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カナダ発・少女文学の古典「赤毛のアン」とは
まずは、『赤毛のアン』の著者や物語の背景をおさえておきましょう。
カナダの小説家L. M. モンゴメリの作品
『赤毛のアン』(原題: Anne of Green Gables)はカナダの作家のL. M. モンゴメリによって、1908年にアメリカで発表された長編小説です。
もともとは子ども向けに書かれた作品ではありませんでしたが、昨今では児童文学とみなされています。本屋さんでも児童書コーナーに陳列されていることが大半なので、子どもの頃に本作に触れた方が多いはず。
原題の「グリーンゲイブルズ (Green Gables) 」は、アンが住むことになるカスバート家の屋号を指しています。直訳すると、「緑の切妻屋根」という意味に。アンの髪色「赤」の補色でありながら、対照的な色彩でもある「緑」をイメージしたタイトルです。
国: アメリカ
発表年:1908年
おすすめの年齢:小学校高学年以上
作者のL・M・モンゴメリってどんな人?
L.M.モンゴメリ(Lucy Maud Montgomery/1874-1942)は、先述したとおり、カナダの作家です。教師や新聞社での記者兼雑用係を務めたのち、長編小説『赤毛のアン』を執筆します。はじめはどの出版社に原稿を持ち込んでも出版を断られていましたが、年月を経て再度交渉すると、今度はすぐに出版へ進展したといわれます。
幼い頃に母親を亡くしたモンゴメリは、『赤毛のアン』物語の舞台でもあるプリンスエドワード島のキャベンディッシュという小さな村で祖父母とともに暮らしていました。そのため、元々は孤児院暮らしでカスバート家に引き取られるアンには、自分自身を投影しているとも考えられています。
いつの時代の話?
『赤毛のアン』の時代背景は、正式には明らかにされていません。しかしながら、モンゴメリが小学生だった1880年代頃ではないかと一般的には推測されているようです。
1880年といえば、日本は明治時代。『みだれ髪』で知られる与謝野晶子や、『たけくらべ』の樋口一葉もまた、モンゴメリ と同様、1870年代に生まれて1880年代に少女時代を過ごしました。
物語のあらすじ|「詳しく」&「簡単に」2バージョンでご紹介
では、『赤毛のアン』はどのような物語なのでしょうか。ここからはアン・シリーズと呼ばれるシリーズのなかでも、一作目である『赤毛のアン』のあらすじをご紹介します。以下には、「詳しく」&お子さんへの説明に便利な「簡単に」の2種類のあらすじにまとめました。
あらすじ
舞台はプリンス・エドワード島。一軒家「グリーンゲイブルズ」に住むマリラとマシュー老兄妹は、畑仕事を手伝ってくれる男の子を孤児院から養子に迎えるつもりでした。けれども実際にやってきたのは、アン・シャーリーという11歳の赤毛の女の子。マリラはアンを孤児院に返そうとしますが、明るくおしゃべりなアンとその身の上に心を動かされ、彼女を引き取ることにします。
学校に通うことになり、隣の家に住む同い年のダイアナと親友になったアン。しかしながら、学校に行くとクラスメイトのギルバートに赤い髪の色をからかわれ、石盤で彼の頭を打ち、石盤を割るという事件を起こします。さらには、グリーンゲイブルズでお茶会を開いた際は、アンがいちご水と間違えてぶどう酒をダイアナに出してしまうといったトラブルも。
明るく無邪気で想像力豊かなアンは、その後もさまざまな騒動をおこしますが、周囲の人々からは愛され、頑固だったマリラも次第に心を許すようになります。
数年が経ち、アンはギルバートたちとクイーン学院に進学し教員資格取得を目指します。さらに、クイーン学院卒業後はレッドモンド大学への進学を決めますが、ある日、マシューが急死。アンは大学進学をやめて、隣町の教員になることを決意します。
