子どもの英語教育は「親が英語ができない家庭」のほうがうまくいく--英語アレルギーを生まない「教えない英語®」とは?

「子どもには、英語ができるようになってほしい」。そう願う保護者は多いですよね。ただ、親が良かれと思って「教える」ことこそが、実は子どもを英語嫌いにさせているかもしれません。
今回お話を伺ったのは、一般社団法人ペアリド 英語ペアリーディング協会 代表理事のゆっかさんことあべゆかこさん。1500人以上の保護者の悩みに寄り添い、「教えない教育」で自立した子どもたちを育ててきたあべさんに、「教えない英語®」の成り立ちと、家庭での実践法を伺いました。

英語が得意→成績不振に。正解よりも「過程」を認めてあげることの大切さ

――「教えない英語®」を思いついた、きっかけについて教えてください。

あべゆかこ氏(以下、ゆっかさん): 英語教室を始めた頃、熱心に教えていたのですが、教えれば教えるほど子どもたちが受け身になっていくことに気がついたんです。

一生懸命教えたり正解を与えたりしても、子どもってほとんど聞いていない(笑)。親や先生が「こうだよ」と教えこむのではなく、子ども自身に考えてもらい、自発性を引き出すように導く。そうすると、子どもは驚くほど自分でできるようになっていったんです。

「教えない」スタイルに変えてからの方が、子どもたちが生き生きと伸びていく。そう気づいたことがスタートでした。

――英語教室を始めたということは、もともと英語が得意だったのですか。

ゆっかさん:高校1年生の冬に、突然家族でニューヨークへ引っ越したのです。当時の私は日本の学校で英語の成績が良く、いわゆる優等生でした。でも、現地の高校に入った途端、まったく英語がしゃべれずに、見事に成績不振になりました。

――それは語学力だけが問題というよりも……。

ゆっかさん:積極的に話しかけたり、自分の意見を言ったりするのが苦手だったからですね。日本の学校教育って、授業中に手を挙げなくてもテストの点さえ良ければ評価されますよね。間違えたら恥ずかしいから発言しない。私もそういう子どもでした。

さらに、当時の我が家は厳しく批判的な家庭環境で、親の顔色ばかりうかがっていたので、「自分の意見を言う」という習慣自体がなかった。自己肯定感が低く、失敗を恐れて口を閉ざしてしまっていました。

――そこから変わるような出来事はありましたか。

ゆっかさん:アメリカの高校の、国語(英語)の授業での出来事です。「英語で詩を書く」という課題が出ました。最初「無理無理!」と諦めかけていたのですが、先生が「何でもいいから書いてごらん」と背中を押してくれたんです。辞書を何度も引き、たった2〜3行の韻も踏んでいない詩を何とか提出しました。そうしたら先生が、最高の評価である「A+」をつけて、教室の壁に貼ってくれたんです。

――英語が完璧だったわけではないのに、A+評価。

ゆっかさん:先生は完成度ではなく、私が一生懸命取り組んだ「過程(プロセス)」を認めて褒めてくれました。日本の教育は「正解か不正解か」の〇×思考になりがちで、大人も子どもに完璧を求めてしまいがちです。

でもアメリカの先生は、グレーゾーンや、失敗しても過程を認めてくれる。「間違っても認めてもらえるんだ」と気づいて、自己肯定感を取り戻しますことができました。

そのあと、アメリカの大学を卒業して帰国し、翻訳と通訳の仕事に就きました。でも私には技術知識がなかったことから、「自分が間に入るより、みんなが自分の言葉で直接専門分野や思いを伝えられた方がいい」と思うようになって……。「私、いらないじゃん」と思って仕事を辞めて(笑)、英語教室を立ち上げたのです。 

「やる気が一気に奪われる」--教えることが逆効果なワケ

――英語は「教えるもの」というイメージがありますが、それを推奨しないのはなぜですか。

ゆっかさん:子どものやる気が一気に奪われてしまうからです。

あるご家庭で、英語が得意なお母さまが「発音だけは早いうちに直さなきゃ」と、お子さんが英語の本を音読している横で全部発音を直してしまったことがありました。するとお子さんは「もうこんなのやらない!」とかんしゃくを起こして、読むこと自体をやめてしまったんです。

子ども自身は楽しく読もうとしていただけなのに、横から余計なアドバイスや修正が入ると「否定された」と感じてやる気がうせてしまいます。

――お母さんとしては親切心でやっていますけど……。

ゆっかさん:親が先回りして教えたり正解を与えたりすると、子どもは「待っていれば親が教えてくれる」と受け身になり、自分で考えるのをやめてしまいます。さらには間違いを恐れて発言できなくなったり、親子バトルになって英語嫌いになったり。

実は、「親が英語ができないご家庭」のほうがうまくいくことが多いんですよ。

――「親が英語ができない」ほうがうまくいくのは、意外ですね。

ゆっかさん:親が教えられないからこそ、子どもがちょっと英語を話しただけで「すごい! ママ全然読めないのに、そんなこと知ってるの!?」と本気で感動できますよね。親に褒められ、認められることで子どもの自己肯定感が上がり、「もっとやってみよう」と自発的に学ぶようになるんです。

――ただ、英検に受かってる子やペラペラな子を見たりすると、どうしても焦ってしまいます。

ゆっかさん:親御さんたちが抱えている悩みの本質は、実は「見えない未来への不安」なんです。「今のままじゃダメかも」「将来困るんじゃないか」と、自分に対しても子どもに対しても信じきれなくなってしまう。

