ほめる・叱るは子どもをダメにする!?【アドラー式子育て術「パセージ」】の育児法とは?

後片付けをすることや、時間を守ることや、約束やルールを守ることなど、子どもに家族や社会の一員として「すべきこと」「すべきでないこと」を教えることを「しつけ」と言いますが、アドラー式子育て術「パセージ」では、それを、賞(ほめる)や、罰(叱る)を使って教えることに反対をしています。子どもを褒めたり、叱ったりすることは、ごく一般的な「しつけ(躾)」と考えられています。

どうしてなのでしょうか? 日本アドラー心理学会カウンセラーの清野雅子さん、岡山恵実さんにその理由をお聞きしました。また、感情に振り回されず、プラスの状態でいるための心構えや技術も教えていただきました。子育ての参考になさってください。

子どもを叱るとダメになるのはなぜ?│アドラー式子育て術「パセージ」の育児法

子どもダメ札
ほめる、叱るは「パセージ」ではNG

叱る=罰の好ましくない副作用とは?

「パセージ」では、子どもをほめる、叱るなどの「賞罰」を使わない育児をします。賞(ほめる)や罰(しかる)を使った育児では、子育ての目標である適切な信念、つまり「私は能力がある」「人々は私の仲間だ」という心が子どもに育たないと考えるためです。

それでは、「宿題をしないとデザートがもらえない」というような罰を使って子どもを動かすとどうなってしまうのでしょうか。罰を使うと、以下のような好ましくない副作用が考えられます。

✔叱る=罰の好ましくない副作用

・罰する人がいないと、不適切な行動を続け、適切な行動をしない。
・親子関係が悪くなる。
・消極的で意欲を失った「やる気のない子」になってしまう危険性がある。
・罰は負の注目になる

どうすれば、子どもを「勇気づけ」られるのか。つまり、子育ての心理面の目標である「ボクは能力がある」「お母さんはボクの仲間だ」という心が育つのか考えてみましょう。

まずは、自分なりのクールダウンを

親が感情的になっているときは、子どもを「ダメな子」だと裁いているときです。それが子どもにも伝わるので、親には子どもを援助する力がありません。感情的になっていると感じたら、自分なりのクールダウンの方法で気持ちを落ち着けましょう。たとえば、好きな音楽を聴くことでもいいですし、その場を離れて深呼吸する、お茶を飲むなどでもいいですね。

意識的に子どものよかったところを探してみる

落ち着いたら、子どものよかったところを探します。たとえば、「元気で友達もたくさんいる。外で遊ぶのが好きだし、食べることにとても興味関心がある。進んで手伝いもしてくれる。こういうときの我が子はイキイキしているし、それを見るのはとってもうれしい」というふうに。落ち着いて子どものよかったところを探してみると、「好きなことがある我が子はステキだな、好きなことへの可能性の芽を育てていけるといいな」と思えるようになります。

この場面で、子どもに何を学んでもらいたいのかを考えましょう

人は何のために勉強するのでしょうか。アドラー心理学には、「人は社会の中で、周りの人々と関わりながら生きているので、自分のやりたいことをするというだけではなく、周りの人の役に立つこと、社会に貢献する人になることで居場所ができ、幸せになる。それが『自立する』『社会と調和して暮らせる』ことである」という考え方があります。

我が子が自分のもっている力を使って、社会に貢献していく道を探すこと、それに向けて準備をすること、わからなかったことがわかるようになっていくのが勉強です。「勉強するってワクワクして楽しい」ということを一番学んでもらいたいのです。

罰を使って勉強をさせていると、勉強を嫌いになってしまうかもしれませんし、自分で宿題の時間を考えて決めて取り組む、ということをしようとしないかもしれません。「自分のもっている力を使って、社会に貢献していく大人になる」ために、親ができる工夫があります。

それは、「子どもの話を聴く」ことです。

子どもの話を聴くときは、急かさず・ゆっくり・最後まで

子どもの話を、「要領を得なくて長い」と思って、きっとこうだろうと先読みしたり、だいたいのあらすじを先に作って当てはめたりしないで、ゆっくり聞いてみてください。子どもが話の途中で黙ってしまったときも、考えをまとめようとしているのかもしれないので、しばらく待ってあげましょう。