すると、隣町の教員になることが決まっていたにもかかわらず、学校理事会にかけあって、アンに仕事を譲るギルバート。アンはギルバートにそれまでの態度や行いを謝罪し、ふたりはついに仲直りしました。
このように、11歳でカスバート家に引き取られてから、クィーン学院を卒業するまでのアンの少女時代5年間のエピソードを描いた物語です。
あらすじを簡単にまとめると…
舞台はプリンス・エドワード島。11歳の赤毛の少女、アン・シャーリーは、孤児院から一軒家「グリーンゲイブルズ」に住むマリラとマシューの老兄妹に引き取られます。
夢見がちでおしゃべりなアンが、町や学校で様々な事件を起こしながら、周囲の人々に愛され、少しずつ成長していく物語。
主な登場人物
ここからは、『赤毛のアン』に登場する主なキャラクターをご紹介していきます。
アン・シャーリー
孤児院から、マリラ&マシューに引き取られた11歳の赤毛の女の子。夢見がちで読書好き。一度話し始めると止まらないほどのおしゃべり。
マリラ・カスバート
兄のマシュウと一緒に暮らす女性。厳しい性格。アンへの接し方に戸惑いつつも、次第に打ち解ける。
マシュウ・カスバート
マリラの兄。寡黙な性格。頑固なところもある。
ダイアナ・バリー
アンと同い年で、近所に住む女の子。アンとすぐに打ち解ける。
ギルバート・ブライス
3歳年上ながら、同じクラスに所属する少年。アンの赤毛を「ニンジン」とからかったため、アンに石盤で頭を叩かれる。その後は数年間、アンに口をきいてもらえなくなる。
舞台となった「プリンス・エドワード島」はどんな場所?
『赤毛のアン』の魅力のひとつに、美しい景色の描写があります。舞台となっているのは、カナダにあるプリンス・エドワード島。いったいどのような島なのか、簡単にご紹介していきます。
カナダの東部にある「世界で最も美しい島」
プリンス・エドワード島は、カナダの東海岸にあるセントローレンス湾に所在する島です。細長い地形が特徴的で、その大きさは愛媛県とほぼ同じなのだとか。自然が多く、「世界で最も美しい島」との異名を持ちます。
かつてはイギリスに占領されており、1798年、イギリスの女王の父「エドワード」にちなんでこの島名がつけられました。カナダで最も小さな州でもあります。
作中に登場した花が咲き溢れる島
モンゴメリは花が大好きだったため、『赤毛のアン』の作中にはたくさんの花が登場します。りんごの花や、デイジー、レースフラワー等々…… プリンス・エドワード島に行ってみると、春・夏・秋、季節ごとに、アンの物語に登場した花を見られるかもしれません。
続編「アンの青春」~「アンの夢の家」のあらすじ
『赤毛のアン』には、上でお伝えしてきた物語のほか、アン・シリーズとして続編が存在しています。ここでは、「アンの物語」として描かれた2作目以降の『アンの青春』『アンの愛情』『アンの幸福』『アンの夢の家』それぞれのあらすじを簡単にご紹介します。
「アンの青春」のあらすじ
アヴォンリーにて小学校の新任教師となった16才のアン。マリラが引き取ったふたごをグリーン・ゲイブルズで育てたり、ダイアナやギルバートとともに村の改善協会を作ったり……。そのほかにも、新しい友ミス・ラヴェンダーとの出会いや彼女の恋と結婚、さらにはダイアナの婚約を経ながら、アンが少しずつ成長する様が描かれています。
「アンの愛情」のあらすじ
ギルバードとともにレッドモンド大学へと進学し、新しい友人たちと共同生活をはじめる、18才のアン。勉学に励みながらも、時に恋をしながら、アンはやがて真実の愛情を知ることになります。
「アンの友達」のあらすじ
夢見る少女だったアンを取り巻いていた、アボンリーの村の人たち。本作は、アンのお話から少し離れて、愉快な村人たちにフォーカスした短編集。ユーモラスで心あたたまる村人たちのエピソードが12作収録されています。
「アンの幸福」のあらすじ
大学を卒業したアンは、サマーサイド高校の校長になります。しかしながら、よそ者に敵意を持つ町の有力者一族や、人との関わり合いが苦手な副校長、意地悪な生徒たちが、アンの悩みのたねでした。
