子どもたちが遊びながらSDGsと出会える場所「ITOCHU SDGs STUDIO KIDS PARK」の狙いは?伊藤忠商事 菰田有花さんと「こどもの視点ラボ©」石田文子さんに聞く

子どもたちが遊びながら楽しくSDGsの考え方を体験できる東京・青山の「ITOCHU SDGs STUDIO KIDS PARK」。「自分に合ったSDGsに出会うきっかけ」を提供してきた伊藤忠商事が手掛ける、2022年にオープンした施設です。広報担当である菰田有花さんに、施設が誕生した背景などのお話を伺いました。

連載「子どもの未来を想う人に会いに行く」Vol.9 伊藤忠広報部 菰田有花さん

私たちが暮らす地球を守り、“持続可能な”よりよいものにしていくために守るべき17の目標「SDGs」。2015年の国連サミットで採択されたSDGsは、2030年までに達成することを目指して設定されています。

地球温暖化による気候変動とそれに伴う自然災害、環境汚染、貧困や飢餓、児童労働、教育格差など…子どもに負の遺産を残したくない大人はもちろん、これから私たちよりも長く地球で暮らすことになる子どもたちにも、自ら危機意識を持って向き合っていく必要があるのがSDGsなんです。

子どもとどのように取り組んだらいいのかわからないという方も多いと思いますが、遊びの中でSDGsのヒントを見つけられるユニークな体験施設が、東京・青山にあります。

大手総合商社の伊藤忠商事が手掛ける「ITOCHU SDGs STUDIO KIDS PARK」、そして併設されている「こどもの視点カフェ」。今回は、広報担当である菰田有花さんに、施設が誕生した経緯や自宅でもできるSDGsの取り組みについてお話を伺いました。

菰田有花さん

伊藤忠商事株式会社 広報部 菰田有花(こもだ・ゆうか)

/2016年伊藤忠商事入社。繊維カンパニーブランドマーケティング部門に配属。ブランドのインポート・ライセンスビジネスに携わり公式ECサイトの運営・デジタルマーケティング等に注力。2022年4月より現職、 Corporate Brand Initiativeにて「ITOCHU SDGs STUDIO」の運営を担当。

子どもたちがSDGsのヒントに出会える場所として

――遊びを通してSDGsの考え方を体験できる施設「ITOCHU SDGs STUDIO KIDS PARK」。こちらが誕生した経緯をお伺いしたいです。

菰田有花さん(以下敬称略)伊藤忠商事は、ビジネスを通してさまざまなSDGs の取り組みを行ってきたのですが、当社の行うビジネスに限定せず、世の中のあらゆるSDGs に関する情報を発信していく場所を作ろうということで、2021 年の4月に「ITOCHU SDGs STUDIO」という施設を開設しました。

伊藤忠商事のビジネスで関わる方たちだけではなく、すべての生活者の方たちに“自分ごと化”できるSDGs に出会っていただくきっかけを作っていこう、という思いで作られた施設です。

KIDS PARKは、次世代を担う子どもたちに向けての施設を作りたいということを考え、SDGsスタジオの開設から1年経った2022年の7月に開設しました。

ITOCHU SDGs STUDIO外観
「ITOCHU SDGs STUDIO」外観

――この施設ならではのポイントについて教えてください。

菰田:一番のポイントは、入場無料としているところです。SDGs の原則に「誰一人取り残さない」というところがありますが、やはりSDGs の施設ですし、そこは大切にしたいという思いで無料にしています。事前オンライン予約制は取っていますが、予約を取っていただければ、どなたでもご利用いただだける場所になっています。

あとは企画面で言いますと、遊び場の企画制作としてプロの会社であるボーネルンドさんに監修に入っていただいておりますので、安心安全に遊んでいただけます。対象年齢が未就学児から小学校低学年なんですけれども、まずは楽しく遊んでいただきながら、その中で SDGs のアイデアに出会っていただけるようなコンテンツを工夫して作っています。

菰田有花さん

――お客様からの反響はいかがですか?

