落語『芝浜』の教訓が深い。大金を手にしても主人公が真面目に働いたわけとは【教養としての古典落語】

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落語『芝浜』のお話をご存じですか? 酒飲みでなまけ癖のある主人公の男が、浜で財布を拾ったところから始まるストーリー。大金を手にした男は、幸せになるのか、はたまた不幸な目にあってしまうのか。ここでは落語『芝浜』のあらすじや登場人物、おすすめの本や教訓を紹介します。

落語『芝浜(しばはま)』とは?

落語『芝浜(しばはま)』は、お話の見せ場のシーンが大晦日なので、年末になると東京の寄席では演じられることが多い作品です。

落語家・三遊亭円朝(えんちょう)が、「酔っぱらい」「芝浜」「革財布」の3つのテーマで作成したお話で、古典落語の中では名作と言われています。『芝浜』は実際に存在する地名で、現在の東京都港区にある「芝浦」を指します。

『芝浜』はこんなお話

無類の酒好きで腕はいいのにロクに働かない魚屋の主人公の男が、ある朝芝浜で革財布を拾いました。中を見ると、そこには驚くほどの大金が。男は浮かれてそのお金を自分の物にしようとしますが、妻の機転でその出来事は「夢」と思い込んでしまいました。男はそこから改心し働きに出て、成功して最後は自分の店まで持つまでになりました。

数年後、妻から財布を拾ったのは、実は現実だったと告げられた男。嘘をついてくれたお陰で自分は成長できたと、妻に感謝します。夫婦の支え合う様子が描かれた、ハッピーエンドのストーリーです。

『芝浜』のみどころ

『芝浜』のオチは「考えオチ」。「よそう。また、夢になるといけねえ」という最後のセリフは有名なセリフ。怠け者の主人公の成長がメインの人情噺で、当時の江戸っ子の会話のやり取りがテンポよくオチまで導いてくれます。落語家のそれぞれの演じ方や解釈の違いがあり、聴き比べをするのも楽しそうですね。

『芝浜』のあらすじ

江戸の町にある一組の夫婦が住んでいました。夫は酒におぼれ、仕事に行かなくなってから既に20日が経っていたようです。

ある夜、夫は「今後、酒を一切辞めるから今日は好きなだけ飲ませてくれ」と妻に約束をしました。しかし、仕事に出かける時間になっても起きそうにない夫。妻はしびれをきらし、仕事道具を準備して夫を起こしました。夫はいやいやながらも「約束したから仕方ないな」と、とぼとぼ海まで仕事に出かけたのです。

久々の海に到着すると、まだ夜が明けていません。妻が起きる時間を間違えてしまったようで、一服しながら夫は魚を仕入れる船が来るのを待ちました。その時、海の中になにやら皮財布らしきものが。男は財布を拾い上げ、中身を確認しました。

拾った財布の中身は

財布の中身は52両。驚いた夫はすぐさま帰宅し、妻に報告したのです。妻がそのお金をどうするつもりか問うと、夫は「自分の物にする」と言いました。妻に贅沢な着物を買ってこいだの、酒を頼めだのすっかり気が大きくなった夫。

風呂屋の帰り道、夫は友人たちを招待し家でどんちゃん騒ぎした後、寝てしまいました。目が覚めると、そこにはお酒を楽しんだ形跡と、夫が起きるのを待っていた妻の姿が。この支払はどうなると尋ねた妻に「拾ったお金がある」と強気の男。そこで妻が一言…。

財布を拾ったのは夢物語?

