子どもが国際問題に関心をもつきっかけづくりを家庭から。これから求められる「議論できる力」と「コミュニケーション能力」とは? 【滝澤三郎先生(元UNHCR駐日代表)教えて!】

日本で暮らす外国人が増えるなか、共生社会の実現に向けて異文化を理解することはきわめて重要な基盤となります。そのためにも子どものころから国際問題に関心をもち、異文化交流を深め理解し合えるような力を身につけておくことが求められています。子どもに国際問題に関心をもってもらうために、私たち子育て世代が今できることとは? 日本の子どもたちに今必要とされているスキルや経験について、滝澤三郎先生にくわしく教えてもらいます。

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【元UNHCR駐日代表滝澤三郎先生に聞く】まさに今が日本の転換期。外国人が増えている背景と直面する課題をわかりやすく解説
日本の総人口の約3%が外国人。過去最多の396万人の外国人が日本で暮らしている 法務省によると、2025年6月末の在留外国人(日本に...

日本と海外で国際問題に対する関心の差

海外に比べて日本社会は国際問題に対する関心が低い傾向

― 日本で暮らす外国人が増え、共生がとわれるなか、日本の子どもたちの国際問題に対する関心や姿勢について先生はどのように感じていられますか。

滝澤先生:子どもに限らず、日本社会においては国際問題に対する関心が低いと言わざるを得ないと思います。一般的に日本では政治や社会問題についてあまり議論されていないと感じていて、ましてや地球の反対側にあることについて考えたり議論したりすることはあまりないのではないかと。その一つの原因は、日本では国際問題についての報道が少なすぎることだと思います。日本社会が外に関心を持たない限り、このような環境で育つ子どもたちに国際問題に関心を持ってもらうのはなかなか難しい、だからこそ家庭レベルでぜひ国際問題について普段から関心をもってもらい、食卓の話題として取り上げてほしいですね。

― 滝澤先生はアメリカ、欧州、中東と世界各国で長年駐在されていたご経験がありますが、海外の子どもたちやご家庭では国際問題に対してどのように向き合っているのでしょうか。

滝澤先生:そもそも西欧諸国では家庭内で政治や国際問題について議論することが普段からよくみられます。同時に学校でも、小学校の頃からグループワークなどで、「難民」などといった少し難しいトピックだとしても理解できる範囲内で自分たちで調べて意見をまとめて発表し、そしてほかのグループと意見交換議論を交わすといったアクティビティがよく行われていますね。

親が国際問題に関心をもつことで、子どもの好奇心を引き出すきっかけに

― 子どもたちに国際問題に関心をもってもらうには家庭でどのようなことから始めたらいいのでしょうか。

滝澤先生:親御さんが子どもたちの前で新聞を読んでいる姿や、海外のニュース番組を見ている姿を見せてあげたり、国際問題について積極的に話したりしてほしいですね。例えば最近ではベネズエラ問題など、今、世界で何が起きているのかという話題を食卓で話せるような日常を作るのもいいですね。親や大人の会話を聞いて、一緒に会話をすることで、自然と子どもの好奇心が刺激されるのではないでしょうか。

一緒に学ぶ姿勢、自分の意見を持ち議論をする力

知識は誰でも簡単に得られる時代、意見を言い議論ができるようにすることが必要

― まずは親が普段から国際問題により関心をもち、その姿勢をきちんと子どもに見せてあげる必要があるとのことですが、議論となると私たちも正しい知識を子どもに教えてあげなければと、つい身構えてしまいがちなのですが・・・。

滝澤先生:正しい知識を教えなければとか、親が絶対間違わないなんて思わせる必要はないと思います。教えるといったスタンスをとるのではなく、子どもと一緒に同じ方向を見て話をして、子どもに疑問を持たせるということが大切だと思います。わからないことがあれば、じゃあちょっとこれについて一緒に調べてみよう!といったふうに親自身も好奇心をもって調べて、一緒に学ぶといった姿を見せてあげられたらむしろいいのではないでしょうか。

― 子どもと同じ方向を見ることで、意見を言い合い、そこから議論につなげていくこともできそうですね。

滝澤先生:今の時代、携帯電話一つあれば、親よりも何十倍も早く、何十倍ものたくさんの知識を簡単に見つけられるようになっています。意見を言い合い、議論をする、さらにいろんな意見の違いが出ても、その場で解決していくといった姿勢をぜひ家庭内で実践してみてほしいですね。

アサーティブ・コミュニケーションスキルを子どものころから身につけて言葉によるコミュニケーション能力を高めてみて

滝澤先生:国際社会からみて日本人は意見を言うことが得意ではない、意見がないと見られがちです。これまで国連職員になりたい若者を対象にした講座を開いてきたのですが、この講座で一番重要なことが「アサーティブ・コミュニケーション(Assertive Communication)」ができるようになることです。これらの多文化共生社会で生きていく日本の子どもたちもぜひこのコミュニケーション能力を身につけていってほしいですね。