菰田:親世代は SDGsについて学校で学んでいないので、どうやって教えればいいのか? 子どもに対してどのように関わり方を進めればいいのか? という悩みを持っている方も多いですよね。そういった方々が親子でいらっしゃって、遊びながら自然と「これ、家に帰っても真似できそうだな」というようなSDGs のアイデア、ヒントに出会っていただける場所なので、その部分がすごくありがたいというコメントをいただいています。

KIDS PARK「ステナイアトリエ」
廃材を使って自由にアートを作れる「ステナイアトリエ」 ※作品の持ち帰りはできません

――廃材を使ってアートを作るコーナー「ステナイアトリエ」がありましたが、家でも真似できそうだなと思いました。

菰田:KIDS PARKで出会ったSDGsのアイデアや考え方のヒントを帰ってからも活かしていける、日常的なSDGsのアクションにつなげていけるようにしたいということを意識していますので、「ステナイアトリエ」でペットボトルキャップや洗剤のキャップを使って工作したように、おうちに帰ってからも「これは捨てないで何かに使えそうだな」と思ってもらえたらうれしいです。

ほかにも、「ナナイロスカイ」というボールプールでは、七色に色分けされたカゴに同じ色のボールを入れていく遊びができますが、正しく色分けするという行動がゴミの分別の習慣にもつながるのではないかと。そういったさまざまなヒントを散りばめていますので、それをご家庭でも活かしていただけたらなと思っています。

KIDS PARK
KIDS PARK内のボールプール「ナナイロスカイ」

――小さい子はゴミの分別なんて意識していないと思いますが、家で「KIDS PARKでやったよね」というふうに声かけをしたり、行動を促しやすいですよね。

菰田:そうなんです。例えばゴミ箱やゴミ袋にシールをつけて色分けしておいて「そのゴミは赤に入れてね」なんて言えばわかりやすいかもしれませんね(笑)。最初から「燃えるゴミ」「燃えないゴミ」と言ってもよくわからないじゃないですか。そんな、SDGsのヒントになればいいなと思っています。

――デジタルの海をキレイにしていく「ヒラメキオーシャン」も、面白そうというだけでなくSDGsのヒントが隠れていましたね。

菰田:子どもたちがブロックでが作った生き物をスキャンすると、スクリーンの海の中に浮かんでいるプラスチックゴミが一つ消えて、自分が作った生き物に変身するというデジタルコンテンツなのですが、「プラスチックゴミを減らそう」という考え方自体にまず出会っていただきたいという思いがあります。

ゴミが減れば減るほど生き物が増えるということを目で見て感じてもらえると思うので、まずは考え方、アイデアに出会っていただくというところを目指しています。

KIDS PARK
KIDS PARK内のデジタルコンテンツ「ヒラメキオーシャン」

――いずれも実体験につながるとより学びが深まるような、最初のヒントが随所に隠れていますね。

菰田:はい。きっかけがあることが大事だと思うので、まずは楽しく遊んでいただいて、その先に SDGsに通じるアイデアがあればいいなという設計をしています。

――今後の展開など、新たな予定もありますか?

菰田:これまでも行ってきましたが、ハロウィンやクリスマスなど季節感のある工作をしていただけるワークショップは、これからも行っていきたいなと思っています。

また、新しいコンテンツとしては、今年4月に「むちゅう!ダンス」というKIDS PARKの公式ダンスを発表しまた。KIDS PARKに実際に足を運んでくださったご家族の方だけではなくて、遠方でなかなか来ることが難しいご家族、子どもたちに対しても何かご家庭で楽しめるコンテンツを作っていきたいという思いで公開したのがこちらのダンスです。

KIDS PARKのいろいろなSDGs のコンセプトを踊りで表現したものなんですが、思いきり体を動かすことは子どもの運動機能の発達にも効果があると言われているので、子どもにとって良い影響があるようなコンテンツとして今後広がっていけばいいなと思っています。

10月には、公式YouTubeにアップされている「むちゅう!ダンス」の動画に出演してくださっている“よしお兄さん”こと小林よしひささんと一緒に踊ろう、というイベントを開催しました。もちろん無料のイベントです。こういったリアルイベントも、今後定期的にやっていく予定です。

子どもの気持ちが体験できる「こどもの視点カフェ」も併設

こどもの視点カフェ
こどもの視点カフェ

ITOCHU SDGs STUDIO KIDS PARKの併設スペースに昨年4月にオープンしたのが、体験型カフェ「こどもの視点カフェ」。こども視点でさまざまな体験ができる、KIDS PARKで遊んだらぜひ立ち寄りたいスポットです。