「商いもしないでお金を欲しがるから、財布を拾ったなんてつまらない夢をみるんだよ」と妻。これを聞いた夫は、しばらく混乱していましたが、徐々に受け入れていきました。今まで妻がどれほど諭しても、変わることがなかった夫は心から反省し「今日から酒を断ち、商売を頑張る」と自ら宣言したのです。

夫の見違えた変化

人は、周りからどれほど諭されても、自分で意識しない限りなかなか変わることはできません。しかし、一度「こうする!」と決意した日には、目を見張るような変化が訪れます。夫もその一人だったようですね。

次の日の早朝から早速仕事に行き、以前のお得意様を回りました。元々腕はいい魚屋だったので、すぐに客足は戻り、3年後には「魚勝」という店を持ち、人を雇うまでに成長したのです。

財布を拾った日から3年後の大晦日の日

財布を拾った日から3年経った大晦日の日、風呂屋から帰宅した夫は、昔妻が借金取りを追い返していた時のことを語りだしました。「あの時は大変だったが、頑張ればいい正月を迎えることができるんだなあ」としみじみ語る二人。

妻が「久しぶりにお酒を飲まないか?」と勧めたが、断る夫。その後、妻は夫に見て欲しいものがあると言い、竹のつつを押し入れから持ってきました。中を開けると、なんとお金が沢山出てきたではありませんか。

このお金は、3年前に夫が浜で拾ったものと告げた妻。夢の中の話だと思い込んでいた夫は絶句しました。妻は、夫が財布を拾った後大家さんにこっそり相談していたのです。

大家さんから、拾ったお金を使ったことが周りにばれると「島送り」になる可能性があるから、役所に届け出るよう勧められた妻。「大金を手にすると、ますます夫がダメ人間になってしまう。ここは夢だったということにしておこう」と妻が機転を利かし、眠りから覚めた夫に嘘をついていたのです。

その後、お金は引き取り手不明で戻ってきましたが、昔のだらけた夫に戻られることを恐れた妻は夫にそのことを話しませんでした。長年、嘘をついていたことを詫びた妻。しかし夫は「夢にしてくれてありがとう」と妻に感謝を伝えました。

揺るがない夫の決意

あの時お金を手にしていたら、今の幸せはなかったに違いない。二人はこの3年間を労いました。その時、こっそり昼間に購入したお酒を手にし再度「久しぶりにどう?」とお酒を勧めた妻。温めたお酒を大きな器で頂こうとした夫ですが、その手がふと止まりました。

どうしたのかと尋ねる妻に、「やっぱりやめとこう。また夢になるといけねえ」と夫が一言。「もう二度とお酒は飲まない」と夫の強い決意が垣間見えたところで、物語が終わっています。

登場人物

ここでは、『芝浜』に出てくる登場人物を紹介します。

旦那

棒手振(ぼてふり)の魚屋。魚屋としての腕はいいが、酒飲みでロクに働かない。途中改心して、必死に働いた。

しっかり者の妻。男が浮かれて大金を持ち帰ったが、冷静な対応を行った。

大家さん

夫婦の住まいの大家さん。相談に来た妻に「拾ったお金は役所に届けたほうがいい」とアドバイスしてくれた。

『芝浜』を本で読むなら

読み聞かせとして子どもと一緒に楽しめる絵本や、子どもが自分で読書できる年齢の子であれば、読書の時間に一人でも楽しめそうな本を紹介します。

しばはま (らくごえほん) 教育画劇

人間国宝・柳家小三治監修の落語絵本シリーズの一冊。木版画家の野村たかあきによる、インパクトある絵がお話を盛り上げます。子どもも大人も楽しめる絵本です。

新版 落語の名作 あらすじ100 (面白くてよくわかる学校で教えない教科書) 日本文芸社

こちらは、『芝浜』以外にも有名どころからマイナーなものまで、古典落語の名作をあらすじで紹介している一冊です。当時の人々の生活や笑いなど、古典落語の面白さが詰まっています。

『芝浜』から学べること

すっかりなまけ癖がついていた男が、偶然浜で拾った大金の入った財布を手にしましたが、機転を利かしてくれた妻の支えがあったからこそ、今の夫婦の幸せがあります。

落語の解釈は人それぞれですが、落語『芝浜』は

・日頃自分を支えてくれる人への感謝

・人から言われても自分で決意しなければ、人は変わることができない

これらのことを教えてくれるお話といえますね。

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構成・文/吉川沙織(京都メディアライン)

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