目安としては3秒待ってあげてください。待つときに、「子どもは、必ずよい意図をもって、私にこの話をしてくれている」と思いながら待つことを心がけてください。子どもの話を急かさずゆっくり最後まで聞くことで、子どもはだんだん話をするのが上手になっていきます。さらに、「ちゃんと最後まで聞いてくれる」と思うと安心し、「親は私の仲間だ」と感じ、この次も話してくれるでしょう。

子どものほうを向いて話を聞く

子どもが話をしたら、子どものほうを向いてよく話を聞きましょう。自分の意見や提案を言う前に、子どもの話をしっかりと聞きましょう。話を受け止めてもらえているという感じは、大きな勇気づけになります。なぜなら、話を聞いてもらえていると、「所属している自分の居場所がある!」と感じることができるからです。人間はひとりでは臆病になりやすいのですが、仲間がいてそこに所属していると感じると、勇気が出ます。

子どもを褒めるとダメになるのはなぜ?│アドラー式子育て術「パセージ」の育児法

子どもの話を聞く
子どもの話を聴く姿勢と心をもちましょう

賞=ごほうび(ほめること)で子どもを動かしてはいけません

「嫌いなにんじんを食べたらおもちゃを買ってあげる」というような、賞を使って子どもを動かすと、賞の望ましくない効果が考えられます。

✔賞=ごほうび(ほめること)の望ましくない効果

・「賞」を目的に行動するようになる。
・「賞」がもらえないとわかると、適切な行動をしない。
・「賞」が次第にエスカレートする。
・結果ばかり重視して安易な手段をとったり、結果が悪そうだと投げ出してしまう

「アドラー心理学」が目指しているのは、子どもが適切な信念、すなわち、

1. 私は能力がある。
2. 人々は私の仲間だ。

ということを感じていて、その結果、適切な行動をすることです。これは罰を恐れている場合や賞を求めている場合と違い、子どもの内側に子どもを動かしている力があります。ですから、本当の意味で自立していると言えるのです。

賞=ごほうび(ほめること)と「勇気づけ」の違い

賞と「勇気づけ」の違いは何なのでしょう。

まず、目的が違います。「勇気づけ」は子どもが適切な信念をもつように援助することです。賞は、子どもが適切な行動をするように援助しているかもしれませんが、信念のことまで考えていません。そして、賞は条件つきです。「勇気づけ」は、子どもがどういう行動をしているかと関係なくできますが、賞は、子どもが適切な行動をしたときだけしかあげません。

「勇気」とは「みんなのことを考えて、したくても、してはいけないことはしないし、したくなくても、しなければならないことはする」という心につけた名前です。この心を育てるのに、賞ではこれができないことはもうおわかりですね。

「勇気づけ」られると、「私は能力がある」「人々は私の仲間だ」と感じることができます。そして、みんなのことを考えて自分にできることをしようと思うことができるのです。

失敗は「勇気づけ」のチャンス

本当は良い意図を持って、あるいは少なくとも「親を困らせてやろう」というような悪い意図を持たないで行動したのに、たまたま結果がうまくいかなかったことは、「不適切な行動」ではなく、「失敗」といいます。

子どもが「失敗」すると、ときには親は迷惑をかけられることもあるかもしれませんが、感情的にならないようにしてください。子どもを勇気づける力を失ってしまいます。子どもは失敗から学びます。失敗は成長するためのチャンスなのです。

もし、子どもが「失敗」してしまった場合、「勇気くじき」をしないようにしましょう。子どもの意図や努力やチャレンジに焦点をあてれば、「勇気づけ」はそう難しくはありません。

失敗してしまった子どもを「勇気づけ」るために

子どもが失敗したときこそ、十分に勇気づけてあげましょう。まずは、子どもの話をじっくりと聞いてみることです。そうして、失敗したために、子どもががっかりしていたり、動揺していたり、自分に腹を立てていたりすることを理解してあげましょう。親は子どもの味方、子どもの仲間なのですから。

賞罰ではなく、まず、子どもの話を聞く姿勢と心をもちましょう

勇気づけの第一歩は子どもの話に耳を傾け、子どもの考えや感情や意思を理解しようとすることです。あなたの意見は言わずに、心と身体を子どもに向けて、しっかり子どもの話を聴きましょう。親が子どもの話を十分聴くことで、子どもも親の意見を聴く準備ができます。

