分身ロボット『OriHime』開発者に突撃!不登校時代の孤独感が開発の原動力に

 

分身ロボット「OriHime」とは?

人が遠隔操作して動かすロボット『OriHime』。病気や療養などで外出できない人や育児や介護などで出社できない人、不登校や病気などで学校に行けない子どもなど、行きたいところに行けない人の分身として、OriHimeが代わりにその場所へ行ってくれます。 

OriHimeは、遠く離れた場所からパソコンやスマホのインターネットを介して操作します。操作する人は「パイロット」と呼ばれ、OriHimeに搭載されているカメラ・マイク・スピーカーを通して景色を見たり、会話をすることができます。

 このOriHimeを開発したのが、ロボットコミュニケーターの吉藤オリィさん。株式会社オリィ研究所の所長として、OriHimeを使った様々なプロジェクトに携わっています。

『小学8年生』12・1月号(発売中)の特集では、プロジェクトのひとつ、OriHimeを使った分身ロボットが働くカフェについて紹介しています。

分身ロボットOriHimeに対する思いや今後について話をうかがいました。

 

 引きこもりだった子ども時代に感じた「孤独感」を何とかしたかった

 OriHimeはもともと福祉分野での活用をテーマとしていました。病気やケガなどで寝たきりだったり、車椅子での生活を送っていたり。そんな人たちが、行きたいところに自由に行けるようにしたいと思ったんですね。

そもそものきっかけは、私の子ども時代までさかのぼります。体が弱く病気がちだった私は、入院したことをきっかけに、小学校5年生から中学校年生まで不登校になってしまった。いじめにあったこともあり、学校はあまり好きではなかった。けれど、学校に行けないことで劣等感と無力感にさいなまれるようになり、人が怖くなって引きこもるようになってしまったんですね。

  オンラインゲームを突破口に、ロボット開発へ

そのときに味わった孤独感から、その場所に自分(体)がいなければ不参加になってしまう。それでも参加するにはどうしたらいいのだろうということをずっと考えてきました。今の世の中は、体がその場所にいないと不参加にされてしまう。ということは、入院して学校に行けない子や、障がいがあって外に出られない人たちは、その場所に行きたい、参加したいという意思はあっても、簡単に不参加にされてしまうんです。それをどうにかしたいという思いは常に抱いていました。

『自身が行けなくても、その場所にいる、参加している』という形にするには、どうしたらいいのか、どんな方法があるのか、いろいろ考えた結果として、やはりインターネットをつかって何かできないかと思い至りました。例えば、オンラインゲームなら、インターネットを介してたくさんの人たちとつながり、ゲームで遊ぶことができる。それはまさに、体をその場所に運ばなくても『ゲームに参加している』といった概念がありますよね。それならば、もう一人の『分身』をその場所へ行かせ、インターネットを介してその『分身』を操作することで『参加』する形にできないかと。それが分身ロボットOriHimeの誕生につながりました」

 

 分身ロボットカフェを期間限定でオープン!

注文を受けたドリンクをテーブルに運ぶのは、身長120㎝で手も長く、自由に動くことができるOriHime-Dが担当。こちらもパイロットが遠隔で操作する。

 

今年10月に「分身ロボットカフェ DAWN ver.β2.0」を期間限定でオープン(※今年度のイベントは10月23日で終了)。体が不自由で寝たきりの人や難病のために仕事に就けない人などがインターネットを介して、店内にいるOriHimeやOriHime-Dを操作し、飲み物の注文を取ったり、給仕するなどの接客を行いました。

この分身ロボットカフェ・プロジェクトは昨年も期間限定で運営し、今年は昨年の反省や改善点などを反映させました。分身ロボットを操作するパイロットも昨年は10人だったのを今年は30人に大幅増員。給仕役、接客役、注文を受ける役など、担当を細分化しました。

OriHimeは各テーブル上で客の注文を取ったり、会話を楽しんだりした。

「分身ロボットカフェは、寝たきりの人でも分身ロボットを使えばカフェなどの接客業を務めることができるのかという実験的なものです。訪れたお客様や実際に働いたパイロットたちの意見や感想を吸収しながら、反省点、改善点を探り、最終的には常設店としてのオープンをめざしています」(吉藤さん)

 

 実際に働いたパイロットは寝たきり生活の方々

 

分身ロボットカフェで、パイロットとして参加した永廣柾人さん。自宅のパソコン画面から、店内の様子を確認し、接客やマネージャー業務をこなした。

カフェでパイロットとして働いたのは、病気や障がいなどで寝たきりだったり、外に出られない人たち。カフェでのOriHimeを自宅や病院で遠隔操作しました。実際に働いてみてどうだったのでしょう。

