「学校に防犯カメラは必要?」相次ぐ性犯罪から子どもたちを守るには。子どもにいつ・何を・どう話すべきか【安全教育のプロに聞く】

「先生が、そんなことをするなんて…」教員による子どもへの性加害事件が相次ぎ、深い不安の中にいる親御さんは多いのではないでしょうか。これまで「信頼できる存在」だと思っていた大人が、子どもを傷つける加害者になる。そんな現実を前に、「わが子をどう守ればいいのか」と戸惑う方は多いはず。子どもの危機管理教育に長年取り組んできた清永奈穂さんに、性犯罪から子どもを守るために、親が「今できること」についてうかがいました。

学校現場での盗撮事件はこれからも増加する?

(以下、清永奈穂さん談)最近、教師による子どもへの性加害事件が相次いで報じられています。

今回の事件の背景は、もともとよこしまな性的欲求を持っていた者による犯行と言えますが、他にも様々な機器やSNSなどの技術の進化による環境の変化と、先生方のストレスも要因としてあるとみています。私も教職員向け研修や、数々の学校に安全教育の授業のために訪問した際に、学校によっては、先生方の著しいストレス、閉そく感、プレッシャーなど厳しい状況を感じることがありました。

とはいえ、ほとんどの先生は子どもの教育に努力されているまっとうな方たちです。ただ、学校という場であっても、教師という立場の人であっても、誰にでもこうした犯罪に手を染めることができる状況にあることは意識しなくてはなりません。

防犯カメラの安易な導入は考えもの

これまでも教師の盗撮事件はありましたが、こうした犯罪は、これからも増加する恐れがあると感じています。

しかし、一部に罪を犯すような教員がいたとしても、ほとんどの教員は真面目に職務を全うし、子どもに接している方たちです。今、「学校の中に防犯カメラを」という声もありますが、私としては、性善説で成り立っている先生と子どもの信頼関係を壊すような防犯カメラは、学校の中に安易に入れてはいけないと思っています。

基本的には、私たち保護者は先生を信じるべきです。信頼感を培いながら、同時にいざというときの身の守り方、また見守り方を改めて共に学び合うことがまず必要ではないでしょうか。

子どもが性被害にあわないために「自分を守る力」を育てる

では、子どもが性被害にあわないための「身を守る力」を育てるには、どんなことから始めたらいいのでしょうか。

私は、とにかくまずは「あなたの体はとても大事、世界に一つしかない」ということを教えるところから始めるべきだと思います。そして、「プライベートゾーン」として、「特に下着で隠しているところや口、ほっぺなどは大事なところで守らないといけないから、見せない、触らせない」と話します。

誰かに写真を撮られることは、家に連れていかれるのと同じ、その写真を家に持って帰られたら、ずっとあなたのことを考えられて、何をされるかわからない、本当に怖いことなんだと伝えましょう。

幼児から「人間教育」としての性教育を始めましょう

「性教育」は、ある程度大きくなってからと考えられがちですが、幼児から心と体の成長に合わせて理解を促すことが大切です。性教育というよりも「親子でともに学び合う人間教育」ととらえるとよいかもしれません。

将来、望まない妊娠や性感染症、DVなどのトラブルを防ぐ知識をつけ、性に関する知識や判断力を身につけることを目指しましょう。

子どもの発達段階に沿って教えていく

では、子どもの年齢ごとにどのようなことを教えていったらいいのでしょうか。

子どもは2、3歳ごろから性に興味を持ちだすので、そのころから教えていくといいと思います。幼児期である2、3歳のころは、体の名前、プライベートゾーン、他人との適切な距離感を教え、「大事なところは誰にも触らせたらいけないよ」としっかり伝えましょう。

小学校低学年では、体の成長や変化、男女の違いや、家族のあり方について教えます。絵本やアニメなどを活用するのもいいかもしれません。

中学年になったら、生理についても教えます。また、インターネットの普及により、歪んだ性の情報、あからさまな性的情報に過剰にさらされている子どもたちもいますから、徐々にインターネットやSNSでの性に関する情報に注意することも教えていきましょう。

小学校高学年になったら、思春期の体の変化や心の変化、妊娠や出産、避妊について教えます。性感染症や性暴力についても教えていきましょう。

性教育は、子どもの発達段階にあわせて行っていくことが大事ですから、本人が理解できるように、段階に沿って伝えていってください。

学校でも、学習指導要領に基づいて、発達段階に沿った性教育が行われています。小学校では体の名前やプライベートゾーン、性に関する基本的な知識を。そして中学校では、思春期の体の変化や心の変化、妊娠や出産、性感染症について。高校では、性に関するトラブルや、望まない妊娠、性感染症の予防について学びます。

