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「人を傷つけない笑い」を伝えていきたい
――オシエルズが学校でパフォーマンスしている「笑い」の出前授業、おもしろいのに「なるほど!」とナットクするものが多いですね!おふたりとも大学や大学院で教育学として笑いを学び、現在も短大や大学の教員であることも関係しているでしょうか。進路漫才®では「はたらく」意味を「傍 楽」と漢字で示して「ほかの人を楽にすることなんだ、つまり働くこととは社会をよくすること」と教えたり。
野村さん 高校では「働くとは何か?職業選択について」とか「社会人になる上で必要な能力とは?」などという内容で出前授業していますね。小学生だと「友達づくり、仲の良いクラス(学級)の作り方」「人を傷つける笑い、傷つけない笑いの違い」「イジメとイジリの違いは何か?」というような内容もあります。
――人を傷つけない笑い、イジメにならない笑いとは?
矢島さん 漫才を見てもらえればわかるのですが、簡単に言えば人を思いやる、相手を受け入れるということが大事ですよね。僕は小学生の頃デブと言われたし、野村は中学のときに「ガリ勉」と言われて、それを笑いに変えてきたけれど、友達が嫌がることはしない、傷つくような言葉を言ったりもしない。ふざけている人がいたら注意しよう、というのが原則です。

私たちがやっている出前授業で、「他人にされて一番うれしいコミュニケーションを」という内容で、コミュニケーションスキルとして「Yes,and」というのがあるんです。相手の言っていることをまず「いいね!」と受け入れて、自分の考えを「それに」と言ってつなげていきます。相手を否定しないで、受け入れてコミュニケーションしていく。

――相手を受け入れて会話する中に笑いを入れていく、と考えたら相手を傷つけず、イジメにもなりませんね!
笑わせようと一生懸命にやっている人を「応援する環境」が大事
矢島さん それと、自分が大学院で博士論文を書きながらピン芸人として実践もやっていたときに感じたことは、同じネタをやってもウケる現場とウケない現場があるということ。笑ってもらえると自信があるテッパンネタでも、ウケない現場もあるんですよね。
それって、結局オーディエンスだなって。お客さんが味方についてくれるというか、おもしろいと思ったらちゃんと笑ってくれる人たちだと、どんどん笑いが広がっていく。場の優しさって大事だし、ありがたいものだと思います。
――学校で笑いを教えていると、先生方からも「生徒をおもしろがらせるコツってありますか?」とか聞かれませんか?
矢島さん 聞かれます(笑)。でも、授業の中でネタのように何かおもしろいことをやろうとするより、普段の先生のふるまいのほうが大事かな、と思います。先生が学級の中でよく動いて、子どもたちの行動を自主的にサポートするとか、普段から笑いやすい環境を教室内で作るっていうことです。授業力とか、おもしろいトークとか、そういうのより、子どもたちがいつ笑ってもいい、っていう雰囲気が大事ですよね。
売れなかった頃は「自分たちでお金を出してライブ」をした、それもいい経験
――「笑い×教育」を論理的に、そしておもしろく伝えられるのは、教育学として笑いを研究してきたおふたりの漫才だからできることですね。ふたりの笑いは小中高校でしか聞けないんですか?
野村さん 学校で笑ってもらうというのがいちばんなのですが、それだけじゃなく、いろいろな場で笑いを提供してきましたよ。僕ら、短大とか大学医学部などで「笑い」をテーマにした講義をしています。矢島は学生時代に教職をとって教職大学院に行きましたが、僕は大学を卒業した後に教職をとって、それぞれ非常勤講師をしています。
矢島さん 生徒さんに教えるような「笑い×教育」の授業を、企業向けの講演会の形でやっていますし、自分たちのライブ活動もしています。結成したばかりの頃は自分たちでお金を払ってライブを見てもらっていました。ネタを考えて場所を押さえて会場費を払って、というのを年に10本も15本も。
なにしろ、「笑い×教育」なんてマーケットも難しいから、がむしゃらにやれることは全部やって、ずっとトライアルアンドエラーをしてきました。私は大学院で笑いをテーマに研究をしていましたが、博士論文が通らなくて。それはよくあることなんですが、まあ大学院で留年のような形になって、いろいろ考えた末に退学、その論文を小冊子にまとめて販売もしましたね。
――下積み時代は大変だったのですね……。
矢島さん でも、その小冊子をもとに本を出すことができたり、自腹でやっていたライブパフォーマンスが今の進路漫才®の土台になっていたり、当時は苦しかったけれど、結局全部役に立っているかなと思いますね。