アメリカでは、子どもが下手な楽器の演奏をしても「すごいね!」と、めちゃくちゃ褒めますよ(笑)。「このまま行ったら楽器が下手な子に育つ」なんて考えない。英検だって、その子が本当に取りたくて取ったのか、親が取らせたかったのか、教室が取らせたかったのかはわかりません。

だから、英会話教室を「英検の合格実績」で選ぶのは危険なんです。もちろん「英語ができるようになりたい!」と強く思ってる子には教えてあげるべきですが、今のレベルや気持ちに合っていないと、テクニックだけで英検に受かってしまい、本当の意味でのコミュニケーション力が伸びないこともあります。

子どもは親とは違う人間です。親の理想像を押しつけて形だけ「ネイティブみたいに」「早く合格を」と焦る必要はまったくありません。

「インプットが先」がコツ。英語は関係なく「体験の幅を増やしてあげる」

――具体的に、家庭では今日からどんなことから始めればいいでしょうか。

ゆっかさん:まずいちばん大切なのは「インプットが先」ということです。「英語を話せるようになってほしい」と思うと、つい英会話スクールに通わせたりしゃべらせる練習をさせたりしがちですよね。でも、頭の中に何もない状態でアウトプットなんてできません。

音が出る英語の絵本を聞いたり、動画やアプリで楽しく英語の音や言葉をインプットできたりする環境を作ってあげましょう。

――英語アレルギーや苦手意識がある子には、どう対応すればいいですか。

ゆっかさん:親が「やらせよう」とするから拒否反応が出るんです。親自身が「これ面白いな」と英語で楽しんでいる姿を見せないといけない。親自身が英語のニュースや、洋楽を家で流したりするのもいいですね。

あとは、英語アレルギーがある子って、間違いを指摘されてきた子が多いんです。だから、子どもをコントロールしようとするのをやめて、日常の指示や先回りも減らしてみる。「水飲む?」と聞くのではなく、あえて「ズボラな親」になって子どもが自発的に「喉が渇いた、お水ちょうだい」と言えるチャンスを作るんです。

「傘持っていきなさい」と指示して失敗を回避させるのではなく、失敗から自分で考えさせる勇気を持つ。日本語でも英語でも、まずは自分で考えて自分の意見を言える「おしゃべりな子」に育てることが土台になります。

――おしゃべりになるには、安心して話せる環境じゃないと難しいですよね。

ゆっかさん:海外の研究でも証明されていますが、緊張状態では語学を学べません。間違えるたびに文法や発音を細かく直されたり、算数だって間違えたら「ちゃんと復習した?」と監視されたりすると、子どもは身構えて口を開かなくなります。そういう子には家庭では「間違えても大丈夫」「笑われない」という安心感を作ってあげてください。

――最後に、子どもの英語教育に悩む保護者の方へメッセージをお願いします。

ゆっかさん:小学校低学年くらいまでは、まだまだ時間にゆとりがあります。まずは子どもが「好き!」と思えるもの――旅行でも、YouTubeでも、いったん英語は置いておいて、その「好きなこと」を親子で全力で楽しんでください。

だって、料理をしたことがなかったり、海に行ったことがなかったりすれば、英語でその単語を習っても、ピンときませんよね。遠回りに見えて、実はそれが英語ができるようになるいちばんの近道だったりします。

ゆっかさんの書籍はこちら

あべゆかこ ‎ Independently published ¥1,320 (税込 )

教えない英語®とは、子どもたちの自己肯定感を高め、自ら英語を学びたい気持ちを引き出す英語教育メソッド。お子さんと楽しく取り組めるおうちでの英語の学び方を掲載!

著者プロフィール

あべゆかこさん 一般社団法人ペアリド 英語ペアリーディング協会 代表理事

東京都文京区出身。高校在学中に家族でニューヨークに移住。英語がわからない上、内気な性格で成績不振になるも、現地校の先生の声がけをきっかけに変化、ニューヨーク大学に進学、成績優秀者リストに選出されるまでに。卒業後は富士ゼロックス(株)にて15年間、翻訳・通訳・商品企画等に従事。
2013年英語教室「コミオ英語教育ラボ」を設立、自身の経験をベースに開発した「教えない英語®」の教育メソッドを活用し小学生から大人まで600人以上に指導。2019年12月、「教えない英語®」のメソッドをご家庭に伝え、家庭の中から国際人育成をめざす「一般社団法人ペアリド 英語ペアリーディング協会」https://www.oshienaieigo.com/ 設立。スーパー国際人クラブを運営。1500人以上の親御さんに英語だけではないスーパー国際人教育を伝えている。大学生2男児の母。

この記事を書いたのは

綾部まと ライター・作家

三菱UFJ銀行の法人営業、ユーザベースのセールス&マーケティングを経て独立。ビジネスやマネーの取材記事から、恋愛小説まで幅広く執筆。2025年よりフランスに拠点を移し、フランス企業の日本進出支援(ローカライズ)やフィクションの翻訳にも携わる。3児の母。

X:@yel_ranunclus
Instagram:@ayabemato

こちらの記事もおすすめ

日本の公立校で国際教育が受けられる「国際バカロレア」の公立高校からトロント大学、北海道大、早稲田大に合格。共通テストなしで大学に行った吉田志織さんの体験記
日本の公立校なのに、少人数で深い探究学習と論文・体験主体の教育 ――吉田さんは、東京都立国際高校(目黒区駒場)で国際バカロレア(IB...

編集部おすすめ

関連記事