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学校に求められる、風通しの良いルール作り
(以下、清永奈穂さん談)最近の事件などを見ていると、加害者が「信頼されている先生」であるケースもあります。学校にはどんな危機管理の仕組みが求められているのでしょうか。
私は、やはり各学校でルール作りを行うことが大切だと思います。ルールは「ものさし=規範」のようなもので、規範を逸脱していたら、どんな人でも気をつける、または管理職に相談する、というようにするのです。
ルールは、教員、児童生徒、保護者と一緒に、風通しの良いルールを作ることが重要です。もちろん、「ほとんどの先生は良い人だ」という、教師、子ども、保護者の関係はしっかりと構築します。そのうえで、もしもルールを逸脱する変な人がいたら、どんな人であっても注意するし、断ってよいとするのです。

ここで言うルールとは、たとえば以下のようなものです。
・私的カメラ、携帯は職員室外に持ち出さない(撮影できる機材を教室などに持ち込まない)
・子どもの着替える部屋の周囲、中には、責任者以外やみくもに立ち入らない
・子どもとの連絡(部活動なども)は学校の携帯を使用
・教職員・保護者・子どもなど学校で過ごす誰もが、写真や動画を撮る際にはマナーに気を付ける(撮ります、と断ってから撮るなど)
このようなルールが作られると、「どんな行動が怪しいのか」がわかりやすくなり、逆に誰もかれもを疑わなくてよくなるのではないでしょうか。
子どもたちに盗撮を見破る力をつけさせるには

そして、このようなルールがあると、「あれ? おかしいな」ということに気づきやすくなります。今回話題になった盗撮事件の首謀者の教員も、「教室の周りをしつこくウロウロしていた」という情報があとから出ています。
事件にはだいたいの場合、前兆があるのです。ですから、そういった不審な動きの情報をそのままにせず、おかしいと思ったら誰かに相談できる体制作りをすることがまず有効な対策手段だと思います。
とはいえ、先生は遠足などのイベントのときに、写真を撮ることがあります。そういうときも、私的なカメラを使っていないか、足元や、肌の露出が多いところは撮っていないかなど、子どもにも盗撮を見抜く力をつけることも必要だと思います。
子どもとルールが共有されていれば、子どもたちも普通の写真撮影と違うことに気づき、「先生、その角度ってどこを撮っているんですか?」など声掛けをしたり、他の先生に「こういう風に写真を撮られたのですが」と相談できるかもしれません。
子どもたちにもルール作りを通して盗撮を見破る力を少しずつつけ、そしてあやしい人を見つけたら、他の先生や保護者、相談機関に安心して相談できる環境を作りましょう。「嫌だ」と思ったら「嫌だ」と言っていいということを改めて伝えるためにも、ルール作りは大切です。
新たな法律と、学校に求められる研修やチェック体制

教育現場での性加害を防ぐには、学校側に次のような研修やチェック体制が求められると思います。
・新しく成立する法律に関する研修
・子どもの人権教育
・子どもへの安全教育に関する研修
・カメラ等、不審なものが設置されていないかのチェックリスト作り
・チェックのしかた、不審なものを見つけたときの連絡、報告、対策などを考える研修
すでに「性的姿態撮影等処罰法」が施行済み

令和5年には、「性的姿態撮影等処罰法」が施行されました。「撮影」という名前の通り、性的な部位、場面の撮影や撮影された動画・画像の扱いに関する法律です。
この法律により、5つの罪(「性的姿態等撮影罪」「性的映像記録提供罪」「性的映像記録保管罪」「性的姿態等映像送信罪」「性的姿態等映像記録罪」)が新設されました。
今回新設された法律では、被害者が抵抗できない状態での撮影や、撮影された画像や動画を拡散されたりしてしまうケースも処罰できるようになりました。
このような最新の法律のことを知っていると、教員自身にも、「あ、これは犯罪なんだ」と気づかせる効果がありますし、他の人に対して「それ、犯罪ですよ」と指摘することで教員同士で見守ることができます。ぜひ、法律についても研修などで周知していき、犯罪の抑止にもつなげていってほしいと思います。
令和5年に「こども大綱」ができ、子どもの人権を守り、子どもの尊厳を守ることが大事だということが、今あらためて言われるようになってきました。ですから、子どもの人権についての研修ももちろん大事です。
そして、その研修を踏まえて、「学校の中にこんなものがあったら通報しましょう」など、何をチェックしなければならないかを考え、環境整備のためのチェックリストを作る。そして、その上で、不審なものを見つけたときの対応方法、不審物が設置されないための対策も必要になってくるでしょう。
日本版DBSは来年12月に運用開始
また、性犯罪歴を持つ者が保育・教育現場などで働くことを規制する「日本版DBS」の在り方も見守りたいと思います。
2024年6月19日、子ども性暴力防止法案が可決・成立し、日本版DBSが2026年12月に運用開始予定となりました。日本版DBSは、子どもを性犯罪から守ることができる有益な制度ですが、対象となる事業者には制度導入に向けて体制の整備などの負担が生じます。
保護者としては、学校側がこのようなルールや体制作りをしているかをしっかりとチェックし、子どもを安心して通わせられる学校かどうかを見極めていきましょう。
▼「日本版DBS」についてはこちらも参考に
親として、「子どもを安心して通わせられる学校か」を見極めるには

