困難にぶつかって挫けそうになった時、「自分ならまだやれる」と思うのか、それとも「自分なんて駄目だ」と思うのか、この違いによって、きっと人生の歩みは変わってきます。
自分を前向きに信じてあげられるか、信じられないかの分かれ道になる土台は、自己肯定感の有無だと言われています。そこで今回は自己肯定感の高め方をまとめてみました。
自己肯定感とは?
冒頭では自己肯定感という言葉を使いました。この自己肯定感とは何なのか、あらためておさらいしておきましょう。
自己肯定感の意味と定義は?
過去の内閣府の調査(平成26年度「子ども・若者白書」)には、「自分自身に満足している」と回答した子どもの割合を、日米で比較している個所があります。
結果は、アメリカの子どもが86%、日本の子どもたちは45.8%が、「自分自身に満足している」と答えています。
この数字の違いにも驚きですが、注目は設問の方。「自分自身に満足しているか?」との問いを見ても分かるように、自己肯定感とは「(短所を含めたありのままの)自分自身に対する満足感」とも定義できます。
この満足度が低ければ、自分の短所ばかりを気にする子どもになってしまいます。自分の長所ですら「不十分だ」と納得ができない子どもになってしまうかもしれません。
結果として自分を好きになれず、自分を卑下して、最悪の場合はわざと自分を傷つけたり、自分の体や命を粗末にするような行動につながってしまう場合もあるかもしれないですね。
自己肯定感と自尊心の違いは?
自己肯定感に似た言葉で、自尊心もあります。自己肯定感と自尊心は、何が違うのでしょうか。まず、自尊心を辞書で調べると、
<自分の思想や言動などに自信をもち、他からの干渉を排除する態度。プライド>(小学館『大辞泉』より引用)
とあります。プライドとは日本語にすると「誇り」だとか「自負心」で、「誇り」とは難しく言えば、「矜持(きょうじ)」とも言えます。「矜持」とは、
<自分の能力を優れたものとして誇る気持ち>(小学館『大辞泉』より引用)
です。要するに自尊心とは「自分で打ち立てた能力に対する誇らしい気持ち」と言えるのですね。
自己肯定感は、この自尊心とは全く違います。あえて上の定義と関連付けて言えば、「別に誇らしい能力がなくても、その不十分な自分自身に満足できる気持ち」が自己肯定感です。
「リレーでクラスの代表に選ばれた理由は、自分がクラスで一番足が速いからだ」という気持ちが自尊心なら、「リレーに選ばれなくても、別に自分は自分で価値がある」と思える気持ちが、自己肯定感なのですね。
自己肯定感が高い人の特徴
自己肯定感が何かは、理解できたと思います。では、自己肯定感が高い人(子ども)には、どのような特徴や共通点が見られるのでしょうか。
物事を明るい面から考える
文部科学省の資料(※自己肯定感を高め、自らの手で未来を切り拓ひらく子供を育む教育の実現に向けた、学校、家庭、地域の教育力の向上)によると、この中では、自己肯定感が高い子どもほど、「挑戦心」が強いという分析結果が示されています。
自己肯定感の高い人は、仮に能力が欠けていても自分に満足できる(物事をプラスに見る習慣がある)ように、何を見ても明るい面を見ようとする傾向があるからかもしれません。
挑戦する気持ちが強くなれば、成功の回数もおのずと増えます。必然的に、達成感も高くなるはずです。その好循環の中で、「努力すれば報われる」と考えられる子どもにもなるのですね。
自己肯定感が低いとどうなる?
逆に自己肯定感の低い人(子ども)には、実生活の中でどのような特徴や共通点が見られるのでしょうか。
物事を暗い面から考える
自己肯定感が低い子どもたちは、物事を暗い面から考える傾向が強いと知られています。自分自身の評価にしても、足りない部分、至らない部分ばかりに目を向け、その自分を許せないわけです。
何を見ても、ネガティブに考える習慣があります。物事をネガティブに考える習慣がある子どもは当然、挑戦を避けます。挑戦をしなければ、達成感を得る機会も少なくなります。少ない挑戦の中で失敗をすれば、なおさらその失敗を根に持ち、「努力しても報われない」「日本は競争が激しい社会である」と思ってしまう傾向も出てきてしまいます。
社会に対してプラスの意識が働きにくい子どもは、当然ながら「社会のルールを守ろう」という規範意識も下がります。上のような悪循環にはまり、なかなかそのループから抜け出せなくなってしまうのですね。
子どもの自己肯定感を高める工夫とは?
