昔話や落語など、古くから日本の物語によく登場する動物、たぬき。可愛かったり、かしこかったり、おっちょこちょいだったり、ずるがしこかったり…。今回紹介する落語『狸札』にも、たぬきが登場します。一体どんなお話なのでしょうか?
『狸札』ってどんなお話?
『狸札』は「たぬさつ」と読みます。『狸の札』とも。別に、『狸賽(たぬさい)』という落語もあります。出だしは大変良く似ていますが、中盤以降の話の流れが異なります。
一匹のたぬきが子どもたちからいじめられていると、通りかかった八五郎という男がたぬきを助けました。たぬきは八五郎にお礼がしたいと家を訪ねることに。そうすると、八五郎は「明日織物屋の集金があるがお金がない。代わりにお札に化けてほしい」と。
さて、たぬきは無事にお札に化け、織物屋の集金を免れることができたのでしょうか? 続きは、次の「あらすじ」で紹介します!
物語のあらすじ
『ぶんぶくちゃがま』の物語など、たぬきには「化ける」というイメージがありますね。『ぶんぶくちゃがま』では、茶釜に化けたまま戻れなくなってしまうなど、たぬきが化ける話にはトラブルがつきものですが、今回は大丈夫だったのでしょうか?
あらすじ
昼間、子どもにいじめられているたぬきが一匹。それを見て、八五郎という一人の男がたぬきを助けました。感謝したたぬきは、何かお礼がしたいと、八五郎の家を訪ねます。
たぬきの話を聞いた八五郎は、「明日織物屋に4円50銭払わなくてはいけないが、お金がない。お金に化けてくれないか」と頼むことに。たぬきは、「一匹で一円札5枚は難しいので、五円札1枚に化けます」などと言いながら、さっそく化けてみせますが、大きかったり小さかったり毛が生えたりと一苦労。
なんとか五円札に化けましたが、折っても曲げても畳んでもダメ、挙げ句の果てには回転させてもダメ、という注文が多いお札に。八五郎はそのお札をそうっとお膳の上に置いて、織物屋がやってくるのを待ちました。
さて、織物屋がやってくると、八五郎は「お釣りはいらない」と言いながら新品の五円札を差し出し、丁重に取り扱うように伝えます。驚きつつも文句は言わずに織物屋は去って行きました。
八五郎はうまくいったと、ほっと一息。しかし、織物屋に連れて行かれたたぬきのことを考えて、少し心配するのでした。と、その時、たぬきが八五郎の元へ逃げ帰ってきたではありませんか。何かあったのかと聞くと、たぬきは家を出た後のことを話し始めました。
やはり五円札をあやしいと思っていた織物屋は、お札を日に当てて透かして見るなどひとしきりお札を観察。やっと本物だと納得してもらえましたが、織物屋がお札を畳んで財布の中へしまったので、苦しくてたまりません。
耐えかねて財布の底を食い破り、外へ出て、こっそり逃げ帰ってきたのだそうです。その話を聞いて八五郎は「よく帰ってきたな」と言いますが、そこで話は終わりませんでした。
たぬきはごそごそと懐からお札を取り出すと、こう言いました。「財布の中に五円札が3枚あったので、逃げるついでにお土産として持って帰ってきました」と。
あらすじを簡単にまとめると…
いじめられていたたぬきを助けてくれた八五郎。たぬきは八五郎に恩返しするためにお札に化けます。織物屋の集金後、財布の中にしまわれたお札のたぬきは苦しくなり、財布の底を破って逃げ出します。逃げ出す際に、財布の中のお札を盗んできたたぬきは、八五郎の元へ戻り、お土産にとそのお札を渡しましたとさ。
主な登場人物
お札に化けられるのか? 織物屋は騙せるのか? と、ハラハラしながら物語を聞いていくと、最後に思いも寄らないオチが待っていましたね。魅力的なキャラクターのたぬきを始め、登場人物をおさらいしておきましょう。
たぬき
子どもたちからいじめられていたたぬき。たぬき自身も子どもで、八五郎に助けてもらった直後はそのまま親の元へ帰りますが、親から「きちんとお礼をしてきなさい」と言われて、八五郎の元へ戻ります。
最後のオチなど、子どもながらに随分機転が利く子たぬきでしたね。将来大物になりそうな予感がします。
八五郎
いじめられているたぬきを助けてあげる心優しい男。しかしお金がなく、翌日の織物屋の集金に悩んでいました。たぬきのおかげで集金を切り抜けても、たぬきのことを心配するなど、自分の利益だけでなく、優しさを忘れません。
お金がなくても、貧しくても、誰かに親切にすることを忘れなければ、自然と幸せが舞い込んでくるのかも…。
織物屋
今回は分かりやすく「織物屋」と表現しましたが、本当は「越後の縮み屋」。越後とは、現在の新潟県のあたり。越後地方で生産される、糸をよって縮み織りにした麻織物のことを「越後縮(えちごちぢみ)」と呼びます。
織物屋が遠い越後まで帰るということで、八五郎はよけいにたぬきのことを心配したのですね。
たぬきが登場する絵本を読むなら
今回の落語、たぬきがとても魅力的なキャラクターをしていましたね。落語や昔話には他にも、たぬきが出てくるお話があります。その中でも、子どもも読みやすい絵本や紙芝居として出版されているものを紹介します。
『えほん寄席 愉快痛快の巻』(小学館)
冒頭でも紹介した、『狸札』によく似た『狸賽』(たぬさい)という落語が『たぬきのサイコロ』というタイトルで収録されています。『狸札』とどのように違うのでしょうか?
『ごんべえだぬき』(KADOKAWA)
人情溢れるごんべえさんと、ごんべえさんの元にやってきた、お調子者でいたずら好きの子たぬきの物語です。
『たぬきのにゅうがくしき』(童心社)
桂文我による紙芝居。人間の小学校に入学したい子たぬきのために、お父さんたぬきはランドセルに変身します。一枚一枚めくられることに、物語へ引き込まれて行きます。
『狸札』の魅力は?
財布から逃げる際に、ちゃっかりお金を盗んでくるたぬき。なんとも機転が利き、賢くて肝が据わっています。こんな風に、たぬきというキャラクターは、どんな物語でも、なんとなく愛しく、憎めず、親しみがあるような気がします。『狸札』以外のたぬきが登場する物語も、ぜひ読んでみてくださいね。
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構成・文/伊藤舞(京都メディアライン)