今年は辰年!「辰」は「たつ」だが「竜」ではないってどういうこと?【知って得する日本語ウンチク塾】

国語辞典編集者歴37年。日本語のエキスパートが教える知ってるようで知らなかった言葉のウンチクをお伝えします。

干支は、動物の意味ではない

十二支は暦法で使われた語で、子(し)・丑(ちゅう)・寅(いん)・卯(ぼう)・辰(しん)・巳(し)・午(ご)・未(び)・申(しん)・酉(ゆう)・戌(じゅつ)・亥(がい)の12です。

そして、これらに12の動物をあてはめて、日本では、鼠(子(ね))・牛(丑(うし))・虎(寅(とら))・兎(卯(う))・竜(辰(たつ))・蛇(巳(み))・馬(午(うま))・羊(未(ひつじ))・猿(申(さる))・鶏(酉(とり))・犬(戌(いぬ))・猪(亥(い))と呼ぶようになりました。

中国では古くから、十二支に動物を当てはめていたのですが、なぜこれらの動物が選ばれたのか、実はよくわかっていません。十二支で使われる漢字には、もともと動物の意味はなかったのです。

「辰」と「竜」もともとは何の関係もない漢字

 

今年は辰年(たつどし)です。動物では、「竜」のことですが、「辰」と「竜」も、もともとは何の関係もない漢字でした。では「辰」はどういう意味の漢字なのでしょうか?

「辰」という漢字のもともとの読みは「シン」です。

「辰年」のように「たつ」と読むのは、十二支に動物を当てはめたとき、5番目の「辰」を「竜」と考え、日本でこれを「たつ」と読むようになったからです。従って「辰」という漢字も、他の十二支の漢字と同じように、動物の意味はありません。

では「辰」はどういう意味の漢字だったのでしょうか。『新選漢和辞典』(小学館)によると「辰」の字源は、

「辰は、三月、房星の支配する農業の時季になり、草木が芽を出して変化するとき、雷が震(ふる)うことをいう。房星をもさす。他の説に、農具ともいい、貝殻の中から肉が出て動いている形ともいう」

と説明されています。「房星」は中国古代の星座で、蠍(さそり)座の頭部にある四星をいいます。「辰」の字源は諸説あるわけですが、何かしら農業と関係のある字だったようです。「農」という漢字には「辰」があります。「農」はこの「辰」が部首なのです。「辰」が「竜」と何の関係もない漢字だったことは、これで明らかでしょう。

ちなみに、「辰」が使われている漢字には、「唇」「娠」「宸」「振」「晨」「蜃」「賑」「震」「辱」などがありますが、「辰」が部首なのは最後の「辱」だけで、他の漢字の部首はすべて違います。クイズ問題にできそうですね。

さらに「辱(ジョク)」以外はすべて字音は「シン」です。「辰」が音を示しているのです。

「竜」は「龍」の省略形の俗字

ところで「竜」という漢字のことです。「竜」は常用漢字ですが、旧字は「龍」です。似ても似つかぬように思えますが、「竜」は「龍」の省略形の俗字だと考えられています。ただ156世紀の辞書にも「竜」の字が載っていますので、かなり古くから使われていたようです。

「芥川竜之介」でもまちがいじゃあないんだけど…やっぱり「芥川龍之介」がしっくりくる!

現在は「竜」が常用漢字表に載せられていますので、新聞などでは「竜」の方が使われています。でも、常用漢字表では「龍」も「竜」のところで括弧に入れて示していますので使ってはいけないわけではありません。私も「坂本竜馬」「芥川竜之介」と書くのはどうしても抵抗があるため、「坂本龍馬」「芥川龍之介」と書いています。

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神永(かみなが・さとる)
辞書編集者、エッセイスト。元小学館辞書編集部編集長。長年、辞典編集に携わり、辞書に関する著作、「日本語」「言葉の使い方」などの講演も多い。著書『悩ましい国語辞典』(時事通信社/角川ソフィア文庫)『さらに悩ましい国語辞典』(時事通信社)、『微妙におかしな日本語』『辞書編集、三十七年』(いずれも草思社)、『一生ものの語彙力』(ナツメ社)、『辞典編集者が選ぶ 美しい日本語101』(時事通信社)。監修に『こどもたちと楽しむ 知れば知るほどお相撲ことば』(ベースボール・マガジン社)。NHKの人気番組『チコちゃんに叱られる』にも、日本語のエキスパートとして登場。新刊の『やっぱり悩ましい国語辞典』(時事通信社)が好評発売中。

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