「ピンからキリまで」の「ピン」と「キリ」って何?【知って得する日本語ウンチク塾】

国語辞典編集者歴37年。日本語のエキスパートが教える知ってるようで知らなかった言葉のウンチクをお伝えします。

「ピンからキリまで」の「ピン」と「キリ」って何か知ってる?

最上のものから最低のものまで、あるいは初めから終わりまでという意味で、「ピンからキリまで」と言います。略して「ピンキリ」とも言いますが、この「ピン」と「キリ」って、何のことだかご存じですか?

語源はポルトガル語。「ピン」は1,「キリ」は10の意味から転じて優劣を表す使い方に

「ピン」はポルトガル語の pinta (点)の意から、「キリ」は、ポルトガル語の cruz (クルス「十字架・十字形」の意)からだと言われています。日本語ではなかったのです。

「ピン」は、カルタ・賽(さい)の目などの一の数の意味で使われ、そこから、第一番、または、最上のものという意味になりました。「キリ」は、十字架の意から転じて、10の意味になり、最後のもの、あるいは、最低のものという意味になったようです。ですから、「ピン」と「キリ」とどちらが上かというと、「ピン」の方が上なのです。

 

「ピン芸人」も「ピンはねも」語源は同じ

「ピン芸人」の「ピン」も、「ピンはねする」の「ピン」も「ピンキリ」の「ピン」と語源は同じです。
「ピン芸人」は「一人」の芸人という意味ですし、「ピンはね」は、1割、あるいは一部分をかすめ取るという意味です。

 

優劣ではなく、概念の広さを表す使い方に変わってきた

ところで、この「ピンからキリまで」ですが、最近、本来の意味とは違う意味で使われることがあります。たとえば、

「人の好みもピンからキリまであるので、プレゼントを選ぶのは難しい」

といった言い方です。これは好みの幅の広さをいっていて、等級や優劣のことをいっているわけではありません。

このような使い方を、本来の意味ではないので誤用だという人もいますが、私はそうは思いません。この意味が広まれば、やがて辞書にも載るようになると思っています。

 

 

記事執筆

神永 暁|辞書編集者、エッセイスト

辞書編集者、エッセイスト。元小学館辞書編集部編集長。長年、辞典編集に携わり、辞書に関する著作、「日本語」「言葉の使い方」などの講演も多い。文化審議会国語分科会委員。著書に『悩ましい国語辞典』(時事通信社/角川ソフィア文庫)『さらに悩ましい国語辞典』(時事通信社)、『微妙におかしな日本語』『辞書編集、三十七年』(いずれも草思社)、『一生ものの語彙力』(ナツメ社)、『辞典編集者が選ぶ 美しい日本語101』(時事通信社)。監修に『こどもたちと楽しむ 知れば知るほどお相撲ことば』(ベースボール・マガジン社)。NHKの人気番組『チコちゃんに叱られる』にも、日本語のエキスパートとして登場。新刊の『やっぱり悩ましい国語辞典』(時事通信社)が好評発売中。

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