母親の胎内に居る時の記憶を子どもが持っていると一部の専門家や研究者が言い始めて久しいです。いわゆるこの「胎内記憶」については2018年に発表された海外の大規模な研究で否定されていますが、パパ・ママとしては興味のあるところではないでしょうか。
胎内記憶とは?
そもそも胎内記憶=赤ちゃんがお腹に居た時を覚えているとの考えは、いつから出てきたのでしょうか。第一人者としてまず、医学博士の池川明さんがいます。2000年(平成12年)に79人の被験者に池川さんがアンケート調査すると、52%が胎内記憶を持っていると分かったところからすべてがスタートします。
その結果を受けて、池川さんはより大きな調査を2002年(平成14年)に長野県諏訪市で行います。集まった838の回答のうち243例が「記憶あり」と答えました。さらに同規模の調査を長野県塩尻市で行っても同様の結果が出ました。
この事実を池川さんは論文にして発表します。このころからマスメディアも注目を始めます。2003年(平成15年)には池川さんの書籍が出版され、テレビにも出るようになり、いよいよ世間の認知も高まっていきました。
子どもに胎内記憶が残っているって本当?
池川さんの研究を受けてほかの研究者も現れます。中部大学の教授でバージニア大学の客員教授・大門正幸さんが代表例です。池川さんの論文に建設的な調査方法を提案する形で研究を進め、前世や中間生の記憶の存在が言われるようになりました。
胎内記憶の化学的根拠はない
しかしそれらの研究を真っ向から否定する調査も存在しています。
例えば2018年(平成30年)にロンドン大学の研究者などが発表した論文では、前世や中間生はもちろん胎内記憶に至るまで、言語能力の習得前(2歳前後に至るまで)の記憶が否定されています。
上述の研究でも、6,313人の調査サンプルのうち、2,479人(全体の40%)が2歳を下回る時期の記憶を持つと回答しています。887人(全体の14.1%)が1歳を下回る時期の記憶まであるとも回答しています。
しかしそれらの初期記憶を詳しく調べた結果、本物の記憶ではなく、単なるフィクションだと判断したようです。記憶の断片をつなぎあわせたイメージだったり、家族の会話や幼いころの自分の写真の情報を組み合わせたりして、いつの間にかフィクションの「記憶」を本物の記憶と本人が勘違いしているだけだと確認されたのですね。
胎内記憶は嘘っぽい?と思う理由は
子育て中の女性119人に対してHugKumが行った「わが子の胎内記憶」に関するアンケート調査でも、懐疑的な意見を出す保護者の声が見られました。
子どもの胎内記憶の聞き方
「胎内記憶」が世の中に出てきた当初、話が独り歩きして「子どもは親を選ぶ」「流産も子どもが選択している」など、スピリチュアルな方向へと関心が広がっていきました。そのため感情的な嫌悪感を抱く人も出てきたわけですが、親子の楽しい話題のひとつとして気軽に考える分には何も問題はないはずです。
神話やおとぎ話をする感覚で「胎内記憶」を子どもと話す時間は、むしろ親子の想像力を豊かにする貴重な機会にもなってくれるはずです。
3~4歳ごろに聞く
「胎内記憶」を子どもと語る場合はわが子が3~4歳の時期を選ぶといいようです。「胎内記憶」の提唱者である池川さんの論文『胎内記憶から考えられる生死』には「胎内記憶」を語り始める時期として3~4歳のタイミングが最も多いとされているからです。
お腹の中の様子や生まれた瞬間の様子を聞いてみる
池川さんによると、
- お腹の中の様子(温かかった、泳いでいた)
- 生まれたときの様子(まぶしかった)
- どんな気持ちだった(早く親に会いたいと思っていた)
- どのような音が聞こえていたか
などについて言及する子どもが多いと言います。多くの子どもが答えるポイントについて、何か覚えているか、それとなく聞いてみると会話がスムーズに進むかもしれませんね。
みんなはどうやって聞いたの?
とはいえ「胎内記憶」を実際に聞こうとすると、先ほど紹介したアンケート協力者のコメントにもあったように、誘導尋問になってしまいがちです。先輩ママ・パパは実際にどのように聞き出したのかまとめてみました。
さらっと聞く、子どもが話し始めたら変な評価は途中でせずに、最後まで聞く姿勢が大切だと分かります。
胎内記憶エピソード集
「胎内記憶」には基本的に信憑性がないとされています。断片的な記憶や親の会話をミックスして子どもがつくり上げたイメージだとも紹介しました。とはいえ子どもの豊かな想像力によって生まれる物語は独創的で聞いていて楽しいはずです。例えばHugKumが子育て中の女性119人に対して聞いた「物語」には次のような話がありました。
お腹の中でちゃぷちゃぷ
下の子と遊んでいた
早く出たかった
ママのお腹に来る前はパパのおへそにいた
空の上で風に吹き飛ばされてママの前でつまずいた
ひとりだったから寂しかった
「胎内記憶」の信憑性が低くても、子どもの物語と現実の出来事が偶然に重なると、親にとっては「真実」に感じられてしまうから不思議です。占いなどにも近い印象がありますが、親子の関係を見直す・親子のきずなを深めるツールとして「胎内記憶」は特別な力がありそうですね。
子どもとの関係強化に「胎内記憶」を使ってみては?
「胎内記憶」の解説と、HugKumが調査した親子の胎内記憶のエピソードを紹介しました。信憑性はないと否定されながらも、神秘的な「胎内記憶」を積極的に信じたい気持ち、聞いてみたい気持ちは多くのパパ・ママにあるのではないでしょうか。
感情的になって否定するのではなく、妄信的になるのでもなく、親子のコミュニケーションの話題のひとつに胎内記憶を上手に使えると理想的かもしれませんね。
文・坂本正敬
【参考】
※ 子そだちの森 ~ママの心の笑顔を応援~「ママと医師&専門家との子そだち広場」第14回レポート – ポプラ社
※ 第58回目(2/4)池川明先生 胎内記憶研究 – 日本メンタルサービス研究所
※ Forty percent of people have a fictional first memory – ScienceDaily