AI時代、幸せになるにはどんな教育を選ぶべき?【探究学舎・宝槻泰伸に聞く-中編-】

新時代教育のキーマンに登場していただく対談連載「アフターコロナ時代の教育クエスト」。第1回のゲストは探究学舎の宝槻泰伸塾長です。前編では、探究学舎が軸とする興味開発型の学びや、探究流インプット&アウトプットの工夫についてお聞きしました。中編では、AI時代に人間が幸せになるための教育について、讃井さんと熱く意見を交わしていただきます。

▼前編はこちら

アフターコロナの新しい習い事「探究」とは? 【探究学舎・宝槻泰伸に聞く-前編-】
HugKumでは、「Life is Tech!」(ライフイズテック)の讃井康智さんによる連載「アフターコロナ時代の教育クエスト」がス...

勉強とは違う、探究の意味ってなんだろう?

進化のプロセスを体感できる「生命進化編」の授業

讃井 これからの時代、探究が必要だとか、知識を身につけるだけじゃ駄目だなとか、保護者の方も何となくはわかっていると思うんですが、「探究学習の意味って何ですか」と保護者から聞かれたとき、どう答えていますか。

勉強と探究の違い

宝槻 まあ、勉強と探究の最大の違いを言うと、勉強っていうのは、与えられた課題を解決する能力、これを高めるトレーニングが勉強です。探究は、自ら課題を探したり設定して、それを解決する力を磨くトレーニングだと思うんですよ。だから、問題や課題を与えられて解くのか、それとも、自分で設定して解くのか、ここが最大の違いです。

今までの19世紀と20世紀は、会社の社長、国の総理大臣や官僚が個人に対して、解くべき課題っていうのを与えていました。今でも仕事をするというと、上司から課題を与えられて、それをうまく解き切って解決するという捉え方をする面もあります。でも時代はそれだけじゃなくなってるという実感は、あまり言葉を述べなくてもみんなわかってると思うんですよ。

探究できる方が幸せになれる時代

探究学舎「宇宙編」授業の様子

宝槻 さらに言うと、自分で課題を発見できる人のほうが、社会的な意味でイノベーションを起こす人になる。指示待ちで与えられた課題をただこなしていくより、自分で自分が解くべき課題を設定するほうが人生は楽しいんです。これらの理由から、自分で課題を発見できるようになろうっていうことが、子どもたちに対する目標としてシフトしてきてます。僕はそういうふうにとらえてます。

だから、讃井さんのライフイズテックだって、最初はトレーニングだから大人が与えた課題をやらせると思うんだけど。それで「プログラミングができるようになりました。はい終了!」ってことじゃないでしょ? そこから自分で、次はオリジナルアプリをつくってみたいと挑戦していく。そこをクリエイトするのが、ゴールなわけでしょう。

讃井 そうです。まさに探究できるほうが幸せになれる時代が来ている。結局それは、AI時代に人間は何をやるべきかみたいな話と近いですね。

宝槻 まさに近いですね。

AI時代、人間に求められるのは探究心

讃井 AI時代に人間ができることについて考えることは、未来の教育を考えるうえで切り離せないと思っています。

私もこれからの時代は、探究できる人が幸せになると思っているわけですが、その理由の一つ目は、知識やアイディアを生み出せる人こそが稼げる時代だから。AIは新しいアイディアは持っていないから、そういうものをつくれる人はAIの時代にも超貴重。これはまさに探究する人の典型です。

二つ目は、知識やアイディアを形にできる人です。ライフイズテックでプログラミングを学ぶ子たちは、まさにここにあたるのですが、課題意識とかアイディアは形にして世の中に出すことで初めて価値になる。それができる人が強い。

三つ目は、これまで2つのことができなくても、狂ったぐらいの強烈な熱量で「超これを探究したい!」というものを持ってる人です。先日TVでちゃんぽんマニアの方が出演していて、とにかくちゃんぽんが好きすぎるんですよ。私は「ちゃんぽん」って、リンガーハットぐらいしかイメージがなかったんですけど、長崎県の中だけでも数種類も違いがあることを熱く語っていて、様々なメディアでの出演の末に、ドラマのモデルにまでなったらしく、好きなことをとことん探究していっていました。今ならYouTuberになって、好きなものを紹介するだけで生きている人も出てきている。となると、そもそも探究したいっていう強い思いを持てることがこれからは幸せになれる人の一要素なんじゃないかと。

