ウクライナや中東では軍事衝突が続く。国連安保理はどんな役割?
ウクライナや中東では軍事的衝突が依然として続いています。最近になって米国ではウクライナへの軍事支援を可能とする法案が可決され、戦況で劣勢に立たされていたウクライナのゼレンスキー大統領は米国に感謝の意を示しましたが、ロシアも今後いっそう攻勢を強化していく方針で、戦争の長期化が懸念されます。
中東では長年対立してきたイランとイスラエルが軍事的に衝突するという前代未聞の事態が起きました。双方とも大規模な被害を与えるというより、政治的にけん制するという限定的な攻撃でしたが、今後も予断を許さない状況です。このように世界では紛争が絶えません。
このような中、世界の平和と安全に貢献することを目的とする国連の安全保障理事会はどのような役割を担っているのでしょうか。
国連安保理の構造は?
先に結論となりますが、今日、国連安保理はウクライナやイスラエルの問題で機能不全に陥っており、何も重要な役割を果たせない状況にあります。では、なぜ何もできないのでしょうか。
それを理解するためには、国連安保理の構造を理解する必要があります。
国連安保理 常任理事国5カ国は任期なし・拒否権がキーに
国連安保理は常任理事国5カ国と非常任理事国10カ国の計15カ国で構成されます。常任理事国は米国、英国、フランス、ロシア、中国の5カ国で任期はありません。非常任理事国の任期は2年です。国連安保理で決議案が採択されるためには15カ国中9カ国の賛成が必要で、これは多数決の原則からすれば違和感はないでしょう。
しかし、常任理事国には拒否権という特権が与えられており、決議案に過半数の国が賛成していたとしても常任理事国のうち1カ国でもNoと言えば、その決議案は廃案となってしまうのです。
米中・米露の対立が大きな障壁に
要は、米中、米露が対立していれば、そもそも安保理は何もできなくなってしまいます。
米国が採択を目指す決議案にはロシアや中国が拒否権でNoと言い、ロシアや中国による決議案には米国がNoを突きつけるといった拒否権の乱用が横行しているのです。
拒否権の行使で採択にすら進めない現状
昨年秋以降、安保理ではガザ地区での即時停戦を求める決議案に対して米国が繰り返し拒否権を行使し、採択すらできませんでした。
3月下旬、即時停戦を求める決議案が再び審議され、今回は米国が棄権し、15カ国中14カ国の賛成で初めて決議案が採択されました。世界の安全と平和で主導的役割を担うべき安保理は、戦闘が始まって半年が経過してようやく即時停戦で合意したのは、あまりにも遅すぎます。
また、安保理ではロシア軍のウクライナからの即時撤退を求める決議案も繰り返し審議されてきましたが、この問題でロシアが拒否権を行使するのは目に見えています。ロシアは繰り返し拒否権を行使し、安保理はウクライナ問題では完全に機能麻痺の状態です。
そもそも、世界の平和を担う国連安保理の常任理事国が他国に侵略するなど、国連安保理の存在自体を疑う見方も少なくありません。今後、台湾有事などが発生しても、中国が拒否権を行使するのは目に見えているので、今後も機能麻痺の安保理が続くことは避けられないでしょう。
この記事のPOINT
- ①常任理事国5カ国は米国、英国、フランス、ロシア、中国。任期はなく、決議案を拒否する権利があり、一カ国でもNGを出すと決議が通らない。
②上記の常任理事国が各国の立場から拒否権を行使する。 - ③ウクライナ問題は、ロシアの拒否権行使により機能麻痺している。
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記事執筆/国際政治先生
国際政治学者として米中対立やグローバスサウスの研究に取り組む。大学で教鞭に立つ一方、民間シンクタンクの外部有識者、学術雑誌の査読委員、中央省庁向けの助言や講演などを行う。