絵本作家の方はどのように絵本と出会い、楽しんでいるのでしょうか。 「そらまめくん」シリーズでおなじみのなかやさんにうかがいました。
なかや みわ 埼玉県生まれ。女子美術短期大学造形科グラフィックデザイン教室(現:短期大学部造形学科)卒業。企業のデザイナーを経て、1997年に絵本作家としてデビュー。主な絵本に「そらまめくん」シリーズ(福音館書店・小学館)、「ばすくん」シリーズ(小学館)、「くれよんのくろくん」シリーズ(童心社)、「どんぐりむら」シリーズ(学研)、「こぐまのくうぴい」シリーズ(ミキハウス)など多数。
風邪の時に母が読んでくれた 忘れられない絵本
私が小学1年生だったある日、風邪をひいて寝ていた時に母が絵本を買ってきてくれました。それが『こぎつねコンとこだぬきポン』です。絵がかわいくて、紆余曲折するお話、きつねとたぬきの家の対比もおもしろくて大好きでした。珍しく母が読み聞かせをしてくれたせいか、この絵本のことはよく覚えているんですよ。『ぐるんぱのようちえん』は、巨大ビスケットが描かれたぞうのぐるんぱの幼稚園の場面に憧れて、ディティールに見入っていました。大人になって読み返したら、こんなに深い話だったのかと驚きました。
『しんせつなともだち』はシュールな世界観が忘れられない1冊。雪の中にかぶが落ちていたり、鹿が渋い和風の家に住んでいたり、なんだかおかしいんです。『つつみがみっつ』もそう。変な渡り廊下があるし、不思議な魚がいるし、目が離せません。いずれも1970年代に生まれた作品で、自由で勢いのある時代のパワーも感じます。この4冊は結婚した時に実家から持ってきたほど、昔も今も気に入っていて読み返したりしますね。
息子が夢中になった絵本
私には今中学生の息子がいますが、小さい時から鉄道モノ一筋。最初はいろいろ読んでみたものの、電車にしか興味を示さないので、お互いのために無理をするのはやめました(笑)。でもたいていの男の子は電車が好きですよね? 4、5歳の頃にハマった『しんかんせんのぞみ700だいさくせん』と『ぐんぐんはしれちゅうおうせん』は鉄道絵本の名作だそうで、息子も細かく描かれた車両や街の風景にもう夢中でした。逆に私の絵本は好みとはちょっと違うらしく…でも好きなものがあるなら、それはそれでいいのかなって思っています。
絵本作家としての原点になった『ふたりはともだち』
私が絵本を描きたいと思うようになったのは企業でデザイナーをしていた時です。そこでいろいろ読みあさっている中で出会ったのが『ふたりはともだち』です。大きな事件が起こるわけではないのに、ものすごく心に響いてほっとできます。細部まで丁寧に描き込まれた絵も、三木卓さんの訳も素晴らしく、すぐにシリーズ全巻を買いました。何度読み返しても引き込まれるし、無理に作ったところがひとつもなくて、とても自然なんです。自分もいつかこういうお話が描きたいなと思います。とても難しいけれど、今もなお、「この作家に近づきたい」と思っている私の目標であり原点ですね。
かこさとしさんの『ことばのべんきょう くまちゃんのかいもの』も大人になってから見つけて「これはすごい!」と思って買いました。家族でデパートに行くのにおめかししたり、自分が子どもの頃の昭和の香りが懐かしくて。どんどん買っていくのでどうなるのかとドキドキしていると、最後になんと自動車を買って全部乗せて帰るという(笑)。かこさんの味のある絵がたまらないですし、売り場のディティールを見ているだけでも楽しいので、必ず机の横に置いておいて、疲れると眺めていますね。
記憶に残る絵本を描いていきたい
こうして振り返ると子どもの時も今も印象に残っていて好きな絵本は、シュールだったり、どこか強烈だったりするんですね。だから結局、いい絵本というのは、人々の記憶に残るものなのかなと。絵本にかぎらず、芸術や芸事はみんなそうですよね。上手くても下手でも、人の心に何かを残せるかどうかがすべてであって。創作する上でもそのことは常に考えます。ただ根が真面目なので、小さく固まらないように、題材もどんぐりやくれよん、そらまめといったちょっと変わったものを選ぶんです。あとは細部まで楽しんでもらえるように描こうと。1冊の絵本が世に出るまでには、本当にたくさんの人が関わっているんですね。だから記憶に残らなかったら罪だというくらいの気持ちで取り組んで初めて、子どもたちに喜んでもらえるものが描ける。そして大人になって読み返した時にも、何か感じてもらえる絵本を作っていけたらと思っています。
大人気の最新刊 「そらまめくんとあたらしいベッド」。 なかやみわ(作) 小学館 本体880円+税
なかや みわさんのおすすめ絵本
『こぎつねコンと こだぬきポン』
松野正子(文)、 二俣英五郎(画) 童心社 本体1500円+税
友だちがほしかったこぎつね とこだぬきが出会い、大の仲 良しに。2人のやり取りのおも しろさと友情に心が和む。
『ふたりはともだち』
アーノルド・ローベル(作)、 三木卓(訳) 文化出版局 本体950円+税
親友のがまくんとかえるくんのおか しくて温かな日々。一緒に考えたり 悩んだりする2人の姿に大人も幸 せに。
『つつみがみっつ』
土屋耕一(作)、たざわしげる(絵) 福音館書店 *こどものとも 1975年1月号(絶版)
『ぐるんぱのようちえん』
西内ミナミ(作)、堀内誠一(絵) 福音館書店 本体800円+税
『しんせつなともだち』
方軼羣(作)、村山知義(画)、君島久子(訳) 福音館書店 本体800円+税
『しんかんせんのぞみ 700だいさくせん』 横溝英一(作) 小峰書店 本体980円+税
『ぐんぐんはしれ ちゅうおうせん』 中島章作(作) 小峰書店 本体980円+税
『ことばのべんきょう くまちゃんのかいもの』
かこさとし(作) 福音館書店 本体514 円+税
買い物に出かけたくまちゃん一家は……。 いろいろなお店の様子が図鑑のように楽 しめる。全4冊のシリーズ。
提供元 おひさま2016年6/7月号