― アサーティブ・コミュニケーションとはあまり聞きなれない言葉ですが、具体的にどのようなコミュニケーション方法なのでしょうか。

滝澤先生:「自己主張」と日本語に訳してしまうと、自分の言いたいことだけを一方的に言うというイメージがありますが、「相手の気持ちも理解したうえで、自分の考えていることや気持ちを相手に伝え、共通の目標にたどりつく」といった言葉によるコミュニケーション方法のことを指します。

これから多文化共生というなかで生きていく子どもたちは、異なった文化をもつ人々とさまざまな問題解決をしていき、また共通の目標に向かっていかざるをえなくなります。そのときにきちんと自分の意見が言えないと「共生」は難しいと思っています。そのためにも、言葉によるコミュニケーションをできるようにし、意見をもち議論することに慣れておく必要があるでしょう。

子どものときの体験や経験したことが将来の目標につながる原点に

小さい頃の体験で感じたことがキャリアの原点になることも

滝澤先生:日本の若者を国際機関に派遣する外務省の「ジュニア・プロフェッショナル」プログラム試験の面接委員をやっていたとき、必ず最初の質問で「なぜあなたは国連で働きたいのですか」という質問がされます。そのときの若者の答えの多くが、子どものときの体験や海外に行って世の中の見方が変わった経験を話してくれます。そのときに感じた思いをキャリアにつなげていきたいという声がたくさん聞こえてきます。

― 子どものときの体験とは例えばどのようなことがあるのでしょうか。

滝澤先生:例えば、「小さいころ、お父さんの転勤でバンコクに住むことになり、自分の住むマンションの窓の外から見えたスラム街を見てどうしてこんなに格差があるのかと衝撃を受け、世界の貧困をなくしたいと思いました」というような今ある自分の原点となるエピソードを多くの志願者がもっています。海外に行くことでまったく違う世界を目の当たりにし、また改めて外から日本を見ることで今までと違ったことが見えてくるようにもなるでしょう。

ミャンマー研修での国会訪問

10年前には、高校生と大学生をミャンマー研修に連れていき、衛生状態が悪い貧困なエリアをいっしょに訪れました。途上国の現実に衝撃を受けた学生たちは、開発問題や医療関係の仕事に興味をもつきっかけとなり、研修に参加した学生たちはそれぞれさまざまな分野で現在活躍しています。若いころに経験したことが原点となり、そのときの思いを持ち続けて自分のキャリアにつなげています

ミャンマーでは日本に行く予定の実習生との交流も

国際交流プログラムや文化交流イベントに積極的に参加してみよう!

― 世界へ視野を広げるために今HugKum世代ができることを教えてください。

滝澤先生:海外へ行かなくても、各地で国際交流プログラムやイベントが開かれているのでぜひそのような場所にお子さんといっしょにお出かけしてみてください。各国のフードフェスダンスイベントは、楽しみながら他の文化を知ることができ、世界に関心をもつ、いいきっかけになると思います。

― 日本に住む外国人のことを学べるきっかけにもなりそうですね。

滝澤先生:国際問題に関心をもち、国際交流を深めることで、ネガティブな先入観をもつことなく外国人との関わりを肯定的にとらえることができるようにもなるのではないでしょうか。それはこれから多様な人々と共に生きていく日本の子どもたちにとっても大切なことです。ご家庭でもぜひサポートしてあげてください。

滝澤先生おすすめ!「難民」について学べる小学校高学年から中学生向けの児童書

オマルとハッサン: 4歳で難民になったぼくと弟の15年』ヴィクトリア・ジェミスン (著), イマン・ゲディ (著), オマル・モハメド (企画・原案), 中山弘子 (翻訳), 滝澤三郎 (監修)

「New York Times」優良児童書25選(2020年)をはじめアメリカで数々の賞を受賞した児童書の日本語訳版。ソマリア出身でケニアの難民キャンプで育ったの2人の男の子が、難民生活を送るなか希望を捨てずに勉学に励み努力する日々が漫画で描かれています。世界の難民について知ることができるおすすめの一冊です。

取材・文・構成/菅 摂子(取材日:2026年1月8日)

お話を伺ったのは

滝澤三郎先生 ケア・インターナショナル ジャパン副理事長

カリフォルニア大学バークレー経営大学院修了(法学修士・MBA)。元国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)駐日代表、国連大学客員教授、東京大学特任教授を経て、現在東洋英和女学院大学名誉教授、ケア・インターナショナル ジャパン副理事長。主な出版物は、『難民を知るための基礎知識』(編著、明石書店、2017年)、『世界の難民をたすける30の方法』(編著、合同出版、2018年)、『「国連式」世界で戦う仕事術』(集英社新書、2019年)など。

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