パイロットの1人、永廣柾人さん(26歳)は、脊髄性筋萎縮症で寝たきりの生活を送っています。昨年、インターネットで分身ロボットカフェのことを知り、パイロットに立候補、昨年に引き続き今年も参加しました。

 

「去年は、OriHimeを通して飲み物を運べるのか、とても不安でした。運営側も初めてのことだったので、混乱した部分もありました。けれど、今年は、昨年の反省や経験を生かしてなんとか業務をこなせたかなと思っています。今年はマネージャーとして、パイロットたちの相談にのったり、オープニングセレモニーでのテープカットや司会などの大役を任されましたが、なんとか乗り切ることができてホッとしています。

ふだんの自分からすれば、非日常的で刺激的で毎日が本当に楽しくて。カフェでパイロットとして関われたことで、たくさんの人と出会うことができました。ここで出会えた仲間とはこれからもずっと付き合いは続いていくんじゃないかなと思います。それから、寝たきりでは何もできないと思っていたけれど、カフェで働けたことで、人の役に立てる喜びを知ることができた。『これで終わり』ではなく、またチャンスがあれば、これからもどんどん挑戦していきたいですね!」(永廣さん)

身ロボットカフェは大盛況のうちに終幕。来年は、オリンピック期間中のオープンをめざすそう。

 

 「できなかった」ことが、たくさんの「できる」に変わる!

OriHimeを使った様々なプロジェクトは今、各地で実を結んでいます。

・大学病院と地元の小学校が連携し、入院中の子どもがOriHimeを使って授業を受けたり、友だちと交流を楽しむ。

・音楽の祭典で、コンサートをOriHimeで鑑賞してもらう。

・病気で寝たきりの女性の夢をかなえるべく、サポート隊がOriHimeと一緒に登山し、頂上の景色や登山客との会話を楽しむ。 

このように、自宅や病院などから、OriHimeを通して、外の世界を楽しむことができるようになったのです。

 

さらに、OriHimeは政治の世界にも進出。内閣府副大臣の平将明さんが、東京・蒲田の事務所にOriHimeを設置。ご自身は永田町にある副大臣室にいて、蒲田の事務所にいる秘書との打ち合わせや会議などでOriHime「タイラくん」を通して参加。いずれは、病気や産休中で国会に出席できない議員の代わりとして、運用できればと考えているそうです。

 

また、参議院議員の舩後靖彦さんは、筋萎縮性側索硬化症(ALS)を患い、手足を動かすことができません。現在、国会ではPCを使い、代読で答弁に臨んでいますが、将来的には、OriHimeを使いたいと強く希望しています。国会中継で、舩後さんのOriHimeを見られる日はそう遠くないかも。

また近い将来、分身ロボットカフェで活躍していたOriHime-Dが、『誰か』の代わりに街中を歩いている景色が見られるようになるかもしれませんね。

 OriHime公式サイト https://orihime.orylab.com/

 

【吉藤オリィさんプロフィール】

本名・吉藤健太朗。1987年・奈良県出身。株式会社オリィ研究所 代表取締役所長。ロボットコミュニケーター。小学校5年生から中学2年生まで不登校を経験。心配した母親が応募したロボットコンテストで2度優勝する。このときに出会った恩師が勤める工業高校に進学し、自動で姿勢を水平に保ってくれる水平制御機構の電脳車椅子「Wonder」を開発。JSEC2004(第2回ジャパン・サイエンス&エンジニアリング・チャレンジ)で文部科学大臣賞、さらに世界最大の科学大会Intel ISEFGrand Award 3rd.を受賞する。これをきっかけに、たくさんの相談が舞い込み、話を聞くうちに自身と同じように孤独を感じている人々がたくさんいることに気づく。このときから、「人々の孤独を解消する」ことが人生のテーマとなる。2009年より早稲田大学で分身ロボットの研究開発に勤しみ、2012年、株式会社オリィ研究所を設立。青年版国民栄誉賞「人間力大賞」、スタンフォード大学E-bootCamp日本代表、雑誌AERA「日本を突破する100人」、アメリカの雑誌フォーブス「304Under 30 2016 ASIA」などに選ばれる。

 

オリィさん著書紹介

『孤独は消せる』
私が「分身ロボット」でかなえたいこと
吉藤健太朗サンマーク出版刊定価1400円+税

オリィさんの子ども時代から、OriHime開発に至るまでの日々を綴った一冊。

 

取材・文/天辰陽子

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