子ども向けの「イジメにならない笑い」も大人向けの「ハラスメント研修」も同じ
野村さん ふたりでやって笑ってもらえればなんでもいい、と思ってやっていましたね。求められているものを実践することが学びになる。
おもしろいもので、企業研修で「笑いをまじえてハラスメント研修をやってくれ」と言われるんですが、それって学校でやる「イジメにならない笑い」とほぼほぼ同じなんですよ。ただ、「ハラスメント」とか「エビデンス」とかのカタカナが多くなったり、難しい漢字が多くなるだけで(笑)。相手がいやがることをやめようね、喜ぶことをやろうね、相手をしっかり受け止めようね、ということですから。
矢島さん 学校では、即興で子どもたちにも挙手して何かパフォーマンスをしてもらうことがあるんですが、そういうときって、目立ちたがる子が「はいはーい!」って手を挙げて、どんなもんだ、とやったりすることもあるんですが。私はあえてそうじゃない子、自信なさそうに手を挙げる子を指したりしています。めちゃくちゃ緊張してる子を、周囲の子たちがいい感じで応援するようにサポートして、「がんばれー、大丈夫だよ!」って雰囲気を醸し出すと、その子が最高のパフォーマンスをして笑ってくれる。
野村さん 学校には単発で行くことが多いですが、総合学習の一環として毎年行っているところもあって、そういうところだと、翌年行くと、「雰囲気、いい感じに変わっているな」と感じることがありますよね。優しい場になっているな、と感じる瞬間はうれしいですね。
矢島さん 『笑点』の大喜利で落語家さんが秀逸な答えを出しても、くだらない答えでざぶとんとられてすべっても、お客さんって拍手するじゃないですか。評価をするのではなくて、勇気をたたえる。学校でも同じです。スベるリスクをとってしゃべることって勇気がいるよね、すごいよねってみんなが拍手するのを見たときに、僕らは「役目をなしえたな」と思うんですよね。

「子どもと全力で遊ぶ」と子どもは自然と笑う
ーー家庭では保護者はどんな笑いの関係性を築いていくのがいいと思いますか?
矢島さん 僕は3人子どもがいるんですが、親が全力で遊ばないと子どもは心を開かないです。よく、公園で携帯をずっと見ている親御さんがいますけれど、あれはやめたほうがいい。子どもはパパママと遊びたくて公園に来ているのだから、鬼ごっこするときは全力で追いかけてください。私はサングラスかけて「ハンターです!」って言いながらガンガン追いかけます。すると、子どもたちがキャーキャー大喜びだし、いつの間にか公園のほかの子も加わって10人くらいになっている。お風呂でも全力で笑い疲れさせるから、ママに「早く出ろ」って怒られます(笑)。

野村さん 僕はまだ子どもがいないですけれど、公園で携帯見て、子どもが「パパ見て~!」って言ってるのにちょっとしか子どものほうを見ないでまた携帯見る、みたいな親にはなりたくないです。
矢島さん おもしろいことができなくてもいいんです。ミラーリングといって、子どものやる行動をおもしろいねって言ってまねるとか、オウム返しするとかでもいい。子どもがヘン顔したら、親が急に表情止めたり、ヘン顔で返したり、そんなのでもいい。親がおもしろがってまねすると、子どもはどんどん表現したくなりますよ。そして、笑いが湧き起こる。自分が笑いでその環境を変えるっていう経験をたくさんすることで、子どもの創造性が豊かになっていくと思います。
「笑いはみんなをハッピー」にするもの。1ミリでも多くみんなを笑わせたい
――オシエルズにとって、笑いってなんですか?
野村さん 僕は、「みんながハッピーになるもの」だと思っています。自分は本当におもしろいのかとか、いろいろ悩んだこともあるけれど、でも「笑い」が好き、みんながハッピーな状態が好きなんだな、と。それを「教育」として研究したり、「舞台芸術」として表現したりしてきました。みんなが声を出して笑える機会を1ミリでも増やしたくてオシエルズをやっています。これからも、学校を中心にふたりで「笑い」を広げて、みんなをハッピーにしていきたいですね!
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お話を聞いたのは
2013年結成。ボケの矢島ノブ雄とツッコミの野村真之介による
この記事を書いたのは
インタビューを中心に教育、子育て、医療、介護、食などのテーマで WEB・雑誌・書籍などの記事を執筆。お話を伺う方にたくさんの学びをいただいています。社会福祉士、法定成年後見人、中学校・高等学校教諭一種免許状、生涯学習2級インストラクター(栄養と料理)
写真(提供写真を除く)/深山徳幸