アトピー性皮膚炎は、慢性的なかゆみに悩まされる疾患です。その患者数は、子供・大人ともに増加傾向にあります。子供のアトピーには、どんな特徴があり、原因にはどんなものがあるのでしょうか。また、アトピーの原因は検査でわかるのでしょうか。
The Japan Times誌の「アジアのリーダー100人」にも選ばれたカリスマ小児科医・北浜こどもクリニックの北浜直院長に、子供のアトピーの原因についてお話を伺ってきました。
目次
子供の「アトピー(アトピー性皮膚炎)」とは?
アトピーはアレルギー性の皮膚炎のことを指します。アレルギーというのは、体の免疫が、体内に入ってきた異物を除去しようとする防御機能です。本来は、風邪などの病原体や、体に悪さをするものに対してのみ反応するのですが、害がなさそうなものに対しても反応してしまっている状況をアレルギー発症と言います。
アトピーと肌荒れの違い
皮膚の免疫機能が、本来害がないものに対しても過剰に反応を起こしてしまっているのがアトピーなんです。肌荒れは、肌が傷んでしまう何らかの要因があって肌が荒れてしまった、という結果なので、そもそもの原因が違うものです。
赤ちゃん(新生児)と子供(幼児・学童)で原因の特徴はある?
赤ちゃん(新生児)と子供(幼児・学童)で、アトピーの原因に違いはありません。
子供のアトピーの原因
数多くの患者さんを診察してきた経験を通じて、子供のアトピーの原因や0歳児の過ごし方について考えます。
多くの場合は「アトピー素因」の遺伝
アトピーになる原因として、多くの場合は遺伝によるものです。生まれた時から「アトピー素因」を持った方がいらっしゃいます。素因を持っている方は、アトピーなりやすいと言えます。但し、原因は遺伝によるものが多いですが、発症するかしないかは、外からの刺激や環境が影響します。
0歳児の寛容期が重要
0歳児の間のスキンケアがうまくいかないと、アトピーが発症する可能性が高まります。免疫学的には、「0歳児は寛容期」と言われており、0歳児の期間は、いろいろなものを食べたり、摂取することによって体が学習していきます。その期間中に、アレルギーを心配して原因となりそうなものを除去してしまうと、せっかくの寛容期なのに体が学習できず、かえってアトピーやアレルギーを誘発してしまうこともあり得ます。赤ちゃんの時期は、体にとってとても大事な時期なのです。
子供のアトピーの原因は検査でわかる?
精密な検査を行ってアトピーの原因を知ることよりも、アトピーの症状を軽減させるほうが患者さんには有意義だと思っています。アトピーか否かの判断は、信頼のおける小児科医による診断で行うのがよいでしょう。
赤ちゃん(新生児)の検査法
アトピーの定義は、「ちゃんとしたスキンケアや治療をしても、湿疹が半年以上続く場合」ということです。生後3ヶ月くらいでアトピーと診断されたという話を聞きますが、それは少し違うようです。半年か数カ月以上湿疹や肌疾患が続かないと、アトピーとは判断できないと思います。
アトピーを検査する際に、血液検査を行う場合もあるようですが、これはアトピーか否かの診断ではなく、アレルギーの原因を調べています。アトピーとは、「この物質が出たからアトピー」や、「この数値が一定以上だからアトピー」と判断されるものではありません。
子供(幼児・学童)の検査法
赤ちゃん(新生児)でも、子供(幼児・学童)や大人でも、検査方法に違いはありません。基本的には臨床診断です。成長に伴い、症状が皮膚の外側に出やすくなるため、親御さんや本人も自覚しやすいかもしれません。
アトピーの遺伝的原因
先にもお伝えした通り、アトピーの原因は、両親からのアトピー素因の遺伝です。ただし、これは原因であって、必ず発症するということではありません。
妊娠中の母親や母乳との関連は?
母乳そのものがお母さんのアトピーを子供にうつすことはありません。自分が卵アレルギーを持っていたりすると、それを気にして授乳中の食べ物を制限するお母さんがいます。しかし、それは少し違います。むしろ、子供のアレルギー予防のためには、まんべんなく食べていただいた方がいいです。そうすると、微量ずつ母乳に出てくるので、それが赤ちゃんの学習につながります。
お母さんの疲れやストレスは影響する?
