「優性の法則」の歴史
優性の法則は、約150年前にチェコの修道院で発見されました。優性の法則の歴史をひも解き、発見の経緯や現在の日本での扱いを学びましょう。
メンデルが発見
優性の法則は、1865年にオーストリアの生物学者・メンデルが発見しました。司祭として修道院で働きながらエンドウ豆の交配実験を行い、発見したのがこの法則です。
同年にメンデルはこの法則について学会で発表しますが、当時は見向きもされませんでした。メンデルの論文が日の目を見るようになったのは、1884年に彼が亡くなったよりも、もっと後のことでした。
3人の生物学者がメンデルと同じ法則に気付いたのは1900年になってからです。その法則を彼らがあらためて調査したところ、数十年前に同じ法則を発表していたメンデルに辿り着き、17世紀半ばの発見が再評価されるようになりました。
エンドウ豆が使われた理由
実験にエンドウ豆が使われた理由として、メンデルは論文内で三つの理由を挙げています。
1.対立形質(優性・劣性として対になる形質)が見分けやすい
2.花弁が閉じているため、他の花から影響を受けない
3.種子を多く作る上に繁殖力が落ちない
エンドウ豆は、花・さや・種子の色など、七つの形質に明確な差が見られました。同一の対立遺伝子(形質を支配する1対の遺伝子)を持つ「純系」を得られることも、対立形質の遺伝を調べる上では重要でした。
ちなみに純系に属する個体を「ホモ接合体」、異なる対立遺伝子を持つ個体を「ヘテロ接合体」といいます。
「顕性」「潜性」に言い換えられるように
従来の「優性」「劣性」は、「顕性」「潜性」に言い換えられるようになりました。
優性・劣性はあくまで形質の現れやすさを示し、優劣を意味しているわけではありません。しかし、誤解を招くとして、2017年に日本遺伝学会が表記を見直しました。
2019年には日本遺伝学会に続き、日本学術会議の分科会が高校で学ぶ用語の改定を提言しました。学習指導要領の改訂に合わせ、高校用の教科書の表記は令和4年度分から顕性・潜性に一律で改定されます。
高校用に先駆け、中学用の教科書では令和3年度分から表記が変わっています。ただし、教科書から優性・劣性の表記が消えたわけではなく、かっこ書きで顕性・潜性と併記したり注釈で捕捉したり、対応は出版社によって異なります。
参考:
「顕性形質」と「潜性形質」について – 教育出版
報告「高等学校の生物教育における重要用語の選定について(改訂)」|日本学術会議
メンデルが発見した法則は一つじゃない
メンデルが発見した法則は、一般的に「メンデルの法則」と呼ばれ、三つに細分が可能です。
ただし、優性の法則に関しては、三つの法則の総称として用いられる場合もあります。三つの法則を、それぞれ見ていきましょう。
優性の法則
「優性の法則」は、優劣の法則とも呼ばれます。対立形質の純系同士を交配させた雑種第1代には、優性の形質が現れることです。
モルモットの毛の色は対立形質の一つです。黒毛の純系遺伝子型を(B、B)、茶毛の遺伝子型を(b、b)とした場合、これらの両親から生まれたモルモットの遺伝子型は、一つずつ受け継いだ(B、b)となります。
この子どもは優性(顕性)の遺伝子を持つため、劣性(潜性)遺伝子を持っていても黒毛になるというのが優性の法則です。
分離の法則
「分離の法則」は、純系同士の孫にあたる雑種第2代に関する法則です。
雑種第1代同士を交配すると、雑種第2代には雑種第1代に見られなかった劣性(潜性)が3:1の割合で分離して現れることを指します。
モルモットの毛は、色以外に長さも遺伝で決まります。短毛が優性(顕性)、長毛が劣性(潜性)です。優性の遺伝子型をS、劣性の遺伝子型をlとします。ホモ接合体同士を交配させた子世代(雑種第1代)の遺伝子型は(S、l)です。
子世代同士を交配させた孫世代(雑種第2代)の遺伝子型は、優性ホモ(S、S)・優性ヘテロ(S、l)・劣性(l、l)の3通りです。これらの比率は1:2:1で、外見上は短毛:長毛が3:1で現れます。これが分離の法則です。
独立の法則
異なる対立形質が複数あっても、互いに作用せず独立して遺伝します。これが「独立の法則」です。優性の法則と分離の法則で取り上げたモルモットの毛の色と、長さを例に説明しましょう。
1匹のモルモットは、毛の色と長さを決める遺伝子型をそれぞれ持っています。形質の組み合わせは以下の通りです。
●黒毛×短毛
●黒毛×長毛
●茶毛×短毛
●茶毛×長毛
優性(顕性)・劣性(潜性)による形質の現れやすさはありますが、毛の色と長さは独立して遺伝します。「黒毛だから短毛」「長毛だから茶毛」と、片方の形質でもう片方が決まることはありません。
法則の理解をより深めよう
メンデルの法則はヒトにも当てはまります。また、法則の例外も存在します。ヒトへの現れ方や例外を知り、さらにメンデルの法則への理解を深めましょう。
ヒトに現れるメンデルの法則の例
ヒトに現れるメンデルの法則で有名なのは、血液型の分類の一つであるABO式血液型です。優性(顕性)のA・B、劣性(潜性)のOの組み合わせによって、ヒトの血液型は決まります。
A型とB型にはそれぞれ2通りあります。優性ホモの(A、A)(B、B)と、優性ヘテロの(A、O)(B、O)です。
A型とB型には優劣差がないため、2種類の優性遺伝子を一つずつ持つ場合はAB型(A、B)となります。劣性遺伝子を二つ持つ場合はO型(O、O)になるのです。
法則の例外「不完全優性」とは
メンデルの法則は全てに当てはまるわけではありません。「不完全優性」は、優性(顕性)・劣性(潜性)の中間の形質が現れる例外です。
不完全優性の例として、マルバアサガオを挙げます。この花には赤と白の2色があり、赤が優性で白が劣性です。
赤い花の遺伝子型を(R、R)、白い花の遺伝子型を(w、w)とするとき、両者を交配させた花の遺伝子型はヘテロ接合体の(R、w)です。
優性の法則に従えばこの花は赤色ですが、不完全優性のマルバアサガオでは、中間色であるピンクの花を咲かせます。
優性の法則は「部分」で考えると分かりやすい
優性の法則は、17世紀にメンデルが発見した法則です。優性の法則が有名ですが、メンデルの発見した法則は「優性・分離・独立の法則」と三つに分けることができ、「メンデルの法則」とも呼ばれます。
一見難しく思えるこれらの法則ですが、動植物の部分の形態や色で説明すると子どもにも分かりやすく説明できます。優性の法則について学び、親子で理解を深めましょう。
構成・文/HugKum編集部