新宿区四谷にある東京おもちゃ美術館の館長 多田千尋さんがおすすめする、おもちゃと遊び方。今回も今春に立ち上がったブランドKItoTEtoから、「KUMINO」の魅力について伺いました。「KUMINO」は、前回ご紹介した「ますつみき」とはまた違った特長を持つ積み木でした。
日本の伝統技法に着想を得た木組みの積み木
KUMINOの形は1種類だけ。組み合わせられる切り込みが入っているものの、どうやって遊びを発展させていったらいいのでしょうか。
「KUMINOは、宮大工たちの技術“木組み”で遊ぶ積み木です。木組みは、釘を使わず木を組み合わせることだけで、寺や神社を作ってきた日本の伝統技法。おもちゃとしては非常にシンプルですが、失われつつあるものの継承ということまで意識された、『伝統技法にのっとった組み木積み木』という奥深いおもちゃなのです」
多田さんがKUMINOを作るクミノ工房代表 井上さんと出会ったのは、木育会議の場だったそう。工房のある滋賀県は、全国で都道府県として初めてウッドスタート宣言(誕生祝い品に地元の職人が地域材で作るおもちゃのプレゼントと、ほか1つの木育事業を行い、子どもと木の出会いを大切にするというもの)をしており、木育や県産材の利用に積極的な県でもあります。
「実はKUMINOの第一印象は、単調な積み木なのかな?というものでした。すると、井上さんがKUMINOでデモンストレーションを始めたんです。ものの10秒15秒で恐竜やキリンを次々作っていく。さらに家や城、宮殿まで、彼の手にかかるとありとあらゆるものが出来上がっていくのです。そこで私は、日本の伝統技法というものは、法隆寺をはじめとするあらゆるものを生み出すものだったと、あらためて気づかされました」
「KUMINO」の積み木遊びが引き出す、子どもの創造性
これ以上そぎ落とすことのできないくらいシンプルな形と、これまでなかった木組みの積み木。多田さんは「シンプルさと遊びのバリエーションは比例する」と言います。
写真は、KUMINOで作られた「木」と「トナカイ」。
シンプルであるからこそ、遊びの可能性は無限大。親子で積み上げ競争をするのもおすすめです。
子どもの手にかかれば電話にも! 「積み木」であることにしばられがちな大人よりも、柔軟な発想で楽しむ子どものほうが、このKUMINOで遊ぶのは得意かもしれません。
KUMINOは、そんな子どもが持つ創造性を引き出してくれるおもちゃです。
日本の紅葉が美しい理由、知っていますか?
多田さんが出会ったときにはすでに完成されていたKUMINOですが、ひとつだけ提案をしたそうです。
「ひのきや杉だけではなく、さまざまな材で作ってみるのも面白いんじゃないかと話しました。例えば椎の木や桜、けやきとかね。日本には、世界に冠たる多樹種の森があります。その証拠に、世界で一番美しい紅葉が見られるのが日本。四季があるからではなく、多樹種だからなんですよ」
毎年目にする紅葉ですが、多樹種だから色とりどりで美しいとは知らない人も多いのではないでしょうか。「さまざまな材を使う」という提案は、日本と世界の山や森をよく知るからこそのものでした。
「紅葉は世界各地で見ることができます。例えばカナダは特に楓が有名で、その種類は4種類。それぞれ葉の色付き具合には違いがあります。一方、日本の楓は22種類もあるわけですよ。しかも、山全体が楓というところはありません。楓や杉、ひのき、椎の木などが共存しているから、たくさんの絵の具で描いたような美しい紅葉が見られる。だからこそ世界中から日本へ紅葉を見に来るわけです。ならばおもちゃ作りでも、日本でしかできないことをしたほうがいいのではないかって」
木を知り、森を知り、日本を知る。積み木遊びが学びになる
KUMINOの積み木ひとつひとつには、産地の焼き印が入れられています。子どもと一緒に積み木で遊びながら、“木の生まれたところ”の話ができたら素敵かもしれませんね。
「先にお話ししたように、『シンプルであるからこそ、遊びの可能性』は広がります。おもちゃは子どもの創造性によって、世界を広げていく道具。そぎ落としたうえでプラスする作り手の工夫やアイデアにこそ、おもちゃの価値があるのではないかと思います」
クミノ工房の井上さんは、以前から世界を見据えYouTubeなどのwebも利用して、作り手自ら発信しています。地域や言語の壁さえも飛び越えようとしているKUMINO。ぜひ、ピタッとはまる心地よさを体感してみてください。
KUMINO クミノ工房
ひのき(国産)
本体:14本(W180×D30×H30㎜)
価格:6,480円(税込)
KItoTEto公式HP https://kitoteto.jp/
お話を伺ったのは
多田千尋さん
東京おもちゃ美術館 館長。乳幼児から高齢者までの遊び・芸術による支援活動及び、世代間交流の実践・研究に取り組む。認定NPO法人芸術と遊び創造協会 理事長、高齢者アクティビティ開発センター 代表も務める。『0~3歳 木育おもちゃで安心子育て』『3~5歳 木育おもちゃで安心子育て』『遊びが育てる世代間交流』(黎明書房)など著書多数。3児の父。
記事監修
日本をはじめ世界各国のおもちゃに触れて遊べる体験型ミュージアム「東京おもちゃ美術館」。認定NPO法人芸術と遊び創造協会運営。「赤ちゃん木育ひろば」など、親子で木のぬくもりに触れる場を提供。長門や鳥海山木など全国に姉妹館が。おもちゃを通して日本の木の良さを伝える「木育(もくいく)」を広めている。
取材・文/木村亜紀子