子どもの人生については、できるだけ子ども自身に考えて決めていってもらいたいですね。それが「自立する」ということですから。そのためには、親が指示するのではなく、子どもに問いかけることにより、子ども自身にどうするかを考えてもらうことが必要です。「問いかける育児」は、練習すると上手になっていきますよ。

親が感情に振り回されないためには?│アドラー式子育て術「パセージ」の育児法

感情に振り回されない親でいる

子どもに勇気づけの援助をするためには、子どもとの関係がよくなければいけません。そのためには、まずあなた自身が、子どもに対してマイナスの感情を持っていない状態でなければならないのです。そのうえで、毎日の暮らしの中で、子どもの適切な行動に、「正の注目」(「プラスの言葉がけ」ではなく、「プラスの感情で子どもと接する」こと)を与え、喜びや感謝の言葉を伝えてください。

では、どうしたら、子育てのさまざまな場面で、プラスの感情で子どもと接することができるようになるでしょうか。それは、「心構え」と「技術」の二段構えをトレーニングすることで、「感情的にならない」自分でいることができるようになります。

プラスの感情でいるための心構え

まずは、子どもを信頼して、子どもが自力でできそうなことは、親が手を貸さないで子どもに任せてみましょう。そして、子どもを尊敬します。子どもも大人も、ただ一回きりの人生を懸命に生きるひとりの人間としては同じだと考えられれば、自分にない長所をもっていることや、自分にはない発想をすることなどに気づくはずです。「子どもを信頼して、尊敬すること」が「心構え」です。

プラスの感情でいるための技術

プラスの感情でいるための「技術」は3つあります。

1. 親子で、「目標の一致」が取れているか考えること

目標が一致しないまま、親の要求を子どもに強いていると感情的になりがちです。たとえば、子どもが「学校へ行きたくない」と言っているのに、親のほうは行かせたいと思っている。これでは、目標が一致していないので、親はつい子どもに腹を立ててしまいます。そんな場合は、お互いに歩み寄って目標の一致するところを探せばよいのです。

2. 「誰の課題か」を考えてみること

子どもの不適切な行動だと思っているものの多くが、実は子どもの課題です。親が干渉しなくてもいいものなのです。以前は「やめさせなくては」とカッカしていたものが、実は子どもの課題で、親が介入しなくていいとわかると、感情的になることが少なくなります。

3. 「どうやって解決をしようか」と考えること

適切な行動を増やすことを目標にして、「適切な行動に丁寧に注目しよう」と決めて暮らしていると、プラスの感情を使うことが多くなって、マイナスの感情はあまり使わなくなります。

参考書籍『ほめない、しからない、勇気づける 3歳からのアドラー式子育て術「パセージ」』

書影
ほめない、しからない、勇気づける 3歳からのアドラー式子育て術「パセージ」

 

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『ほめない、しからない、勇気づける 3歳からのアドラー式子育て術「パセージ」』について

『嫌われる勇気』の大ヒットで空前の大ブームとなったアドラー心理学は、元来「教育と子育て」に根ざしたものです。本書は、30年以上支持されてきた、アドラーの考え方に基づいた子育て学習プログラム「パセージ」を紹介する初めての書籍。「パセージ」を学ぶお母さんのいる家庭をモデルにして、日々の子育てのお悩みエピソードをマンガで提示し、アドラーの思想に則った解決策を学びます。自立し、社会と調和して生きていく大人に育てるための、21世紀型「問題解決能力」を育む子育てメソッドです。

ほめない、しからない、勇気づける 3歳からのアドラー式子育て術「パセージ」(著/清野雅子・岡山恵実 定価:本体1300円+税/小学館)

著者・清野雅子、岡山恵実プロフィール

清野雅子(せいの・まさこ)

日本アドラー心理学会カウンセラー。野田俊作氏による育児勉強会を経て、草創期から『パセージ』を学ぶ。家族コンサルタントとして「パセージ」のリーダーを務める。2女の母。

岡山恵実(おかやま・えみ)

日本アドラー心理学会カウンセラー。家族コンサルタントとして「パセージ」のリーダーを務める。自助的学習グループ「アドラー銀杏の会」主宰。1女の母。

日本アドラー心理学会

アドラー銀杏の会

 

文・構成/HugKum編集部

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