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妊娠中は「逆子」と「小さい」以外はなんの心配もなかったのに…
第一子の夏斗くんが生まれたのは、2016年6月29日。由子さんが27歳、毅さんが31歳のときでした。
「妊娠中は、逆子以外は気になることは何もありませんでした。”赤ちゃん小さいかも…”とは言われていたのですが、妊婦健診でもとくに異常はありませんでした。逆子がずっとなおらないので、予定帝王切開で出産することになりました。しかし予定日の2週間前に破水してしまい、出産する総合病院にすぐに行きました」(由子さん)
1766gで誕生。小さかったのでNICUに入院
夏斗くんは、身長43cm、体重1766gで誕生しました。
「へその緒が絡まってしまったのですが、取り上げてくれた産科の先生は、“少し小さいけれど元気だから大丈夫だよ!”と言ってもらいました。2500g未満の低出生体重児だったので、念のため夏斗はNICU(新生児集中治療室)のある病院に搬送されました。NICUを退院できたのは生後1カ月前です」(由子さん)
夏斗くんの名前は、夫婦で決めました。
「本当は予定日が7月で、夫婦で夏が好きなので名前に“夏”という字を入れたいと思い、字画をいろいろ調べて“夏斗(なつと)”と名付けました」(毅さん)
肌や髪の毛の色が薄い夏斗くんを見て、違和感が
由子さんがまず違和感を覚えたのは、夏斗くんの肌や髪の毛の色です。
「肌が白く、髪の毛も薄茶色で私や夫似ではないので、なぜだろう?と思いました」(由子さん)
アンジェルマン症候群の特徴には色素異常があります。
首がすわって、寝返りはできたけれど、おすわりができない
アンジェルマン症候群は発達の遅れも代表的な症状の1つですが、由子さんも生後7カ月ごろから夏斗くんの発達が気になり始めます。
「3ヵ月で首もすわったし、5か月で寝返りもしたのですが、おすわりができなくて…。11カ月で受けた乳幼児健診のときもおすわりができていなくて、発達外来を受診するように言われました。そこから療育相談センターを紹介されて、脳のMRI検査なども受けたのですが原因がわからないと言われました」(由子さん)
とても元気だったのに、1歳半のとき、けいれんで救急搬送される
夏斗くんは、発達は遅れていてもとても元気なので経過観察となりました。
「当時は、まさかこんなに大きな病気が隠れているとは思わずに、時間はかかっても、そのうちみんなに追いつくと思っていました」(毅さん)
しかし事態が一変します。
「1歳半のときです。旅行から帰ってきた直後に、けいれんが起き救急車を呼びました。その後毎日のように数秒身体がピクつくけいれんのような症状が続きました。」(由子さん)
2回目のけいれんで、医師から初めて染色体検査の提案が
「1回目のけいれんから5カ月が経って、再びけいれんが止まらなくなり大学病院に救急搬送されました。このとき初めて先生から“染色体の検査をしてみてはどうでしょうか?”と言われました」(由子さん)
アンジェルマン症候群は、15番目の染色体に何らかの問題が生じて発症します。
多くは遺伝性ではありませんが、このとき由子さんは第二子妊娠中で、予定日も近く「もし下の子も同じ病気だったら…」という不安もありました。しかし、このまま病名がわからずに漠然とした不安を抱え続けたくないという思いから、夫婦で話し合って染色体検査(FISH法)を受けることにしました。
染色体検査を受けて、アンジェルマン症候群と判明
染色体検査を受けて、初めてアンジェルマン症候群と判明します。診断がついたのは、夏斗くんが2歳3ヵ月のときです。
アンジェルマン症候群は、妊婦健診や乳幼児健診ではわからない病気です。一般的な血液検査や脳のMRI検査などをしてもわかりません。①歩行が不安定、②言葉が出ない、③てんかん発作などの症状が揃って、初めてアンジェルマン症候群が疑われます。発達の遅れがあっても、診断がつくまでに時間がかかることは珍しくありません。
医師から「一生、歩けないかもしれない」と言われて…
「先生からアンジェルマン症候群について説明されたとき“もしかしたら一生、歩けないかもしれません”と言われて、その言葉が胸にぐさりと刺さりました。それまで“時間はかかってもいつか絶対、みんなに追いつく”と思っていたので…。帰りの車の中で、由子と2人で泣いたことを今でもはっきり覚えています」(毅さん)
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撮影/五十嵐美弥 取材・文/麻生珠恵