「この季節にあの料理食べてたなあ」と思い出してくれたら嬉しい
-『日本の一年、節目の一皿 二十四節気七十候+行事いろいろ-食で季節を愛でる-』を制作することになったきっかけを教えてください。
「二十四節気・七十二候」に興味を抱いたのは、友人で詩人の臼井明大さんが2012年に出版した『日本の七十二候を楽しむー旧暦のある暮らしー』という本との出会いでした。その頃から、日本の四季に寄り添った暮らし方や行事食に惹かれ、いつかレシピ本にしてみたいと願っていました。
-マキさんの思い描く「二十四節気・七十二候」の暮らし方とはどのようなものなのでしょうか。
例えば、6月中旬頃は二十四節気では、「芒種(ぼうしゅ)」と呼ばれます。さらに「七十二候」では「蟷螂生(かまきりしょうず)」「梅子黄(うめのみきばむ)」などと分けて動植物の様子を短文で表しています。その時期には、二十四節気どおり本当によくカマキリを見かけるようになりますし、庭の梅の実も黄色く色づきます。スーパーでは、店頭に梅が並び出しますので買い物に行くだけでも季節を感じることはできます。
やはり食材は優秀で、その季節を物語ってくれていますよね。夏だったら、トウモロコシや万願寺唐辛子とか、ゴーヤなどがたくさん売り出されますから。わが家の庭でも大葉が勢いよく育っていくのを目の当たりにできるので、それらを料理に添えています。私にとって「二十四節気・七十二候」を感じる暮らしは特別なことではないのです。
-ご著書の中では、おばあ様とのエピソードも出てきますが、幼少の頃から行事食などを教えてもらっていたのですか?
祖母や母は、梅仕事や味噌づくりなどの手仕事をしていたので物心ついた頃には、お手伝いすることが当り前でした。特に私は梅干しが大好きなので、おいしいものを食べたいという思いの方が強かったかもしれません(笑)。あとは、祖母に「梅干しは1度作ったら、作り続けないと不幸になるよ」と言われていたので、今でも毎年20キロの梅干しをせっせと仕込んでいます。
-幼い頃に作ってもらった「節目の一皿」はありますか? また、いまお子さんに作っているものがあれば教えてください。
よく祖母がお祝い事の度に作ってくれていた「サンドケーキ」というお菓子があったのですが、コーンスターチを入れているのでサラサラと軽い口当たりでした。祖母が残してくれた手作りのレシピカードにのっていて、大人になってから昔食べていたケーキはこれなんだ!と気がついた時は感動した覚えがあります。
わが家の「節目の一皿」は、毎年5月の端牛の節句の「笹巻き蒸し寿司」。男子の成長を願う島根県の郷土料理に少し手を加えたものですが、息子の健康を祈りながら作っています。息子の反応は正直、薄いのですが…(笑)。私が、祖母に作ってもらっていたサンドケーキみたいに、いつか大人になってから、「この季節には、あの料理を食べていたな」とか、「あの時のあの味はこれだったんだ!」って懐かしく思い出してもらえたら嬉しいなぁと思っています。お料理は記憶に残るものだと思うので、こうした節目の料理は大切にしていきたいですね。
堅苦しくなく、気軽に作ってみてほしい
-この本は懐かしさの中に、新しさを感じるレシピが多い印象がありました。
ありがとうございます。「二十四節気・七十二候」の料理というと難しいと感じる方もいると思ったので、定番は残しつつも私なりにアレンジを加えています。若い方にも手に取りやすく、入りやすい感じにしたかったのです。そのため和食もありますが、洋風の料理やおやつも加えています。
-HugKumの読者は、小さなお子さんがいるパパ・ママも多いのですがオススメのレシピなどはありますか?
