞きに行ったり、積み木・木のおもちゃを扱っている和久洋三さんの「童具館」というアトリエに行ったり、静岡県にある子どもの本とおもちゃの専門店「百町森」の店主柿田友広さん、相沢康夫さんの著書にであって、どんどん積み木が好きになりました。

もともと、アパレルブランドのデザイン企画として、工芸品の職人さんとお仕事をしていたことや、伝統的な着物や漆器など、「世代を超えて大切にできるもの」に惹かれていたmiharuさん。
積み木は約180年前から形を変えずに愛され続けているおもちゃ。自然に還る木の素材というのも、魅かれた理由だそうです。
――ご自身はどのようにして積み木アート作家として活躍することになったのでしょうか。
miharuさん:最初は娘たちの成長記録や積み木で遊ぶ様子をブログにアップしていましたが、より手軽なInstagramに移行すると、教育関係の方や保育士さんが見てくださるようになっていきました。
小さな子どもたちがいると買い物に行くのもひと苦労です。それでも、「日々の生活や行事を楽しみたい。」と思い、積み木で干支を作ったり、鏡餅を作ったり、日々の暮らしをそのまま積み木遊びするようになりました。
当時、節分のときに作った鬼が好評で、木のおもちゃ屋さんの会員誌に掲載されることになり、積み木メーカーさんや代理店さんとのつながりも増えていきました。
私は子どもと遊ぶことが苦手でしたが、娘たちと積み木遊びをすることがとても楽しくすごく救われたので、同じように誰かのことも幸せな気持ちにしたいと思うようになり、5年程前から“積み木アート作家”として活動することになりました。
――どうやってここまでの作品を作れるようになりましたか?
miharuさん:ただ単純に、楽しいから毎日娘たちと一緒に積み木で遊んでいたんです。子どもたちの想像力は無限大で、2つの積み木を重ねて「雪だるま」って言っても通じるんですよね。積み木の上にビーズをのせて「ケーキ」というと、それはもう頭の中ではケーキになるんです。それをみんなで食べる真似をするのも楽しくて。
シンプルなおもちゃほど子どもに寄り添ってくれることを発見しました。
小学生になっても積み木を増やそうと思えた心に残る積み木


娘さんたちが5歳になったとき、miharuさんの念願が叶って購入した、スイス・アルビスブラン社のメリーゴーランド。子どもたちがごっこ遊びをしたり、「トナカイ」を再現したりすると、「子どもの想像、遊びを豊かにするおもちゃってすごい!」と感動したそう。(2025年廃盤)
miharuさん:頭のなかで想像したものを形にできるようになったと感じたのが5歳。小学生になるとどの家庭でも積み木は姿を消していくと思いますが、これを見たときにまだまだ増やそうと思いました。絶対もっと広がりがあるはずだって。
これが積み木!? と驚く精巧さ。miharuさんの作品と娘さんたちの共作
miharuさんのInstagramにはたくさんの作品が並んでいます。そのなかから、いくつかの作品をピックアップしてご紹介します。
miharuさんの作品は、世界中の積み木を組み合わせて創り上げるのがこだわりで、これを見たおもちゃメーカーからは、「この作品のなかはすごく平和だ」という言葉をもらったそう。

miharuさん:屋根の丸いパーツは、ロシアのメーカーから「ぜひ遊んでほしい」と連絡を受けて提供されたものなので、ロシアっぽい建物に。ウクライナとの戦争が始まる2か月前のことでした。

miharuさん:はじめは娘たちがカプラブロックでアップライトを創って遊んでいるのを見て、グランドピアノにできるかな? と、思いつきました。妖精のお人形は、娘たちが遊びながら飾ってくれました。

miharuさん:おひな様をつくるときは、一般的なおひな様と同じ感覚で、1~2週間以上飾っています。何個もつくりたくなるので、期間はバラバラですが、この七段飾りも1週間以上飾っていました。

miharuさん:娘たちは昆虫が大好きで、はじめはカブトムシやセミなど、その年に出合い飼っていた昆虫を創っていました。毎年ミツロウでキャンドルをつくっているので、この年はハチのことをもっと知りたいねと話して創りました。

miharuさん:バージニア・リー・バートンの絵本の表紙です。これはもう4代目くらいになります。絵本を読んでその世界観を娘たちと一緒に創り、遊んでいます。

miharuさん:娘たちとそれぞれ一段ずつ作りました。おせちの絵本を読んだことから創り始めました。もう5年目なので細かく創り上げるようになりました。毎年、お正月に遊んでいます。

