働いているお母さんへ。子どもと過ごす時間は「量」より「質」、後ろめたく思わないでください【子育ての道を照らす佐々木正美さんの教え】

児童精神科医として半世紀以上、子どもの育ちを見続け、お母さんたちの悩みに寄り添ってきた佐々木正美先生。今も、先生の残された子育てのについての著作や言葉は私たちの支えとなっています。佐々木先生が残してくれた子育てにまつわる珠玉のメッセージをご紹介します。

子どもとの時間は「量」より「質」が大切です

 女性の社会進出が進み、さまざまな働き方が可能になったいま、働くお母さんが増えています。そして、そんなお母さんたちから「子どもと接する時間が少ないのですが、大丈夫でしょうか」という相談をされることが多くあります。

 しかし、保育園に預けて働いているから育児がうまくいかないとか、子どもがうまく育たないかもしれないといった心配は、まったくありません。お母さんが働いているから育児が下手というわけではないのです。専業主婦で育児の下手な人もたくさんいますから安心してください。

 働くお母さんに育児に対する不安を相談されたとき、私はお子さんと密度の濃い時間を過ごすように助言しています。

子どもと一緒に過ごす時間は、「量」より「質」が大切だからです。

 そして、「子どもの望む親でいることを心がけてください」とお願いしています。そうすることで、子どもの心は安定し、健やかに生活することができます。

保育園や幼稚園での別れどき、子どもが泣くのは当たり前です。園の先生を信じて、明るく子どもを送り出しましょう。

 それまでずっとお母さんと一緒に生活していた乳幼児の場合は、保育所に預けられると、最初は朝の登園時に泣いたり、駄々をこねたりすることもあり、戸惑うことも多いでしょう。しかし、それは新入園の子どもの、誰もが多かれ少なかれ通る道です。

 その子の性格や個性によって程度の差はありますが、しばらくして、お母さんが必ず迎えに来てくれることがわかり、保育所の先生やお友だちに溶け込んでいくに従って、親離れができるようになります。

別れ際の子どもの泣き叫ぶ姿を見て、心を傷めるお母さんが多いですが、園の先生方を信じて、子どもをきっぱり預ける覚悟で、登園時は明るく子どもを送り出しましょう。

 いつまでもお母さんが心配していると、その不安定な気持ちが子どもに伝わって、園生活になれるのがかえって遅くなる場合もあります。子どもは親の心を敏感に感じることができるんですよね。

 

重要なのは、働いていることを理由に子どもに言い訳をしないこと

 子どもを園に預けることを心配するより、お母さん方に考えていただきたいことは、家庭での親子の時間をどう過ごすのか、心を配ることです。

 働いていないときに比べて、子どもと一緒に過ごす時間は確実に少なくなりますが、工夫次第で密度の濃い時間を過ごすことができます。

 私が出会ったお母さんの例をお伝えしますと、あるお母さんは、食事の後片付けは子どもが寝てからにして、起きているときには、子どもとゲームをしたり本を読んだりしていました。いつでもできることは後回しにして、子どもとの時間を優先することを生活の基本にしていたんですね。

 また、あるお母さんは子どもの食べたいものを聞いてから夕食を作るようにして、食事を作るときは、子どもに野菜の皮をむいてもらったり、テーブルに食器を並べてもらったりして一緒に食事を作っていました。

 こんなふうに、それぞれの家庭の事情に合った親子の時間の過ごし方を考えてみるといいと思います。子どもと一緒に過ごす時間が短くても、その時間にしっかり子どもと接してあげれば、子どもというのはある程度のことには耐えられるし、傷つくこともありません。子どもの育ちのうえでの問題も起きないと思います。

重要なのは、働いていることを理由に、子どもに言い訳をしないことです。

 

「お母さんは仕事をして、疲れているんだから、うるさいことを言わないで」

「お母さんは仕事で忙しいのだから、それは無理」

 

こんな風に言ってしまったり、そういった気持ちが子どもに伝わり過ぎないように気を付けてもらいたいのです。とはいえ、ときには仕事の疲労からついイライラしがちになり、子どもの希望を無視したり、叱ったりしてしまい、後悔することもあるでしょう。そんなときには、子どもに素直に謝ってください。

 

そのうえで、「子どもの望む親でありたい」と思い、それをできる限り実践しましょう。この基本的な姿勢を保っていれば、子育ては大丈夫。お母さんの頑張っている姿を見て、子どもはむしろ多くのことを学ぶと思います。

 実は、こういったことはお母さんだけでなく、お父さんにも心がけていただきたいことなんですよね。

疲れているのは親だけではない。子どもも園で疲れています。そのことを忘れずに子どもの望むことを満たしてあげてください。

 とはいえ、お母さんが仕事で疲れているように、幼い子どもも園という社会で気を張って疲れて帰ってきています。このことを忘れずに、たとえわずかな時間でも構いません。できるだけ子どもの望むことを満たしてあげてください。

 お母さんの仕事のストレスが、子どもと接することで癒される。そんな時間が持てたなら、親子の最高のふれあいになりますし、それがいちばん大切なことだと思います。

教えてくれたのは

佐々木正美|児童精神科医

1935年、群馬県生まれ。新潟大学医学部卒業後、東京大学で精神医学を学び、ブリティッシュ・コロンビア大学で児童精神医学の臨床訓練を受ける。帰国後、国立秩父学園や東京女子医科大学などで多数の臨床に携わる傍ら、全国の保育園、幼稚園、学校、児童相談所などで勉強会、講演会を40年以上続けた。『子どもへのまなざし』(福音館書店)、『育てたように子は育つ——相田みつをいのちのことば』『ひとり親でも子どもは健全に育ちます』(小学館)など著書多数。2017年逝去。半世紀にわたる臨床経験から著したこれら数多くの育児書は、今も多くの母親たちの厚い信頼と支持を得ている。

写真/山本彩乃  構成/山津京子

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