宝槻 それは、僕、構造的に解説できます。

ファンクショナルな仕事とエモーショナルな仕事

宝槻 ファンクショナル(機能的価値)な仕事とエモーショナル(情緒的価値)な仕事っていうキーワードで説明できます。山口周氏が言っていたことです。

ファンクショナルな仕事は、便利で役に立つ仕事で、医者や弁護士、タクシーや電車、携帯電話などの通信事業、橋などの土木建設業、電子レンジなどの製造業、Amazonなんかはファンクショナルな最たる例です。すごい便利なサービスを提供している。

一方で、エモーショナルな仕事はときめく体験を提供する。これは具体的に言うと、ディズニーランドや劇団四季、ジブリ、レストランとかバーも。

例えば、さかなクンとかは、どっちかっていうと、エモーショナル。便利で役に立つ価値を提供するというよりは、魚や海洋に対する、面白いというときめきを提供してると思う。映画などエンタテーメントやYouTubeも基本的にはエモーショナルです。

人によって、エモーショナルが7割で、ファンクショナルが3割とかグラデーションはあると思うけど、20世紀の仕事や産業の主役は、圧倒的にファンクショナルでした。しかも、ファンクショナルな仕事は大資本でやったほうがいいので、大企業が多いんですよ。

一方で、エモーショナルは大企業はあんまりない。むしろ、中小企業が多い。何でかというと、ときめく価値っていうのは人によってバラバラなので、大企業化が進みにくい。わかりやすい例でいうと、ウィスキーやビール、タバコ。大資本化っていう面もあるのかもしれないけど、多種多様でしょう。

すごく重要なポイントは、エモーショナルな仕事っていうのは、ファンベース、ファンエコノミーに、今、変化してます。だから讃井さんが言ったちゃんぽんの人も、その人のファンがいるんですよ。

讃井 そうですね、確かに。

宝槻 百人の熱狂的なファンをつかまえれば、インターネット上でそのエモーショナルなベネフィットを提供して、対価を稼ぐことができる。これはかなり20世紀の中盤〜後半にもなかった経済の仕組みだと思う。だから中小企業や個人事業主が、自分がこれが面白いって思う価値をファンに直接ネットを通して届けるっていうことができるようになったことがすごいエモーショナル領域に人材の流動を起こしている。これは今からますます加速していきます。ロボットやAIがファンクショナルに食い込んでくるとも思っていて、弁護士や医者の仕事、銀行やタクシーの仕事を、ロボットやAIが担っていく時代はすぐそこに見えているわけです。

どんな仕事でも120点を目指すときに、求められるのは探究心

十人十色の生き様に触れながら、その偉業、想いに驚き、感動する「偉人編」

宝槻 21世紀の子どもたちの将来を考えたときに、ファンクショナルな仕事をやって、グローバルエリートになるのがかっこいいみたいな時代から、自分の好きなことを追いかけて、百人とか千人のファンをつかまえることがかっこいいに変わっていく可能性は大いにあると思いますね。だから、勉強をして、与えられた課題を解決するのではなく、探究をして、自分でこれは面白いよねという課題を発見できる人のほうがエモーショナルな領域では明らかに強い。

讃井 たしかに、ファンクショナルな仕事は、そういう思いがなくても仕事が成り立つし、機械に代替されやすいとは思います。しかし、一方で、ファンクショナルな仕事の中でも、やっぱり、いい仕事をしたり、仕事の改善をしていける人って、そこで探究してるんじゃないかな?