こちらは、KIDS PARKのオープン時にITOCHU SDGs STUDIO GALLERYにて2か月間限定で開催された、子ども視点での体験を通して、子どもとの暮らしや社会の在り方について考える体験型展示「こどもの視展」を体験型カフェとしてオープンしたもの。人気を博した展示のコンセプトや、一部コンテンツを引き継ぎつつ、新たな子ども視点での体験ができるオリジナルフードメニューの提供なども。

「こどもの視展」を企画した、株式会社電通「こどもの視点ラボ©」の代表・石田文子さんにもお話を伺いました。

「こどもの視点ラボ」代表・石田文子さん
「こどもの視点ラボ©」代表・石田文子さん

――「こどもの視点ラボ©」は、電通の中で有志が集まって“こどもの当事者視点”について研究しているんですよね。

石田文子さん(以下、敬称略):はい。私にも子どもがいるのですが、子どもが成長してきて、赤ちゃん、幼児期を振り返ったとき「あのとき、もっと子どもについての知識があればもう少し優しくできたのに」とか「あんなにイライラしなくて済んだのに」と思うことが増えていって。

それと同時に、子どもへの暴力など不適切な関わりに関するニュースに触れるたび、すごく心を痛めていました。そういったネガティブなニュースを見て「自分はしないようにしよう」と考えるだけでなく、何か楽しい体験に転換することで「子どもに優しくしよう」と思える前向きなムーブメントを作れないかというのが、こどもの視点ラボを立ち上げた最初のきっかけです。

――「こどもの視展」や、「こどもの視点カフェ」での体験展示はまさに「子どもを産む前にここに来れていたら!」と思うような内容ばかりです。

石田:自分が「これを知りたかった」と思うことを研究に落とし込んでいるので(笑)。

ただ「こどもの視展」では、ママやパパはもちろんなんですけど、子どものいない方も多く来ていただいたんですね。「泣くことでしか訴えられないってどういう気持ちか」ということを体験できる「ベイビーボイス」というコンテンツがあるのですが、そこで体験した方が「伝えたいことがあるから泣いているんだ、ということがわかった。電車で泣いている赤ちゃんを見ても気にならなくなった」と言ってくださったんです。よくしゃべる赤ちゃんね、くらいに思えるようになったと。

「4mの大人たち」体験VRギア
「4mの大人たち」体験VRギアでは、子どもが大人に見下ろされ怒られたときの怖さが体験できる

――実体験に勝るものはないですね。先ほど、カフェに設置されたVRゴーグルで、大人に怒られるVR 体験をさせていただいたんですが、立っている大人は子どもにとって想像以上に巨大で、そんな大人に怒られる怖さを体感できました。

石田:映像中で怒っている大人は私です(笑)。あれは「何やってるの!」「いい加減にしなさい!」などの抽象的な言葉をあえて使っているんです。抽象的で子どもに伝わらない言葉で怒ってしまうことって、よくありますよね? 「いい加減にして」とか、どうしたらいいかわからないじゃないですか(笑)。

あんなに大きい大人が迫ってきて、大きな声で怒っているだけで「怖い!」と感じるし、抽象的な言葉で上から言われても頭に入らないというか、確かに理解できないなって実感してもらえると思います。

保育を学んでいる学生さんたちが体験して、「『子どもと目線を合わせて話しましょう』ということを知識としては習ってきたけれど、なぜそうしないといけないのかが腑に落ちた」と言ってくれたこともありました。そこはやっぱり体験の強さかなと思います。

――体験型展示をカフェに落とし込むにあたり、こだわった点はありますか?

石田:企画展は、立って体験していただくものだったんですが、カフェにするにあたって、子連れの方が靴を脱いでお子さんたちとゆっくり寛げるようにしたいね、とラボメンバーみんなで話し合いました。あとは、ピクニックのイメージで床を芝生のようなグリーンのじゅうたんにしました。

また、2歳の手のひらになって牛乳やコップを持ってみる「2歳の朝食」というコンテンツがあるのですが、カフェなのでそのリアル版ををメニューに加えるご提案をし、ビッグサイズのケーキとクッキーを伊藤忠さんにご用意いただきました。

ただ、飲み物だけはリアルなサイズに換算すると大きすぎて飲みきれない。残すことになってはSDGsの視点から考えても良くないので、飲みきれる範囲での最大のサイズになりました。

こどもの視点カフェのメニュー
ドリンクとフード(リンゴケーキ・オレンジケーキ・クッキーの中から1つ選択)がセットになった「こどもの視点セット」(¥1,650)のオレンジケーキは、手で持つとこんなに大きい!