アンは医科大で勉強を続ける婚約者・ギルバートに向けて、そんな日々のできごとを、ユーモラスなタッチで手紙に綴ります。
「アンの夢の家」のあらすじ
25才のアンは、ついにギルバートと結婚します。フォー・ウィンズの海辺で、小さな「夢の家」にて新しい生活をはじめるふたり。個性的な隣人たちに囲まれながら、母になるアンの喜びと別れの悲しみを描いたシリーズ6作目。
「赤毛のアン」を読むなら
ここからは、そんな『赤毛のアン』のおすすめの本をお伝えします。本作に興味を持ったらぜひ手に取っていただきたい3冊をご紹介。
世界名作シリーズ 赤毛のアン (上) (小学館ジュニア文庫)
原作の世界観を大切にしたノーカット版でありながら、現代の小学生にもわかりやすい新訳を採用した一冊。アンをより身近に感じられると好評です。日本アニメーションが手がけた表紙も子どもたちを惹きつけます。
アンの青春 赤毛のアン・シリーズ 2 (新潮文庫)
『赤毛のアン』シリーズ2作目の本作は、16才のアンが小学生の新任教師として奮闘するさまが描かれたお話。日本で初めて『赤毛のアン』を翻訳した村岡花子による訳書で、シリーズのファンからも長く愛され続けている一冊です。
小学館世界J文学館(大型本)
1冊で125冊の電子書籍へと拡がる画期的な児童文学全集です。『赤毛のアン』はもちろん、その他の世界名作、現代児童文学、日本やアジアの古典、SF、詩まで、ほとんどを新訳で収載し、日本ではじめて読める作品までが網羅されています。
【ネタバレ】赤毛のアンの結末は?その後どうなる?
なかには、「とりあえず結末だけ知りたい」「一度読んだけど、あれってどうなったんだっけ?」そんな思いや疑問から本記事に辿り着いた方もいるのではないでしょうか。
ここでは、『赤毛のアン』シリーズでも特に気になるポイントを【ネタバレあり】でご紹介。ネタバレを見たくない方はご注意ください!
マシュウとの悲しい別れ。なぜ死んでしまったの?
アン・シリーズ1作目でマシュウが亡くなってしまうのは知っているけれど「なんでだったっけ?」という方は多いようです。
アンの奨学金受賞が発表された次の日、マシュウは亡くなった状態で発見されます。その原因は、ショック死。手に持っていた新聞に銀行の破産のことが載っていたため、作中では、それを見たショックで亡くなったと推測されています。
アンは誰と結婚するの? 子どもは?
なんとアンは、1作目では犬猿の仲だったギルバートと25才で結婚します。はじめて生まれた子どもは生後1日で亡くなってしまい悲しみに暮れるアンですが、その後も妊娠・出産を繰り返し、6人の子どもを育てあげます。
ギルバートは戦死するの?
ギルバートは戦争には行きません。しかしながら、アンの3人の息子は全員戦争に行きます。そして、長男のジェムが行方不明に(のちに帰還)。次男のウォルターは戦死してしまいます。
アンの最後はどうなるの?
ここまでも何度か述べてきたように、アンはギルバートと結婚し、7人の子どもを出産。1人目はすぐに亡くなってしまいますが、6人の子どもを育てる母となります。
さらには、アンの40〜75才までの短編が収録されたモンゴメリの遺作『アンの想い出の日々』では、子どものうちの3人が結婚をし、アンとギルバートは、3人の孫がいる祖父母になります。
少女アンが大人になるまでの成長が描かれた物語
今回は、『赤毛のアン』の背景やあらすじ、シリーズ続編についてお伝えしてきました。
夢見がちでおしゃべりな少女アンが大人になるまでの成長が、じっくりと丁寧に描かれた『赤毛のアン』とその続編。ご自身、もしくはお子さんの年齢に合わせてシリーズを読み進めていくと、アンと成長を共にしているような感覚が味わえそうですね。
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文/羽吹理美 構成/HugKum編集部