宝槻 それはもちろんそうだと思います。例えば、車をデザインする仕事は極めてエモーショナルな仕事です。だから、ファンクショナルな領域にもエモーショナルなベネフィットっていうのはどんどん組み込まれつつあって、そうじゃないと、機能的な差だけでは差別化が難しい。

讃井 面白いですね。

宝槻 髭剃り一個とっても、機能的にはほとんど差はありません。だけど、デザインや商品の持つストーリー、創業者の想い、そういうエモーショナルな価値が乗っかることで選ばれていく。そういう面もあるから、単純にファンクショナルな仕事は勉強していればいいっていうだけでも、もちろんないと思います。

讃井 そうですよね。エモーショナルなもの、その探究心は、100点を超える狂気とも言い換えられる。

宝槻 そう。

讃井 エモーショナルな産業は、そもそも100点だと凡庸で売れ続けない。120点を常に出さなきゃいけないタイプの産業です。

一方で、機能重視のファンクショナルなものは、言ってしまえば、80点〜100点でOKで、あとは安ければ売れる。ファンクショナルな思想がある会社で120点を出すのは正直、非効率的で余計なことかもしれないわけです。でもそういう企業でも新しいイノベーションを目指せば、120点を目指さないと勝ち残っていけない。

結局、どっちの仕事でも、120点を出していくような狂気が求められるようになるとすると、探究できる力がまさに必要になるわけですね。

一本一万円の究極のかまぼこ、そこにあるのはエモーショナルな探究心

宝槻 うん、そのロジックは成立すると思います。僕が夏休みに見学に行った小田原のかまぼこ産業の『鈴廣』では、一本1万円くらいする超特選かまぼこが正月に売り出されるんです。

讃井 そんなかまぼこがあるんですか…。

宝槻 ただかまぼこを食べたいなら、普通に売られているかまぼこで十分なんですけど、これは明らかに機能的価値じゃないんです。150年の鈴廣の伝統や小田原の選りすぐりの原料を使って、特別な工程で造られるストーリーのある究極のかまぼこなんです。そのストーリーに心を動かされるファンがいて、飛ぶように売れるそうです。

讃井 すごいですよね。やっぱり、そうなんだよな。

宝槻 それを支えているのは何かっていうと、やっぱりエモーショナルな探究心のある職人さんたちと社長です。かまぼこ愛が半端ないわけですよ。どうしたら究極のかまぼこがつくれるかっていうのを日々研究していて、造られているものだから。まさに狂気です。

讃井 素晴らしいですよね。令和時代に稼げるスキルは、私は120点を出せる狂気だと思っているくらいです。

子どもの探究心を育てるために必要な力とは

「話したいことを持つ力」が重要になる

讃井 子どもたちが将来、狂気と言えるほど熱中して探究するために、じゃあ何が必要なのか。それを出すにはどうしたらいいのかということで考えてみると「話したいことを持つ力」というのが重要になると思うんです。

学習科学()では、人間は誰しも高いコミュニケーション能力を潜在的に持っているという前提に立ちます。そのコミュニケーション能力を引き出すには、本人が話したいことがあればいい。例えば、授業中はうまくしゃべれない子でもサッカーだったら博士みたいに話す子や、ポケモンのことなら鬼のようにしゃべる子っているじゃないですか。

人間の行動力や発信力を引き出すのは、自分が「話したい!」「伝えたい!」というものを持つことです。120点を出そうとするのはキツイから、普通は出せないものですけど、絶対に探究したいと思う対象を持てば、120点に行きつけるんじゃないかと思います。

子どもたちの潜在的な可能性を引き出そうという意味でも、探究学舎で小学生の初期から探究する原体験を持つことは、すごく良いことですね。

宝槻 探究学舎の授業で扱う歴史上の登場人物が狂気の人物ばかりで、僕たちもそういう人を賞賛するから、「自分もそうなりたい!」って思うのかもしれません。

讃井 探究学舎では、狂気をもって成し遂げた人がかっこいいっていう価値観が存在するんですね。

宝槻 そう。例えば、医学の世界のアンドレアス・ヴェサリウスや、吉田松陰なんかも、狂気を持って歴史を変えてきた登場人物ですね。

讃井 天才と狂人は紙一重で、後世で見たとき、その人たちって、イノベーションを起こした超ハイパフォーマーなんですけど、当時は、ちょっとヤバい人に思われて報われなかった芸術家や科学者も多いですよね。

※学習科学は、認知科学を背景に、人が賢くなる仕組みを見つけ,その仕組みを使って人がほんとうに賢くなれるかどうかを確かめながら、科学的理解に基づいた質の高い実践を目指す科学のこと。