学校での学びと並行して、家でも性について学んでいけるといいですね。

何でも話せる親子の関係性をつくる

そして、性教育を通して特に大事なことは、家庭でも子どもたちが安心して性について話せる環境を作ることです。
ほとんどの人はいい人だけど、時々変な人もいることを子どもに伝え、「触ろうとしたり、撮ったりする人がいたら必ず教えて」と、何でも言ってもらえる関係性を作ってください。もし子どもが自分から言えなくても、普段と違う態度に気づいたら、しっかり聞いてあげるようにしましょう。

これは私の実体験からですが、子どもが大きくなると、性器のことなどふざけて言ったりしなくなり、性の話をするきっかけがあまりなくなります。ですから恥ずかしがらずに素直な会話ができる小さいうちから、できるだけお話しするとよいと思います。

学校でも安全教育などは行っていますが、学校だけで安心せず、安全教育も他の教科と同様に家でも復習し、自分の体の大切さや、それを理解した上での身の守り方を教えていくようにしましょう。

子どもが「自分を守れる力」を育てるために

いざというときに動けるように「安全基礎体力」を

子どもは、いろいろな場所で「危ない」ことについて教わり、情報としての知識はついてきますが、それだけではいざというときに動けないことがあります。

何が危ないのか、危ないときどうしたらよいのかといった、被害の予測、回避、克服の力を体得するためには、伝えるだけでなく身体的経験が必要です。いざというときのために、どうしたらいいのか日頃から練習し、「安全基礎体力」を高めておきましょう。

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知っている大人でも、時には危険なことがあることを伝える

子どもに、「知っている大人でも、時には危険なことがある」と伝えるのはとても難しいことです。「ほとんどの人は、とてもあなたのことを大切に思っていて、尊重する」ということをベースに、それでも触ってきたり、写真を撮ろうとしたりする人がもしかしたらいるかもしれないことは伝えましょう。

そして、そういう人は知っている人ではあっても、あなたのことを本当に大切に思ってくれている人ではないからきっぱりといやだと言っていいと、子どもにしっかりと教えていくことが大切です。

子どもの異変に早く気づけるために心がけたいこと

ネットの安全、連れ去り、地震、交通事故、性、事故、など、自分の命を守るための学習は他にもたくさんありますが、そういった安全教育は、「あなたの命や尊厳はとても大事なもの」ということをベースに、包括的に行うことが必要です。

小さい子を育てている親御さんは、今は子どもとゆっくりと、性や安全について学ぶ時間と思ってください。子どもに伝わっているかいないか、自信がなくなることがあるかもしれませんが、繰り返し話せば通じます。

1回で理解させようと思わず、繰り返し話していくなかで、子どもの様子や反応を見ながら、徐々にわかると思ってください。ただ、興味を持っていない、嫌がっている様子があったら無理に続けず、機会を見てまた話してみましょう。

たとえば、「赤ちゃんはなぜ生まれるの?」という質問に対しては、親御さん自身の体験をお話しするのもよいでしょう。

「おなかのなかで、10か月ぐらい経つと赤ちゃんが大きくなるんだよ。あなたもそうだったけど、赤ちゃんはお母さんのまたの間にある細い通り道から生まれてくるの。あなたはとっても元気よくするっと出てきたの。おかあさんのおなかを切って出てくることもあるのよ。赤ちゃんはみんなとっても頑張って生まれてくるの」
このように話すと、子どもも興味を持ちやすいはずです。

親自身が「義務感」から教えていると、どうしてもつまらない話になってしまうので、子どもが興味を持ちやすいこと、自分ごとに落とし込みやすいことから話していくといいのではないでしょうか。

もし、性の話が苦手な親御さんだったら、「事故や交通事故の怖さ」など、体全体の大切さからお話するのもよいと思います。

子どもの異変に早く気づくためには具体的な声掛けを

夏休み、子どもたちがたくさん出歩くようになると思いますが、親もお出かけ先で、人がさりげなく座っていても不自然ではないような場所、例えば公衆トイレの前にベンチがあるなど(=危険な場所)がないか、チェックしてみましょう。

そして、外出して帰ってきた子どもには、「今日どうだった?」ではなく、「どんな場所に行ったの?」「先生とどんなお話したの?」などと具体的に聞いて、異変があれば早く気づけるようにするといいと思います。

ぜひ、今日からご家庭でも子どもの安全のためにできることに取り組んでいってください。

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取材・構成/佐藤麻貴

監修

清永奈穂さん (株)ステップ総合研究所所長

NPO法人体験型安全教育支援機構代表理事。日本女子大学学術研究員。博士(教育学)。2000年にステップ総合研究所を設立。犯罪、いじめ、災害などから命を守るための研究に取り組み、大学などの研究員や政府、自治体等の委員会委員なども務める。各地の自治体、幼稚園、保育園、小学校などで独自の体験型安全教育を行っている。著書に『犯罪から園を守る・子どもと守る』(メイト)、『犯罪からの子どもの安全を科学する』(共著 ミネルヴァ書房)、『危険から身を守る 学校・通学路・遊び場・家』(監修/一部 岩崎書店)など。

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