子ども達の発想や感覚は、すでに「ファッション」の本質を知っている
—飛田さんは、大学生にも中学生の女の子たちにもファッションのワークショップや、講義をされていて。今回、幼児と呼ばれる子どもたちと制作をしていて最初に感じたことを教えてもらえたらうれしいです。
自分にも二人の子どもがいて、日常にも感じていたのだけれど、子どもって、3分で到着できる場所に、30分かけて行くじゃないですか。そこに驚くことがたくさんあるなと思って。
—ああ、すごくわかります。
利便性や、経済的なこと、忙しさ、そんなところじゃなくて、大人として大事なこと、忘れていることたくさんあるなと思います。だから、保育園に来て教えてあげようという気持ちよりも、自分の持っている関係や持っているものを最大限子どもたちに手渡したいと思います。実際、子ども達から教えてもらうことが多いです。子ども達の発想や感覚は、もうすでに『ファッションを知っている』のだなと思います。
—私も始めてみて思ったのですが、好きな子だけがやるんじゃなくて、クラスみんなでやってみようとなったじゃないですか。それで、どうなるかなあーと思ってみたら、やりたくないって子がいなくてビックリしました。もちろん、完成までの時間は一人一人違うから、終わった子は他のことをしていたりする余白を設けて挑めたというのもあるのですが。ファッションって、正解がないから、いいテーマだったのかなと今も感じています。
僕も、木に登る、水に潜る、服を作る、そんな風に感じてもらえたらいいなと思っているんですよ。ファッションもその仲間に混ぜてって思うんです。息子も虫が好きで、夜の暗い中、一緒にセミの脱皮を見に行ったんです。その時間だけでも本当にいい時間だなと思うし。それと同列ですね。
—よく、「子ども達が好きなことをすること=わがままに育つ」と言われることがあるんですね。でも、好きなことを貫いた経験がない大人がそう思うんじゃないかなと思って。ままならない人の暮らしの中で、自分の好きなこと心地よいと思うことを大切にできるって貴重だと思うんです。それが何かものを作ることだけではなく、空をながめること、穴を掘ること、ゴロンとすること……。飛田さんは小学生の男の子のお子さんがいますが、日常に子育てというものが入ってきて、そこに気持ちの変化はありましたか?
そうですね。子どもを育てていると、人様に迷惑をかけちゃいけないという、産んで育てる責任感を感じている人も少ないくないでしょうね。でも、自分も子どもが好きなことを見つけて来たら、応援したいですね。最近、息子たちも自分の父親がファッションデザイナーだというがうれしいみたいで、友達に話しているみたいです。僕はちょっと照れますが。ずっと仕事をして来ましたが、家庭ができて、初めて仕事が辛いと思いましたね(笑)。家に帰りたいな、って初めて思いました(笑)。
子どもの五感をなめちゃいけない。子どもとの制作現場は、良い物、良い仕事の根源が見える
—ふふふ、そうでしょうね。今の話を聞いていても、やっぱり、身近な大人が幸せに仕事をしている姿は大きいと思います。しぜんの国でも、それを目指しているんですよね。子どもを取り巻く大人も、幸せでいないといい空気は生まれないので。ところで、園へのワークショップ以外にも、宮崎県の都城市立図書館でのファッションの場を監修していると聞きましたが、それについても教えてもらえますか?
自分自身が、若い頃から図書館という場には馴染みがなくて(笑)やんちゃだったから。でも、このプロジェクトはおもしろくて。図書館に、「Fashion Lab.」と呼ばれるスペースを作って、そこでミシンを使えたり、シルクスクリーンができたりするんです。その場所を、僕たちが監修して、夏にはワークショップも開催しました。今では、ここが若い子たちのデートスポットになり始めています。コンビニでたむろする子も少なくなると良いですね。子どもたちとのワークショップもそうですけど、ファッションやアート作品は、やりやすさを求めすぎると発見がないんですよね。簡単にやり過ぎちゃだめ。まぁ、モテたいとか、かっこいいと思われたい、とかでもいいんですけど(笑)、五感の中のファッションをなめちゃいけないな、と思うんです。そう考えていくと子どもという存在は無視できないなと思っています。
—毎回、飛田さんと保育者とワークショップの後に、振り返りをするんですけど、飛田さんがしっかりと保育者の話を聞いてくれて、それで飛田さんの話もしてくれて。その時間が、私は好きなんです。ワークショップも含めて、保育者の感性も開いてくれるような時間だと思います。
大人の方が、思考回路がカチコチになっていることが多いと思うんですけど、しぜんの国のメンバーはみんな、たくさん話してくれますよね。その熱が子どもたちにもじわじわ伝わっていると思います。こうして、保育士のメンバーと、『一緒にやっていこうぜ!』っていうチームでやれるのも面白いです。子どもたちとの現場は、トレンドとか利便性とか、ビジネスとかに囚われていない、良い物、良い仕事の根源を見ているような気がします。
飛田正浩(とびたまさひろ)
ファッションデザイナー。埼玉県生まれ。多摩美術大学卒業。染織デザイン科在学中からさまざまな表現活動を「spoken words project」として行う。卒業を機に「spoken words project」をファッションブランドに改め、1998年東京コレクションに初参加。手作業を活かした染めやプリントを施した服づくりを行っている。PUMAなど他ブランドとのコラボレーションや新ブランドの立ち上げ、芸術祭参加などその表現領域は多岐にわたり、アパレルブランドの枠を超えて活躍中。http://spokenwordsproject.com/
取材を終えて
飛田さんの、大人だったら、3分で歩けるところを子どもは30分かかる、でもその30分の中に驚くことがたくさんあるという話を聞いて、私も本当にそうだと思いました。子どもの歩幅に合わせて見える風景には、きっと私たちが忘れかけている大事なものがたくさんあるのだと思うのです。
しぜんの国という場所で、子どもたちの暮らしを真ん中に、こうしたらいいかな、と話し合いながら、制作をすること。目の前の子どもたちの「今」の感性に、飛田さんと一緒に愛を持って喜び合えること。
子どもたちとのワークショップは、まだまだ続きます。そのプロセスを、子どもたちは、回り道をしながら進んでいきます。その時間の豊かさを、私たちもおおらかにかまえて、向き合っていきたいと思います。
子どもが集まる場所で、大人も幸せに暮らしたい。その相互の関係が豊かな文化を作っていく。そんな思いを胸に始めた、しぜんの国保育園smallvillage、これからファッションを通じて、どんな心の動きが育まれていくのかこの目で見て見たいと強く思います。
齋藤美和(さいとうみわ)
しぜんの国保育園smallvillage園長。書籍や雑誌の編集、執筆の仕事を経て、2005年より「しぜんの国保育園」で働きはじめる。主に子育て支援を担当し、地域の親子のためのプログラムを企画運営する。2017年当園の副園長となる。また保育実践を重ねていくと共に『保育の友』『遊育』『edu』などで「こども」をテーマにした執筆やインタビューを行う。2015年には初の翻訳絵本『自然のとびら』(アノニマスタジオ)が第5回「街の本屋さんが選んだ絵本大賞」第2位、第7回ようちえん絵本大賞を受賞。山崎小学校スクールボード理事。