ニュースなどでさまざまな教員の事件が報道されると、「うちの子が通う学校は大丈夫だろうか」と不安になる親御さんも多いと思います。そんなときは、次のような点を注意してチェックしてみてください。
・不審な行動を見抜くルール作りをしているか
・そのルールが教員だけのものにされていないか
・性教育や防犯教育をしっかりやっているか
・上記のことを相談したときに、誠実に対応してくれるか
ルール作りをすることはもちろん大事ですが、そのルールを、教員だけ、もしくは管理職だけに周知され、クローズした情報にしてしまっている学校もあるのです。
子どもや保護者にも、「こういったルールを作りましょう」「作りましたのでみてもらえませんか?」「一緒に安全な学校を創っていきましょう」というオープンマインドで共有される学校だと安心だと思います。
親からすると、「ルール作りを行っていますか?」とは聞きづらいかと思います。しかし、そういったルールが作られているか否か、作られているなら、誰のためのもので誰と共有しているのかを明確に言える学校は、子どもの安全を真剣に考えている、安全安心な学校だと思います。
保護者は、学校で性教育や防犯教育が適切に行われているかをチェックして
そして、性教育や防犯教育をしっかりやっているか。今、安全教育は義務化され、特に防犯教育は99%の学校が実施しているといっても過言ではなく、また性教育(「生命の安全教育」)の実施率も上がっています。
しかし、単に警察や民間業者などが学校で防犯について講話をし、実践もなく映像を視るだけで終わった、という学校も少なくありません。
実際に子ども自身が、「何が自分にとって危険なものなのか」「いざというときにどう動けばいいのか」が理解でき、実際にロールプレイングなどで体験しながら危機についての学びを体得できる体験型の安全教育が、発達段階に沿ってきちんとなされているかが問題です。
どういう安全教育を実施しているかをきちんと答えられるか、また安全教育が公開授業になっていて、親の目でしっかりと確認できるなら、なお安心できるかと思います。
親御さんたちは、子どもの教科の授業には参観に行きますが、安全教育には関心が薄い傾向があります。親御さん自身も安全教育に興味を持って、学校でどのような授業が行われているのか、それにより子どもがどれだけ理解し、いざというときに危機を予測して回避、克服する力が身についているか、確認していけるとよいですね。
学校と家庭で連携して、子どもたちを守っていきましょう

子どもが学校で安全教育を受けたとき、使った資料を持ち帰ることはないでしょうか。学校で行った安全教育を、家庭でも共有することがとても大事です。ご家庭ではお子さんが持ち帰った資料を見ながら、親子で一緒にぜひ復習をしてみてください。
たとえば、「今日は防犯ブザーの使い方を学んだ」と知ったら、家庭でぜひその日のうちに鳴らす練習をしてみてください。あとは、「こういう声かけがあったらどうする?」「写真を撮るよって言われたら?」と、子どもに問いかけてロールプレイングをしてみましょう。
漢字や計算と同じように、どうしても学校で習っただけでは身につきません。子どもを守るための安全教育は家庭でもやるべきです。日々忙しくて面倒になってしまうこともあるかもしれませんが、学校と一緒に取り組んでいってほしいですね。
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監修
NPO法人体験型安全教育支援機構代表理事。日本女子大学学術研究員。博士(教育学)。2000年にステップ総合研究所を設立。犯罪、いじめ、災害などから命を守るための研究に取り組み、大学などの研究員や政府、自治体等の委員会委員なども務める。各地の自治体、幼稚園、保育園、小学校などで独自の体験型安全教育を行っている。著書に『犯罪から園を守る・子どもと守る』(メイト)、『犯罪からの子どもの安全を科学する』(共著 ミネルヴァ書房)、『危険から身を守る 学校・通学路・遊び場・家』(監修/一部 岩崎書店)など。
取材・構成/佐藤麻貴
