弱者に寄り添う人たちに光が当たる物語に心震える
ウソがつけない不動産屋の営業マン・永瀬財地(山下智久)が日々成長していくNHKドラマ「正直不動産」(総合毎週火曜22時~)。最初に設定だけを見て、不動産屋の“正直営業”なんて本当に成立するのか!?と半信半疑でしたが、手垢のついた展開に逃げない着地ぶりに毎回感心しています。
言うまでもなく緻密な取材力にうなった原作コミックあってのドラマですが、主演の山下さんをはじめ、キャスト陣のハマり具合も絶妙だし、脚本のアレンジも秀逸。何よりも、コロナ禍で観るにふさわしいドラマだということを、回を追うごとに実感しています。
それは、普段は大っぴらに聞こえてこないお年寄りや下請け業者といった弱者の声を毎回取り上げている点です。しかもそこに立ち向かう永瀬の武器は“バカ正直さ”のみであり、毎回極めて真っ当なアプローチをしていくので、ドキドキハラハラさせられます。前6回も「打つ手がない」と白旗を挙げるかと思いきや、悪人成敗的なオチとなり、実に痛快でした!
山下智久が市原隼人に詰め寄る熱いシーンに息を呑む
(以下、ネタバレを含みます)
前回の永瀬は、同僚でライバルの桐山貴久(市原隼人)とペアを組み、大型案件に挑みましたが、なんと桐山にスパイ疑惑が浮上。決定打となったのは、悪徳業者であるミネルヴァ不動産の社長・鵤聖人(高橋克典)と桐山が一緒にいたところを永瀬が目撃したことです。ちなみに鵤役の高橋さんは、かなり漫画のキャラに寄せています(笑)。
桐山はこれまでの回で、永瀬と同じくバカ正直な月下咲良(福原遥)の援護射撃をしたり、誠実な永瀬に一目置くような素振りを見せたりと、“いい人フラグ”が立っていたので、ここへきて「裏切り者であってほしくない」と願った人も多かったのでは?
だからこそ、永瀬が桐山を問い詰めたあと、桐山が永瀬に「俺の何を知ってるんだ!」と応戦するバチバチのシーンには大興奮。ここはまさに山下さんと市原さんのお芝居の見せ場で、2人の表情からは、単なる怒りだけではなく「本当はお前のことを信じたいのに」という悲しみもにじみ出ていて、心に染みました。
結局、桐山の亡くなった父親が2次下請けの建築業者で、元請け会社に違法建築の責任を取らされて自殺したという過去が発覚。桐山は鵤からそのことを悪評として業界に流すと脅されていたとか。そのことを知った登坂社長が、部下である桐山を守ろうとしたことにもシビレましたが、今後、鵤と登坂のラスボス対決も見ものとなりそうです。
結局、桐山は辞表を提出しますが、永瀬は桐山が自分と同じく“カスタマーファースト”な仕事をしていたことを認め「俺はお前と仕事をしたい」と彼を引き止めるシーンにもグッときました。嘘つきを返上し、正直者となった永瀬を、桐山は「人は変われない」と冷めた目で見ていましたが、ようやく彼は永瀬が本当に「変わった」ことを認めたようです。
誰もが守るべき家族を持っているという普遍的テーマ
今回、永瀬と桐山は、下請け業者に安い金額で丸投げをしていた悪徳工務店の“成敗”に尽力しました。そこで浮き彫りになったのは、弱者である下請け業者の苦悩です。彼らは家族を養うために、“強者”である取引先には逆らえないという葛藤を抱えていました。
桐山は下請け業者にかつての父親を重ねていたようで、そこの台詞は原作コミックにもありますが、ドラマではさらに、宿敵といえるミネルヴァ不動産の社員・花澤涼子(倉科カナ)の母の顔を出すことで、より一層「誰もが守るべき家族を持っている」というテーマを色濃く打ち出せました。
花澤は利益を追求するやり手社員で、永瀬を目の敵のようにしつつも、彼に対して「フェアでいきたい」と、ちゃんと筋を通そうとするところは好感が持てます。そしてそんな花澤も、オフモードの時は、子どもに屈託のない笑顔を見せる良き母親であることがわかり、そこは大いにママパパたちの共感を得たのではないかと。
今後は、退社した桐山の動向はもちろん、永瀬と花澤の勝負も引き続き楽しみにしたいところですが、第7回で永瀬の過去が明かされるということで、そこも大いに気になります!
文/山崎伸子
「正直不動産」毎週火曜日、夜10時からNHK総合にて放送 再放送は毎週火曜日 午後3時10分~3時55分にNHK総合にて放送
見逃し配信はNHKプラスで!(放送後、最新話が公開されます)
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