miharuさん:7歳までは一緒にケーキを創って、積み木のろうそくを立て、息を「ふー」と吹きかけ、ろうそくの火を消す真似をして積み木を倒していました。7歳以降は私が前夜に創ったものを、朝にお披露目する形にして、お祝いをしています。
壊したい時期はある! 壊さないスペースと壊してもOKスペースを作ってあげて
ここからは、読者のみなさんなら体験したことがある、積み木に関するお悩みにお答えいただきました。
兄弟姉妹がいる場合によくあるのが、上の子が作った作品を下の子が壊してしまうこと。そんなときはどうしたらいいのでしょうか。
――わざとでなくても壊してしまうことがあると思いますが、どのように対応していましたか?
miharuさん:ここだけは壊されない「その子だけのスペース」を小さくても設けてみてください。
そして「この中でないと壊れることがあるよ」と伝えておきます。下の子を叱るより、上の子のフォローをしてあげることが大事です。
すると上の子も「こういう時期だもんね」とだんだんわかってくれますし、下の子が来たらちょっとユニークに「ちっちゃい怪獣が来た」などと言って、それも楽しい遊びにしてみてください。もしぐちゃぐちゃになったら「もう1回つくろっか!」と、声をかけてあげて、また一緒に楽しめるといいですね。
壊れたら終わり、ではなく「もう1回」が大切です。何度でもやり直し、試行錯誤して挑戦していくことで、時間はかかりますが、どうすればよいのか理解できるようになっていきます。
ある程度やれば壊すのにも飽きる
――壊した方にはなにか声をかけますか?
miharuさん:あまり止めるとどんどん壊しちゃうので、同時に壊してもいいスペースを作ってあげるといいです。娘たちも壊したい時期がありました。 こうなったら、こちらも考えます。「よーいどん!」で、壊すのが先か、私が積むのが先か! 競うように積んでいました。ある程度やったら壊すのも飽きちゃうんです。
――自分が作ったものは壊されたくないって気持ちが芽生えてくるのを待ってあげるのも大事ですね。
miharuさん:「壊れる」ことを、ちゃんと学べる時期なので、待つことが大事です。物は大切に扱わないと壊れることを実体験するのは必要だと思うんです。
それを経験することで、食器などの壊れやすい物も優しく持てるようになってきますし、全てにつながってくるのだと思います。
――崩して、すぐにまた作るためにも収納の工夫も必要ですね。
miharuさん:収納スペースは、積み木と絵本で分けて、すぐに手に取れるようにオープン棚に。それぞれの居場所がパッと見てすぐにわかるように、重ねておかないことも意識しています。特に小さなころは、収納もシンプルに。成長とともに収納の仕方もアップデートしていきます。
積み木遊びを始めると作品が完成するまで何日もかかるので、壊されないスペース同様、片付けなくていい「お片付け免除のスペース」も。十分に遊ぶと、次は別のものをつくろうと、自然に片付けることになります。
十分に遊ぶことは、達成感や成功体験を学ぶ機会にもつながります。
大きな積み木は達成感を育む! 子どもをよく見て好みを見つけて
――これから購入を考えている方におすすめの積み木を教えてください。
miharuさん:保育の積み木は4cm基尺の積み木(一辺の長さが4cm)が基本ですが、うちにあるのはそれよりも大きい5cm基尺の積み木です。
すごく大きいですが、積み始めると、あっという間に高くなって『こんなに大きなものがつくれた!』と、達成感につながります。
色は小さい子でも認識しやすい、はっきりした色のついたもの、形はどうやっても積める直方体や立方体がおすすめです。三角だと積めない面が出てきてしまい、子どものストレスになることもあるんです。基本的に立方体が8個あれば、初めの積み木はそれで完成です。

――色はついていた方がいいんですね。
miharuさん:一般的にはそう言われていますが、白木が好きなお子さんもいます。白木だといくつも重ねたときに、全てがつながって見えて一体感が出るんですね。自分の頭の中で想像しているものを積み木で創りたくなってきたときは、白木の方が使いやすいかなと思います。
娘たちは、1人は積むのがすごく好きで、もう1人は全然積まなかったんです。なぜだろうと思って、色のついた積み木を買ったらすごく遊ぶようになったことがありました。先ほど三角は避けた方がいいと言いました。でも、三角がすごく好きなお子さんもいるので、本当に子どもによってさまざまです。
――お子さんをよく見ることが大事ですね。
miharuさん:そうですね。どんな積み木を買い足せばいいですか? と聞かれることもとても多いですが、今目の前にいる子どもたちは、何を一番触っていて、どんな色、なにをして遊ぶのが好きですか? とお聞きしています。
小さい積み木は「もっと精巧に細かいものを作りたい」という欲求が出てくる、小学生以降の子どもに向いています。だいたい年齢×100個あれば満足いくぐらい遊べると言われていて、わが家では子どもの様子を見て足りないと感じたら、そのたびに買い足しています。
0歳から遊んでいる積み木もまだまだ現役で、世代を超えて遊べるものなので長い目で少しずつ集めてみてください。
おもちゃは選択肢を増やして、自分で選べる環境を整えて
――小学校1年生で積み木が欲しいなと思ったらどんなものがいいですか?
miharuさん:積み木が置いてある木のおもちゃ屋さんに一緒に行って、子どもがどんなものに惹かれるかを観察してみてください。できれば、小さくてもよいのでプレイスペースのあるおもちゃ屋さんがいいですね。
相談が多いのは子どもにアニメのキャラクターのおもちゃをねだられたけど、あまり買う気になれない……というようなお話です。買う気になれなくても、それはお子さんの欲しいもの。否定はせず、なぜそれが好きなのか深掘りしてみてください。
欲しいものを購入するとしても、そこで終わりではありません。積み木でその好きなキャラクターを作ってみたり、 段ボールや折り紙、粘土で作ってみたりと、そこから遊ぶ選択肢を増やすのは、親の腕のみせどころです。
選択肢を増やして、夢中になって遊ぶ環境を整えてみる。そして一緒に遊べたらいいですよね。
記事監修

髙木美晴(たかぎみはる) 積み木アート作家。おもちゃコーディネーター。おもちゃコンサルタント。2013年に双子女児を出産。親子で作る感性豊かな積み木遊びをInstagramで発信し話題に。2017年から冊子『積み木手帖』、2018年から『積み木手帖カレンダー』を発行。2019年横浜バーニーズニューヨーク、2020年子どもの本とおもちゃの店・百町森(静岡)、2021年浦和蔦屋書店、アトリエニキティキ吉祥寺店等々、全国各地でフェアや積み木パネル展を開催している。スペインのおもちゃメーカー「grapat japan」の日本公式Instagram画像掲載、雑誌momo連載中。
取材・文/長南真理恵