これからの季節には、「赤紫蘇シロップのドリンク」をぜひお子さんと試して欲しいですね。赤紫蘇のエキスの中にレモン汁を入れた瞬間、一気にワインカラーになる様子は実験みたいで楽しめるはずです。あとは、梅好きの私としては「とうもろこしと梅干しのごはん」は夏の大定番。梅干しの塩気とトウモロコシの甘さは、大人も子どもも好きな味です。小さなお子さんがいるご家庭ならお祝い事も多いと思うので、「赤飯」も参考にしてみてください。お赤飯は、個人的に蒸して作るレシピが好きなので昔から食べていたわが家の味をご紹介しています。
「とうもろこしと梅干しのごはん」
【大暑 三十四候 7月23日~7月28日頃 桐始結花(きりはじめてはなをむすぶ)】
<材料(2~3人分)>
米…1.5合
とうもろこし…2本
昆布(表面をふく)…5cm角1枚
梅干し…2個
酒…大さじ1
水…300ml
<作り方>
1.米は洗い、ざるにあげる。
2.とうもろこしは包丁で、芯から実をそぎ落とす。
3. 鍋に昆布、1、2を芯ごと加え、梅干し、酒、水を加えて10分おき、ふたをして強火にかける。
4.煮立ったら弱火にし12分炊き、10秒強火にし、火を止めて10分蒸らす。
5. 4から昆布ととうもろこしの芯を取り除き、梅干しを崩しながら全体をふんわり混ぜる。
「赤紫蘇シロップのドリンク」
【大暑 三十五候 7月29日~8月2日頃 土潤溽暑(つちうるおうてむしあつし)】
<材料(1回に作りやすい分量)>
赤紫蘇…300g
水…1.5l
レモン汁(またはリンゴ酢)…大さじ3
てんさい糖…300g
<作り方>
1.赤紫蘇は葉を枝から摘み、茎は切り落とし、よく洗う。
2.鍋に水を入れて煮立たせたら1を入れ、赤紫蘇の色が煮汁に移って、葉が緑色になったら火を止める。ざるを通してこし、汁を鍋に戻す。
3. 2にレモン汁、てんさい糖を加えて中火にかけ、アクを除きながら20分ほど煮つめる。
4.保存瓶に入れて、冷蔵庫へ。炭酸で割ったり、ジンで割ったりして。そのまま凍らせてシャーベットにしても。
-『日本の一年、節目の一皿』の本を通し、どのように活用して欲しいですか?
日本の素晴らしいところは、「二十四節気・七十二候」を取り入れると、実はほぼ毎日が行事だったりします。最近では、寒暖差が激しくて季節が分かりにくくなってきたなどと言われていますが、四季があるのは日本の優れたところ。この本を読みながらお子さんと一緒に「今日は、何の日?」みたいにページをめくりながら「今月は、こういうものを食べるといいんだね」って、楽しんでいただきたいですね。
特に小さなお子さんは、虫や鳥の声に敏感です。七十二候には、短文で動植物がたくさん登場しますので、絵本みたいに読み聞かせてもらえたら日常がより豊かになると思います。この本をすぐ手に届く場所に置いてもらって毎日ながめて欲しいですね。
「二十四節気・七十二候」にちなんだ料理、ぜひ作ってみて
インタビューを終えて、わが家の節目の料理について思いを馳せている筆者がいました。マキさんが語る、「あの季節のあの味」は、誰しも心の奥に記憶として残り、ふとしたきっかけで懐かしさと共に思い出せるものなのかもしれません。それは、食が記憶のバトンとなって親子の絆を深めることにも繋がっているのではないでしょうか。日本は四季折々の食材や動植物が豊かな国。その豊かさに感謝し、日本人が大切に築き上げてきた食への意識の高さをこの本を通して改めて教えてもらえた気がしました。
ワタナベマキさんの日常のワンシーンや季節の食材、動植物に対する優しい眼差しが散りばめられている『日本の一年、節目の一冊』は、日めくりカレンダーのように楽しむ方法もあります。何気ない普段の暮らしに彩りを添えてくれる“読むレシピ本”は、贈り物にしても喜ばれそうです。
本をチェック
二十四節気、七十二候、そして季節の行事を、著者・ワタナベマキが愛する日々の料理で、楽しくおいしく読み解きました。日々の節目を逃さず、大切に食べる94皿です。雛祭り、イースター、花祭り、八十八夜、夏越の祓、七夕、中秋の名月、クリスマスなど、その他の節目も合わせ、記憶に残る一皿をぜひ味わってください。
著者紹介
料理研究家。四季や風土を大切に祖母から教わった昔ながらの料理を現代に寄り添ったレシピにし、書籍、雑誌、テレビ等で伝えている。シンプルな食材と調味料、スパイスを上手に組み合わせ、食感や香りを大切にした料理を得意としている。
Instagram: @maki_watanabe
文・構成/川越光笑