人の歯の進化と役割
まずは、ヒトが進化したことによってどのように歯が変化したのか、歯の役割について解説していきましょう。
歯の歴史: 進化の中での変化
ヒトが進化するなかで、歯も変化していきました。
ヒトは無脊椎動物、脊椎動物、哺乳類と進化していきます。哺乳類のなかから、さらに原猿目、広鼻猿、狭鼻猿、そして類人猿へと進化しました。
歯の数は原猿目では38本、広鼻猿では36本、狭鼻猿では32本、そして類人猿32本と変化していきます。現在のホモ・サピエンスも32本の歯があります。
歯の数が減っているのはなぜなのでしょうか。
化石の研究などにより、その理由は立位歩行や脳の増大などによるものだといわれています。立位歩行により手が自由に使えるようになり、脳が大きくなったことで火や道具を使えるように進化しました。それにより、ヒトは食べ物を調理して食べるようになっていきます。固いものを小さくしたり加熱したりして調理することで、食べ物は細かくやわらかくなり、噛む力が必要なくなっていきました。
それが、歯の数が減った理由です。また数だけでなく、歯の大きさも小さくなっています。今後も、歯が退化していく可能性が十分に考えられます。今より歯が小さくなり、数も減っていくかもしれません。
各歯の特定の役割とは?
歯には「切歯(せっし)」「犬歯」「臼歯」の3つの種類があります。
歯のおもな役割は、食べ物を噛むことです。そのほかにもそれぞれの歯には役割があります。どんなものなのか見ていきましょう。
門歯: 食べ物の第一のゲートキーパー
切歯とは、前歯のことです。上下左右でそれぞれ2本ずつ、計8本あります。
正中にある2対の前歯は中切歯(ちゅうせっし)、その隣の前歯を側切歯(そくせっし)といいます。
切歯は、6歳前後で抜け変わるのが特徴です。
門歯の形とその理由
切歯の形は、薄く平べったい形をしています。また、先端が鋭くなっているのも特徴です。上下の切歯が噛み合うことでハサミのような形になり、食べ物を噛み切ることができます。
門歯が果たす役割: 切ること
切歯のおもな役割は、食べ物を噛み切ったり、ちぎったりすることです。
また口の中央にあり、口が開いたときに少し見えることから、顔の印象に大きな影響を与えます。
そのほか、発音をするときにも重要な役割を担っています。とくにサ行を発音するときには、上の前歯がないと発音しにくくなります。
犬歯: さすがの切れ味!
犬歯は前歯と奥歯の中間にある、手前から3番目の歯のことです。上下左右それぞれ1本ずつ、計4本あります。
犬歯の特徴的な形状
犬歯の形は切歯よりも太くて長く、先端が尖った円錐形をしているのが特徴です。
またほかの歯よりも根が長いため、強度があります。
犬歯の主な役割: 切ると裂く
犬歯のおもな役割は、食物を噛み切ること、引き抜くことです。
食事以外の役割
犬歯の食事以外の役割は、噛み合わせたときに切歯や奥歯に負荷がかかりすぎるのを防ぐことが挙げられます。また、顎を左右に動かすときのガイド役も担っています。
臼歯: しっかりと噛む力の秘密
臼歯とは歯列の奥にある歯で「奥歯」ともいいます。「6歳臼歯」と呼ばれることからもわかるとおり、6歳頃にいちばん早くに生えてくる永久歯です。
臼歯には「小臼歯」と「大臼歯」があります。小臼歯は上下左右それぞれ2本ずつの計8本、大臼歯は上下左右それぞれ3本ずつの計12本あります。
臼歯の大きさと表面の特徴
臼歯は、永久歯の中でいちばん大きい歯です。臼状の形をしていて、上面は少しでこぼこしています。
なぜ臼歯は食べ物を効果的に噛むのか?