育児中のお母さんは、とても大変で疲れてしまいますよね。免疫力も下がるので、お母さん自身がアトピーであれば、それが悪化する場合も多いです。とは言え、そのことが子供のアトピー発症に影響することはありません。また、母乳はお母さんの健康状態とは関係なく、むしろ、お母さんの健康状態が良くないときでも、母体は良い母乳を作り出す性質があるのです。それを考えると、お母さんの健康状態や母乳が子供のアトピーに影響することはないと言えます。
アトピーの環境的原因
直接的な原因は遺伝なので、環境的原因は二次的なものとしてとらえられます。
細菌やカビとの関連は?
本来人体にそんなに害のないものに対しても、異物と認識してそれを除去しようと免疫が働いてしまうのがアトピーです。免疫が働いた結果炎症を起こしてしまうので、空気中に浮遊しているほこりや、カビ・ダニ・ハウスダストなども、二次的な原因になり得ると言えます。
あまり神経質になり過ぎない
しかし、どんなに技術が向上しても、ハウスダストなどはゼロにはできませんから、あまり神経質になり過ぎず、環境を清潔に整えるようにすると良いと思います。
アトピーの心理的原因
子供の心理的な面においても、アトピーの二次的な原因として考えられることもあります。
発達障害との関連は?
発達障害が直接的なアトピーの原因になることはありません。発達障害が、アトピー発症や悪化のきっかけになる場合は考えられます。
遠因としての発達障害
発達障害があるからアトピーになるのではなく、発達障害がある子供の親御さんの手が回らず、結果スキンケアがおろそかになることでアトピーが発症・悪化してしまう、ということはあるかもしれません。
アトピーの摂取・吸引による原因
花粉やタバコの煙などの摂取・吸引も、アトピーの二次的な原因として考えられることがあります。
花粉やタバコとの関連は?
本来、花粉そのものには害はありません。また、タバコは人体に様々な影響をおよぼしますが、アトピーやアレルギーに関して言えば、タバコの煙だけでは炎症やアレルギー反応を起こすことはありません。花粉やタバコも、アトピーの直接的な原因ではなく、あくまで二次的な原因となる可能性がある、ということです。
摂取することで治す?
花粉症の治療には、あえてアレルギーを引き起こす物質を摂取することによって治す、舌下免疫療法という方法が行われます。
このことからもわかるように、とくに子供が赤ちゃんのころには、様々なものを食べさせたりして、体に学習させることが重要です。
アトピーの農薬・食品添加物による原因
農薬・食品添加物も、子供のアトピー発症の二次的な原因としてとらえられます。
食事や食べ物との関連は?
特にケミカル(化学的に合成した)なものに対しては「良くない」と言われがちですが、アトピーの発症について考えるときには、化学物質と天然のものを分けて、「ケミカルは悪い、自然のものは良い」としてしまうのも、少し違うのではないかと思っています。
例えば、オーガニックの肌着が良いと言いますが、それが含む物質に対してアレルギーを起こしてしまう人もいます。すべての物はアレルギーを起こしうるものなのです。
腸内環境との関連は?
腸内環境が悪い子供がすべてアトピーを発症するということはありません。アトピーの二次的原因として様々なことが考えられますが、これはアトピーに限ったことではなく、アレルギー全般に言えることです。どんなものでも、アトピーやアレルギー発症の可能性があります。その人にとって、アトピーやアレルギーになるかならないかの違いだけです。
アトピーの原因を理解する
環境的原因、心理的原因、摂取や吸引、食品添加物などがアトピーの原因になるのでは?と考え、過剰に反応してしまっていたママやパパもいらっしゃるのではないでしょうか。アトピーの原因をしっかり理解し、適切な対応をすることが重要です。
記事監修
神奈川県川崎市・北浜こどもクリニック院長。
1976年生まれ、埼玉県出身。2002年聖マリアンナ医科大学卒業。2006年からは山王病院の新生児科医長務める。2010年に北浜こどもクリニックを開院。2012年医療法人社団ペルセウス設立。The Japan Times誌の「アジアのリーダー100人」に、2015年から3年連続選出されている
文・構成/HugKum編集部