では、どのような工夫をすれば、自己肯定感の高い子どもを育てられるのでしょうか。
ネガティブな言葉をポジティブな言葉に置き換えてみる
真っ先に取り組みたい身近な工夫は、親自身の言葉遣いです。子どもの自己肯定感は、親の声掛け、態度で大きく左右されると分かっています。親の何気ないネガティブな言葉によって、知らずに子どもの自己肯定感を下げている危険性もあると指摘すらされているのですね。
例えば「なんでそんなに恥ずかしがり屋なの」、「もう、お前はいつも落ち着きない」、「散らかしてばかりいて」といったネガティブな声掛けが積み重なると、子どもは自分を「落ち着きない子」「いつも散らかす子」と考えるようになります。
逆を言えば、ママ・パパの言葉をポジティブに置き換えるだけで、子どもの考え方、感じ方にもいい影響が与えられます。例えば同じ言葉でも、
- あと5分しかない→まだ5分もある
- 落ち着きがない→いつも元気で生き生きしている
- 怒りっぽい→自分の気持ちを素直に出せる
- 心配性→準備を前もってできる
と、いくらでも置き換えは可能なはずです。
親が言葉を変えれば、親自身もポジティブになれます。そのポジティブさが子どもに伝われば、子どももポジティブに物事を考えられるようになり、自分自身をポジティブに考えられる可能性も高まるのですね。
親子で遊ぶ
子どもの自己肯定感を育む上で、遊びも大切だと分かっています。遊びを通じた成功体験の積み重ねが、自己肯定感を育むと知られています。
遊びを通じて自己肯定感を高めるためには、
- 子どもが熱中しておもちゃで遊べる環境をつくる
- 子どもが遊びだしたら、邪魔せず子どもの興味関心を尊重してあげる
- 一緒に遊びながら、子どもを褒める・認めるを繰り返す
が大事になってくると言われています。何気ない日々の遊びではありますが、されど遊び。細かな積み重ねを通じて、子どもの自己肯定感にプラスの影響を与えたいですね。
生活のリズムを整える
意外かもしれませんが、十分な睡眠は自己肯定感を育てると知られています。
その理由は、人が睡眠中に記憶や体験を整理してインプットする生き物だから。体験や記憶が自分の中に定着すれば、「これ、前にやったからできる」という自信が生まれ、自己肯定感が高まっていきます。
HugKumが過去に取材をした保育士の石田先生は、6時に起きて21時に寝る生活が理想的だと言います。共働きの核家族世帯ではなかなか現実的ではないかもしれませんが、朝30分ずつ時間をかけて起床を早め、起床を6時に持っていくなど、ちょっとずつ調整すれば、成功するケースも多いと言います。
日中は外に出て太陽の光を浴び、お昼寝は15時までに終わらせる。夜ご飯は頑張らずに、眠る前のルーティンをつくって、自然に眠くなる環境を整えてあげるなども、6時起き21時就寝を実現するためには効果的のようです。
「うちはどちらも仕事を頑張っているから、すぐには6時起き、21時就寝なんて無理だけれど、時間をかければきっと改善できる部分もあるはず」と、自分の現状を一度認めた上で、ポジティブに考え直し、できる部分から始められるといいですね。
大人になってから自己肯定感の低さを回復する方法は?
子どもの自己肯定感を高めるには、親のポジティブな声掛け、遊びの場面における褒める習慣が大切だと分かりました。しかし、親自信に自己肯定感が足りない場合、言い換えれば、ついネガティブな声掛け、マイナスな発想になってしまう場合には、どうすればいいのでしょうか。
その鍵は、親御さん自身の自分を客観視する意識と、「リフレーミング」の習慣になります。客観的に見るとは、自分の口からつい出てくるネガティブな言葉を、「あ、今、自分、ネガティブな言葉を使っている」と客観的に気付く意識です。リフレーミングとは、口にしたネガティブな言葉を、ポジティブに置き換える作業です。
例えば「あの人は、変人だよ」と周りの誰かに対して言ってしまったとしたら、「あ、変人というネガティブな言葉を使った」と自分を客観的に見るようにします。その上で、変人をリフレーミングして、「他の人にはない素晴らしい個性の持ち主」と言い換えるのですね。
至らない自分をママ・パパ本人が「まあ、それも私らしさだ」だとか、「これはこれで、私にもいい部分もあるよ」と思えるようになれば、今度は子どもなど身の回りの人も、「このままでOK」と思えるようになる、そう専門家は指摘します。
自分や他人をこのままでOKと思えるかどうかは、幸せに生きる力の源です。自己肯定感が低い、ネガティブだと自覚がある場合は、まずはネガティブな自分を客観的に見る練習をしてみる、その上でリフレーミングをその都度試してみるところから、始めたいですね。
自己肯定感を育てるポイントまとめ
自己肯定感とは、短所も長所もひっくるめて(ありのままの)自分に満足できる気持ちだと紹介しました。
子どもの自己肯定感を高めるには、親の物事の見方、声掛け(褒める、認める)が重要になってきます。自己肯定感は、人生の幸せに直結します。親子で自己肯定感を高められれば、幸せに生きられそうですね。
文・坂本正敬、写真・繁延あづさ
【参考】
※ 自己肯定感を高め、自らの手で未来を切り拓ひらく子供を育む教育の実現に向けた、学校、家庭、地域の教育力の向上 – 文部科学省
※ 「自尊感情」?それとも、「自己有用感」 ? – 国立教育政策研究所