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まず「学びを楽しむ土台」を作ろう
SAPIX(サピックス)は、これまで10万人以上の小学生に中学受験指導をしてきた、トップクラスの中学受験塾。難関校に合格者を多く輩出している、小学生の学びのプロ集団と言えます。
教育ライターの佐藤智さんは、SAPIXに取材をした際、中学受験をする・しないにかかわらず、「学びを楽しむための土台」を作ることが重要だという姿勢に共感したと語ります。今回はご家庭で役に立つ学びのノウハウ、特に算数で伸びる子を育てる取り組みについてお話をうかがいました。
詰め込み式の勉強は、学びをつまらなくする
−本を作るにあたって最初に打ち合わせをしたとき、SAPIXについてどんな印象を受けましたか?
佐藤さん:今回『10万人以上を指導した中学受験塾 SAPIXだから知っている頭のいい子が家でやっていること』という本を作るきっかけは、編集者さんの「うちの子、もう小学4年生なのに全然勉強できないし、やる気もない。どうしたらいいんでしょう……」という悩みから始まっています。
中学受験の塾というイメージから、はじめは効率的に知識を詰め込むことに重きが置かれているのではないかと思っていました。しかし、「もっと学びに向かう力が必要なんです」という話をされていて、そこにすごく共感しました。
私たち親世代が受けてきた教育は、土台の部分ができていないまま、どんどん知識を積み重ねていって、大人になったら全部忘れてしまう…というものだったと感じるんです。勉強イコールやらされることだった大人は、すごく多いと思うんですよ。そうじゃなくて、土台の部分、すなわち「学びって楽しい」ということを体感していくことが大切なんです。中学受験は、結果ではなくひとつの過程で、それ以降伸び続けていく子を育てていくことが大事だとSAPIXの先生もおっしゃっていました。
算数は ゲーム感覚で学びに取り組むことが鍵
−たとえば、学びを楽しくするために親ができることは何がありますか?
佐藤さん:遊びの中で学んでいくのが一番です。子どもに対するアプローチとして大事なことは、勉強感を出さないこと。「いまからゲームをするけれど、これは算数の勉強になるのよ」というように保護者が力んでしまうと、子どもはわかるんですね。楽しんでやるってことが大事だと思います。
−生活の中で算数に親しむコツはありますか?
佐藤さん:たとえば、算数の中で単位の学習などがつまづきがちなのですが、単位の表を見て記憶するより、一緒に料理をした方がずっと印象に残ります。使う材料の計量をしてもらったり、2人分のレシピを見て、「4人家族で妹は一人前食べ切れないから、3.5人分で計算してもらおうかな」と投げ掛けたりすることが、いい学びにつながります。
『10万人以上を指導した中学受験塾 SAPIXだから知っている頭のいい子が家でやっていること』より
親子で九九クイズをしたり、割引率を体感して数の体験を
−他に、算数の勉強を遊びに変える方法はどんなものがありますか?
佐藤さん: 算数では、「図形」と「数字」を身近に感じることが重要です。数字にまつわる体験と図形にまつわる体験を意識的に設けていきましょう。
たとえば図形なら、ブロック、パズル、折り紙で遊ぶのもいいですね。小2の単元では、三角形と四角形の特徴を学びます。そこで「身近な四角、三角探しをしてみよう」と声掛けし、日常の中から一緒に形を探すなど遊びながら楽しんでみる方法も有効です。低学年のうちは、ゲーム感覚でやるのが最適です。
また、九九の暗記のために、九九のポスターをトイレに貼っておくご家庭が多いですが、それよりは、親子で一緒に九九クイズで遊んだほうが楽しんで覚えられます。
『10万人以上を指導した中学受験塾 SAPIXだから知っている頭のいい子が家でやっていること』より
佐藤さん:分数や小数は、はじめて触れる抽象概念になるので、つまづく子が多いです。親子でスーパーに買い物に行って「何割引」や「何%オフ」などを計算し、生活の中から親しめるといいと思います。野球が好きな子ならば打率、バスケットボールが好きな子であればシュート率などを一緒に見ていくなど、スポーツから学ぶ方法もあるでしょう。
親ができることは、心から一緒に楽しむこと!
―算数以外の勉強でも、家庭でできることはありますか?
佐藤さん:たとえば作文ならば書く前に「どんなことを書くか話を聞かせて」と話を聞いて伝えたい内容を整理していったり、理科であれば一緒に散歩して様々な植物や生物に出会う体験を積んだりと、一緒にできる学びはたくさんあります。
それから大前提として、たとえ保護者自身に苦手教科があったとしても、「おもしろくない」「きっとこの子も苦手よね」と決めつけないことも大切です。小中学校の時は嫌いでも、大人になって勉強からちょっと離れることで、見方が変わったりするものです。たとえば数学のドキュメンタリーなどは、大人になって観ると意外とおもしろい。親の勉強への苦手意識を緩和することも必要だと思っています。
つまづきは「どこまで戻って学ぶか」を先生に相談して
―子どもに対しても、苦手な教科を重点的に楽しめるよう取り組んだ方がいいですか?
