新宿区四谷にある東京おもちゃ美術館の副館長 石井今日子さんがおすすめする、遊びを広げるおもちゃ。今回は遊びのストーリーが作りやすく、何度も繰り返して遊びたくなる「Tuminy(ツミニ―)」と、その背景にある物語をご紹介します。
ツミニー=積荷。ネーミングにも遊び心が
「Tuminy(ツミニ―)」は埼玉県のおもちゃ作家、小松和人さんの作品。トラックをバックで車庫に入れると荷台に積み荷が載って出発~! 積み荷となる積み木は車庫の上から入れて、繰り返し遊ぶことがでるおもちゃです。
「『このトラックは宅配便の車なんですよ』とおすすめすると、感心するくらい親子でよく遊んでくれますね。『いってきます! ○○さんのお宅に着きました。お荷物でーす。ピンポーン』と始まり、腕のチャイムを押してスキンシップを取ってね、『お荷物が届いています。重いので気をつけて! すみません、ここにハンコください』というやりとりが生まれやすいおもちゃです」
一連のからくりをひとりで繰り返して遊ぶのも楽しいおもちゃですが、設定がひとつあるだけで、大人にとっても相手がしやすいおもちゃになります。
子どもの自信や自己肯定感は、遊びで育つ
「親子で一緒に遊ぶ時期は、そんなに長くはありません。できるかな、と思ったことを大人がやったらできた。僕もできるかも、と頭で理解したことをやってみたら本当にできた。ほらね! 僕ってすごい! これはとても小さなことかもしれませんが、このスモールステップをたくさん経験することが子どもの自信につながり、自己肯定感を養います。こうした気持ちや大人への信頼感は、遊びから育ちます。ですから、遊びは大切ですし、今この時間を楽しんでほしいですね」
「待つ」時間も遊びのうち。熱中できる環境作りを
パパが子どもとうまく遊ぶヒントは?
東京おもちゃ美術館の赤ちゃん木育ひろばには、パパが赤ちゃんを連れてくることもあります。はじめはドギマギしているパパ。ですが、そんなパパにこそ上手に子どもと遊ぶヒントが隠されているそうです。
「パパは自分のほうが照れちゃって、子どもに『ほら、先に行きなさい』と言っていたりするんです。でもね、そんなパパの遊びがとてもいいなと思っていつも見ています。先に行った子どもは、その辺に落ちているおもちゃで遊び始める。すると、お父さんも「なんだこれー!」とか言って、子どもが見つけたものに感動して遊び始める。なにもご存じないだけに感動が新しいのかもしれませんけどね(笑)。でも、子どももパパの感動につられて、さらに遊び込むんですよ。ですからいつも、『パパ、ナイス!』って思いながら見ています」
ママはつい、わが子のために頭のよくなりそうなおもちゃ、“いいおもちゃ”、好きそうなおもちゃを先回りして与えたくなってしまうもの。せっかく遊びにきたのなら、時間の中でたくさんのおもちゃに触れさせてあげたいと思ってしまいがちです。
「母親は特に、子どもが自分で見つけるのを待てない。私もそうでしたからよくわかります(笑)。できることなら、子どものやりたいことを先回りしてやってしまうのではなく、後からこっそりついて行って、その子がやりたいこと、見つけたものに熱中させてあげられる環境を作ることのほうが大切なんだと思います」
大人こそおもちゃで遊んでみよう
しかし一方で、「待つ」ことは、パパやママが時間的にも精神的にも追いつめられているとできないことだと石井さんは言います。だから、大人にこそ力を抜いておもちゃで遊んでほしいとも。
「赤ちゃん木育ひろばには、“かわいい”要素はあえてなくしています。それはパパでも誰でも、違和感なくここに長く滞在してもらえるようにという思いから。このひろばは日本全国10の地域からスギ材を使っていますが、同じ日本の木にも違いがあるというお話をすると、パパがことのほか興味を示してくれますね。大人が木のおもちゃに手を伸ばし、遊んでくれている姿を見るとしめしめ思惑通り!と思うわけです」
子どもを早く寝かしつけて、パパとママがお酒を飲みながらおもちゃで遊ぼう、ゲームをしよう。そんな日があってもいいのかもしれませんね。
主な材料:ブナ、ブナ集成材
セット内容:トラック(赤)(85×55×35㎜)、積木6個(40×40×40㎜)、車庫(200×150×180㎜)
価格:7,992円(税込)
お話を伺ったのは
記事監修
日本をはじめ世界各国のおもちゃに触れて遊べる体験型ミュージアム「東京おもちゃ美術館」。認定NPO法人芸術と遊び創造協会運営。「赤ちゃん木育ひろば」など、親子で木のぬくもりに触れる場を提供。長門や鳥海山木など全国に姉妹館が。おもちゃを通して日本の木の良さを伝える「木育(もくいく)」を広めている。
取材・文/木村亜紀子