臼歯は、上面は少しでこぼこしています。そのため上下の臼歯の面が擦り合わさることで、食べ物をすり潰したり、噛み砕いたりすることができます。
咀嚼と消化への貢献
臼歯は、食べ物を噛んで擦りつぶす役割があります。食べ物を擦り潰したり、細かく砕いたりすることで、唾液の分泌を促進しながら消化を助けます。
臼歯のそのほかの役割
臼歯は歯並びや噛み合わせの基準となる歯で、それらを整える役割があります。
また臼歯でよく噛んで食べることにより、顎の骨や口の周りの筋肉の発達を促す役割も担っています。
歯のケア: 一生持続する美しい歯のために
ここでは、歯を健康に維持するケアのポイントをご紹介します。
正しいブラッシングの方法
歯のケアでいちばん大切なのが、正しいブラッシングです。正しいブラッシングをすることで歯垢を除去し、歯周病予防にも効果があります。次のようなブラッシングの方法をマスターしましょう。
●直角磨き
直角磨きは、歯の汚れを取るブラッシング方法です。虫歯予防に効果があります。
【1】歯ブラシの毛先を歯の面に直角にあてます。
【2】前後にゆっくりと細かく動かしましょう。このとき、シャカシャカと音をさせないようにすることが大切です。音が鳴るくらいの動かし方だと、歯ブラシの毛先が寝てしまい、汚れが落ちづらくなります。
【3】臼歯の上面も、歯ブラシを直角に当てて磨きます。かき出すようにブラッシングしましょう。
【4】歯の裏側も同様に磨きましょう。
●ななめ磨き
「ななめ磨き」は、歯と歯茎の間にある「歯周ポケット」の汚れを取り除くブラッシング方法です。歯周病を予防する効果が期待できます。
【1】鉛筆を持つように歯ブラシを持ちます。
【2】歯ブラシの毛先を、歯と歯茎の境目の部分にななめ45度の角度にあてます。
【3】左右にゆっくりと細かく動かし、歯周ポケットの汚れをかき出すようにブラッシングしましょう。このとき、歯ブラシの毛先が歯と歯茎の境目から離れないようにするのがポイントです。また、ゴシゴシと力を入れて磨くと歯茎を傷つける恐れがあるため、あまり力を入れすぎないようにすることも大切です。
定期的な歯科チェックアップの重要性
人間は歯がなくなると食べられる物が限られて、栄養バランスが崩れる恐れがあります。また食べ物が噛めなくなれば、脳の活性化を促すこともできなくなってしまいます。
歯を失ってしまうおもな原因は、むし歯と歯周病です。正しい歯磨きをすることに加え、定期的な歯科チェックアップも受けるようにすれば、早期発見につながり歯の健康を維持できます。
歯科チェックアップでは、歯並びや噛み合わせの確認、歯が正しく磨けているか、口の中の健康状態などをチェックしてもらえます。また場合によっては歯垢の除去や、ブラッシング指導も行ってもらえます。最低でも年に1回は、歯科チェックアップを受けるようにしましょう。
歯磨きのタイミングと回数
歯磨きのタイミングは、何を防ぎたいかによって異なります。
虫歯を防ぎたい場合は、食事のあとすぐに歯磨きしましょう。酸によって歯が溶ける「酸蝕症(さんしょくしょう)」を防ぎたい場合は、食事をし終わって30分経過してから行うのがよいとされています。
歯磨きの回数は、1日最低でも2回するとよいといわれています。ただし近年では、1日3回短時間に磨くよりも、1日に1回しっかり丁寧に磨いたほうが、むし歯や歯周病の予防に効果的という研究結果もあります。
1日に1回しっかり丁寧に磨く場合は、寝る前に歯磨きをするとよいでしょう。このときは歯磨きだけでなく、デンタルフロスや歯間ブラシなども使い、歯と歯の間に付着した汚れをしっかり除去すると効果的です。
歯の健康を守る食事と習慣
歯の健康づくりには、食事と生活習慣も大切です。次のことに気をつけましょう。
・栄養バランスのよい食事を心がける
・食事をするときには、よく噛んで食べる
・食後に歯磨きをする
・定期的に歯科検診を受ける
・歯に不具合を感じたらすぐに歯科を受診する
歯の健康を維持しよう!
歯は食べ物を食べるときに重要な役割を担っています。また、言葉を発音するときにもなくてはならない存在です。ご紹介した正しいブラッシング方法を実践し、定期的な歯科検診を受けて歯の健康を保ちましょう。
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文・構成/HugKum編集部