佐藤さん: 苦手にばかり注力すると、その教科が嫌いになってしまうこともあるので要注意です。時間をかければいいというものではなく、「何につまづいているのか」「どこまで戻って学べばよいのか」を学校や塾の先生と作戦を立てて臨めるとよいでしょう。
それに、SAPIXの先生に中学受験の話を聞くと、いまは大人も答えに困ってしまうような入試問題がたくさんあります。詰め込んだ知識を問うというよりは、いろいろな知識を組み合わせたり、体験から自身で考察したりして解答させる問題も多いです。たとえば、料理の問題で「コーヒーの淹れ方」や「みりんの役割」などが出題されるんです。いろいろなことに興味関心を持って、なぜだろう?と子どもの知的好奇心をくすぐることが子どもの学ぶ姿勢につながるように思います。
「頭のいい子」は、学び続ける力がある子
−何でも自分から取り組めるような「頭のいい子」というのは、どういうお子さんだと思われますか?
佐藤さん:学びに関心を持って、学び続ける力がある子だと私は考えています。子どもはもともと、「学ぶことが楽しい」とか「これを知りたい」という気持ちを持っているものです。好奇心や興味関心、探究心を持つことは、新たなことへ挑戦する原動力となります。しかし、現在の教育では、そうした主体性を削ぎ落としてしまうことが多い。いかに子どもの関心の芽をつぶさずにその子の良さを伸ばしていくのかが大事だと思っています。
SAPIXで子どもたちと接し続けるSAPIX YOZEMI GROUP共同代表の高宮敏郎さんは、その土台となる力は
①「知りたい、わかりたい」という好奇心
②言われたことに対して「そうなのかな?」と批判的に考える力
③自らを表現する
『10万人以上を指導した中学受験塾 SAPIXだから知っている 頭のいい子が家でやっていること』より
と語っています。なぜ?どうして?と質問攻めにする子は、将来的に学力も伸びるといいます。
自発的に学び続ける子は、自己肯定感が高い
−子どもが学びへの意欲を持ち続けるにはどうしたらいいですか?
佐藤さん:まず「学び」を、机に向かってテキストとノートを開いているものだけに限定して考えない方が良いでしょう。あらゆることを吸収しようという姿勢や、興味があることに没頭できること、また「これが好きだ」と表明できるということが、ひいては「勉強が得意」につながります。
学習指導要領では「探究学習」が重視されています。探究学習では、「課題(問い)の設定」→「情報の収集」→「整理・分析」→「まとめ・表現」をスパイラルに繰り返していきます。しかし、高校の先生にインタビューすると、生徒たちは「問い」がたてられず、課題の設定ができないといいます。探究的な作法を十分に学べていないという課題もありますが、幼少期に持っていた「あれをやりたい」「なんでこうなるんだろう?」という好奇心を失っているという課題が大きいです。小さい頃から、いかに子どもの興味関心を失わせずに、学びの原動力につなげていくかということは教育の命題だと思います。
−探究心を持続させるためには、どんなことに意識して関わっていったらいいですか?
佐藤さん:探究心を持って行動できるかどうかは、自己肯定感も関わってくるポイントだと考えています。社会的学習理論で知られるカナダ人心理学者・バンデューラの研究では、「自分は目標を達成できる」と思えば行動できる可能性は高まり、「自分には無理」と思ったら行動は起こりにくくなると言っています。自分はまた失敗しそうだと思ったら意欲はわきにくいですよね。
ちなみに、
①さまざまな体験活動をしている
②異年齢と交流している
③読書の量が多い
ということが、自己肯定感のアップにつながるという研究結果があります。参考にしながら、学びの土台となる自己肯定感を築いていけると良いのではないでしょうか。
子どもの人生は長いから、自発的に学ぶ楽しさを知ってほしい
−学び続ける力は、小中学校でも、大学生や社会人になっても必要になってくると感じます。
佐藤さん:人生の初期の段階で、自発的に学ぶ楽しさを知ることはとても重要なことだと思います。今の高校生は107歳まで生きる確率が50%といわれているそうです。めちゃくちゃ長い人生ですよね。だからこそ、ずっと受け身で生きていくのはしんどいと思うんです。
たとえ中学受験をしても、志望校に合格することだけが成功だと思ってしまうと辛いです。合格したとしても、親子関係がめちゃめちゃになったとしたら、それは失敗じゃないですか。受験結果にかかわらず、また頑張ろう、もっと勉強してみたい、と思えることが成功なのではないかと思っています。多様な体験の中から、子どもが好きなものに気づき、親子で対話を楽しんでいくのが第一歩になると思うのです。ぜひこの本も、ヒントとして使っていただけたらと思っています。
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『10万人以上を指導した中学受験塾 SAPIXだから知っている 頭のいい子が家でやっていること』
著者:佐藤 智
出版社:ディスカヴァー・トゥエンティワン
SAPIXの有名講師人から聞いた自宅でもできる勉強の裏技をQ&A形式で伝授。教科別におすすめの学び方がまとめてあり、すぐに実践できる内容が満載。
お話をうかがったのは
文・構成/日下淳子