つじつまを合わせる人生へ子どもを導かない

近代という新しい時代を作った明治維新を探究する授業も

 

 

宝槻 そうです。重要なポイントだと思っているのは、自分の人生がつじつまが合うように導いている大人がいっぱいいるわけですよ。でもその狂気を生み出すっていうのは、つじつまとか関係ない。吉田松陰が松下村塾で、「幸せな家庭を築こう」「おまえはそんなことをやったら人の道をはずれちゃうから」という教えをしてたら、高杉晋作とか出てこないわけですよ。

讃井 絶対出てこないです。

宝槻 吉田松陰が何て言ったかっていうと、「諸君、狂い給え」とひたすら言ってたわけです。だから僕は、基本的に子どもにはつじつまが合わないことを恐れるなというエネルギーで接しています。

讃井 まさに探究学舎で育てたいロールモデルってどんな人なんですか。

宝槻 吉田松陰だろうと、さかなクンだろうと、町の床屋さんだろうと、要するに、資本主義的な成功とはあまり関係なく、その子が自分の魂を一番輝かせていく道を選ぶということを応援したいです。

「あなたの子育ては大木主義ですか?」

宝槻 保護者に僕が聞くのは、「あなたの子育ては大木主義ですか?」という質問です。

讃井 大木主義?

宝槻 子どもが大きな木になることがあなたの子育ての目標ですかって。違うでしょうと。別に小さな木であってもいいでしょうと。つまり、ビル・ゲイツとか、孫正義とか、めちゃめちゃ巨大な大木にならなかったら、自分の子育ては失敗したって思うかというと、思わないわけです。

町の○○屋さんより医者の方がいいという価値観が世の中には存在するかもしれないけど、別にそれを求めて子育てしてるかっていうと、そうじゃない。

それよりも「小さな木でも、満開であってほしいですよね」って僕は言います。五分咲きでも七分咲きでもなく、満開に咲く。だから、その子が持ってる可能性が一番最大限に花として咲いて輝いてくれたら、それが一番の喜びで、その花が、桜の花なのか、タンポポなのかは、どっちでもいいんです。

讃井 私も同じように思います。ライフイズテックでは「一人ひとりの中高生の可能性を一人でも多く、最大限に伸ばす」という言葉をミッションとして大事にしてきています。教育の原点として、これだけは2030年でも2040年でも変わらないなって。

宝槻 それはずっと変わらないと思います。

 

◆後編「学歴だけでは生きていけない時代。子どもたちの力はどう評価される?」へ続く

 

プロフィール

探究学舎・塾長
宝槻 泰伸

探究学舎代表。強烈な父親の教育から、高校中退~大検取得~京都大学進学という特異な経歴を持つ。その後、2人の弟も同じ勉強法を駆使して高校中退~大検取得~京大入学を果たす。大学卒業後、私立高校や職業訓練校での指導経験を経て、2012年に東京都三鷹市で「子どもの好奇心に火をつける」学習をテーマにした探究学舎を開校。5児の父。その活動は「情熱大陸」(毎日放送)をはじめさまざまなメディアで取り上げられている。著書に『勉強嫌いほどハマる勉強法 子どもが勝手に学びだす!!宝槻家のストーリー活用術』(PHP研究所)、『探究学舎のスゴイ授業:子どもの好奇心が止まらない! 能力よりも興味を育てる探究メソッドのすべて 元素編』(方丈社)、『強烈なオヤジが高校も塾も通わせずに3人の息子を京都大学に放り込んだ話』(徳間書店)など。

https://tanqgakusha.jp/

プロフィール

讃井康智|ライフイズテック取締役

東京大学教育学部卒業後、東京大学教育学研究科にて研究者として博士課程まで在籍。専門は教育政策・学習科学。2010年にライフイズテックを創業。ITキャンプ・スクールには累計4万6千人以上が参加し、中高生向けIT教育サービスでは世界2位まで成長。ディズニーとコラボした「テクノロジア魔法学校」や学校向け教材「ライフイズテックレッスン」などオンライン教材も提供。現在は各地の教育委員会の専門委員やNewsPicksのプロピッカー(教育領域)も務める。


 

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