正距方位図法ってどんな地図?
正距方位図法とは、地図の描き方・表現方法の一つです。世界地図の種類の一つと言っても良いでしょう。
地図の種類
地図の描き方・表現方法にはいくつか種類があります。代表的なものが「メルカルト図法」「モルワイデ図法」、そして「正距方位図法(せいきょほういずほう)」です。
「球体」の地球を「平面」で表すための工夫
地球は球体です。ですが、地図は紙の上に描かれています。つまり、平面です。球体の地球を平面上に表すことはとても難しいことで、どうしても無理が生じます。
地図を描くときには、距離・面積・角度(方位)が大切になりますが、その3つの要素すべてを正確に表すことはできません。3つの要素のうち、なにを優先するかによって、世界地図にはおおきく3つの図法が生まれました。
メルカトル図法
1569年にメルカトルという地理学者が、現在のドイツで発表した地図で使った図法です。今、もっとも馴染みのある図法で、日頃目にする世界地図の多くが、メルカトル図法で描かれています。
メルカトル図法は、別名「正角円筒図法」とも呼ばれます。イメージとしては、丸い地球儀に円筒をかぶせて、円筒に地球儀を投影したものです。
球体の地球を円筒にするので、北極や南極は本来「点」ですが、地図では横幅いっぱいに広げられてしまいます。つまり、メルカトル図法では、赤道から北と南に行くほど大きく描かれてしまうのです。
面積を表すには不適切ですが、角度がわかりやすいため、航海用の地図として古くから使われてきました。
モルワイデ図法
1805年にドイツの天文学者で数学者のモルワイデが考案した図法です。地球を縦横の比率が1:2の横長の楕円形で描いた手法です。
メルカトル図法では北や南に行くほど面積が広がってしまいますが、面積を正確に表すよう工夫したのが、モルワイデ図法です。
正距方位図法
それぞれの図法によって長所と短所がありますが、地図の中心からある地点までの距離を正確に表したのが正距方位図法(せいきょほういずほう)です。地球全体を真円で表した手法で、一般的にはあまり目にすることはないでしょう。
正距方位図法の特徴
正距方位図法は、地図の中心からある地点までの距離を正確に表した地図です。その特徴から、次のようなものに利用されています。
航空図
航空図は、飛行機の経路や空港、航空制限区域などを表示した地図のことで、飛行機の運行計画や飛行中の針路や位置を確認する際などに使われます。距離を正確に表した正距方位図法は、この航空図で利用されています。
飛行機の最短経路
航空図と同様に、飛行機がどのような経路で飛ぶか、最短のルートはどうなるか、といったときに正距方位図法の地図が利用されます。
国連のマーク
国際連合(国連)のマークには、北極を中心とした正距方位図法で描かれた地球が使われています。ちなみに南緯60度より南は描かれていません。南緯60度より南には南極大陸しかないため、省かれたようです。
正距方位図法の長所と短所
球体の地球を平面で表しているため、どの世界地図にも長所と短所があります。正距方位図法の長所と短所を見てみましょ。
長所1:距離が正確
正距方位図法の最大の特徴は、地図の中心から別の地点までの距離が正確であることです。
長所2:方位が正確
正距方位図法は、地図の中心からの距離に加え、方位も正確に表示されます。正距方位図法が航空図に使われているのは、この特徴を生かしています。
長所3:地図の中心からの最短距離がわかる
正距方位図法では地図の中心から、別のある地点までの最短距離を正確に把握できます。地図の中心からある地点まで最短で移動するためのコースが直線で表されます。
短所1:大陸のゆがみが大きい
地図の中心をのぞいて、あらゆる場所にゆがみが生じる点が短所です。しかも中心から離れるにつれ、ゆがみは大きくなります。
短所2:面積が不正確
ゆがみが大きいため、大陸の形状が実際とは異なります。つまり大陸などの面積が不正確です。
短所3:角度が不正確
ゆがみが大きいことは、面積以外にも影響をもたらします。それが角度。ある地点から別の地点へ移動したいときなど、その角度が不正確に描かれています。
正距方位図法の見方・読み取り方
普段多くの人が目にしている地図は長方形の平面図でしょう。正距方位図法の地図は円形なので、どのように見ればいいのか、慣れていないと戸惑ってしまいます。正距方位図法の地図の見方・読み取り方を順に見ていきましょう。
赤道と本初子午線を探す
地図を見るときに、大きな目印になるのが、緯線、罫線、赤道です。ですが正距方位図法の地図は、どれが緯線、罫線なのか慣れない人が見ると見わけることは難しいものです。
そこで最初に赤道を探しましょう。赤道は、南アメリカ大陸、アフリカ大陸、東南アジアの3つの大陸を通過しています。代表的な国でいえば、ブラジル、インドネシア、モルディブなどの国を通過しています。
赤道がわかったら、次に本初子午線(ほんしょしごせん)を探します。本初子午線は経度0度0分0秒の経線で、経度の基準となっているもので、イギリスのロンドンを通過しています。赤道と本初子午線がわかれば、それを基準として地図上の場所を把握しやすくなります。
また、日本を中心に描かれた正距方位図法の地図を見ていると、日本以外が中心となったものを見たときに、日本がどこにあるのかわからないこともあります。そんなときは、日付変更線を探すのもひとつの方法です。日付変更線は太平洋のほぼ中央にあり、日本までの間にはほぼ海しかありません。
対蹠点は外周になる
対蹠点(たいせきてん)とは、ある地点から見て、地球の中心を通って反対側にある地点のことです。正距方位図法で描かれた地図では、地図の中心の対蹠点は外周部分にあたります。
地図の中心以外の2点を結んだ距離は不正確
何度もご紹介しているように、正距方位図法の地図は、地図の中心からある地点までの距離を正確に表した地図です。つまり、中心以外の2カ所を結んだ距離は正しくありません。
正距方位図法で実際に距離を求める
正距方位図法の地図で、東京から世界の各都市までの距離を求めてみましょう。東京からの距離を調べる際は、東京が地図の中心となっている正距方位図法の地図を使うと以下のことがわかります。
東京からロンドン
ロンドンは、東京からみて北西方向におよそ10,000㎞の位置にあります。ちなみに東京からの距離では、パリとロンドンでは、ロンドンのほうが近くなります。
東京からサンフランシスコ
サンフランシスコは、東京から北東方向に10,000km弱の位置にあります。
東京からニューヨーク
ニューヨークは、サンフランシスコと同じように、東京から北東方面にあります。距離は10,00㎞を超えます。
正距方位図法の地図に出会ったら……
丸い地球を平面で表現するために、いろいろな工夫が行われ、用途に応じて、さまざまな図法が生まれました。正距方位図法もそのひとつです。
正距方位図法の地図は航空図、メルカトル図法の地図は海図、モルワイデ図法は分布図というように、それぞれの地図には長所を生かした用途があります。正距方位図法は普段あまり目にすることのない地図ですが、どこかで見かけたら、ぜひじっくりと眺めてみてください。思わぬ発見があるかもしれません。
文・構成/HugKum編集部