菰田:このケーキは「sweet heart project(スイートハートプロジェクト)」という障がい者支援施設を応援するプロジェクトとの共同開発になります。

こどもの視点カフェそのものがITOCHU SDGs STUDIOの一部なので、企画としてもSDGsの観点からこどもの視点ラボさんにご協力いただき、開発したものになっています。具体的には、子どもにとって安心安全な社会、暮らしの在り方を考えるということで、 SDGsの「住みやすいまちづくり」という目標にもつながってくるテーマなのかなと。

――利用したお客様からは、どんな声がありますか?

石田:どの体験でもよくおっしゃっていただくのが「わかっているつもりだったけど、 目から鱗だった」という意見。あとは、「子どもにもう少し優しくしようと思った」という声も多いですね。

菰田:子育てを終えられた年配の男性から、「自分が子育てをしているときに来ればよかった。もうちょっと早くここを知っていれば、子育てにももっと関われたかもしれない」という声もいただいたりしますね。

今は共働きの方も多いと思いますが、お父さんお母さんどちらにも来ていただいて、何か気づいたりとか考えるきっかけにつながったらいいのかなと思います。

菰田有花さん、石田文子さん

――わりと年代・性別問わずさまざまな属性の方が来ているんですね。

石田:若い世代の方も多いです。子育て目線ではなく、子どもの頃のことを思い出したいというカップルや友達同士。あと多いのが、「夫の子育てへの理解が自分に追いついていないので、体験させたくて来たんです」というケースですね(笑)。

――それはいいですね(笑)。

石田:私も、息子に「“こどもの視点”を研究してるのに、俺の気持ちわかってないじゃん」と言われたりしますが(笑)。いかに子育てが難しいかということですよね。どの研究も有識者の先生方にご相談して、監修していただいたりご意見いただいたりして進めているんですが、「完璧な親なんていないし、自分たちもいろいろなことで間違ってきた」と皆さんおっしゃいます。そういう話を聞くとホッとするというか、やっぱりみんなうまくできないよね、とちょっと安心します。

赤ちゃんはお話ができない分、研究データが限られている印象です。多くの先生方が「本人に聞くことができないから本当のところはわからないことも多い」とおっしゃいます。脳波を測定したり、目がどこに注目していたかということから赤ちゃんの興味を探る研究をしていらっしゃる先生は「本当のところはわからないけれど、わからないからこそ僕たちが研究する意味がある」とおっしゃっていました。

--本当ですね。最後に、HugKum読者にメッセージをお願いします。

菰田:KIDS PARKもこどもの視点カフェも、HugKum読者の皆さんと親和性のある施設かなと思います。KIDS PARKの方は次世代を担う子ども達とその親世代に向けてSDGs に出会うきっかけを作っていく場所ですし、こどもの視線カフェに関しては、子どもたちが安心安全に暮らしていける社会や、コミュニケーションのあり方をみんなで作っていこうというコンセプトの場所ですので、ぜひ足を運んでいただきたいです。

どちらもまずは楽しく遊んだり、親子でくつろぐ場所として気軽に足を運んでいただきながら、その中で何か“自分ごと”にできる体験だったり、“My SDGs”のアイデアに出会っていただけたらと思います。

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■「ITOCHU SDGs STUDIO KIDS PARK」概要
営業時間:9:30~17:30(最終入場 17:00)
休館日:月曜日 ※月曜日が休日の場合、翌営業日が休館
場所:東京都港区北青山2-3-1 Itochu Garden 2階
入場料:無料(事前予約制)
対象年齢:乳幼児~小学校低学年(小学校高学年も入場可)
ITOCHU SDGs STUDIO KIDS PARK公式サイトはこちら≫

■「ITOCHU SDGs STUDIOこどもの視点カフェ(協力:こどもの視点ラボ)」概要
営業時間:
9:30~17:30(ラストオーダー 17:00)
休館日:月曜日 ※月曜日が休日の場合、翌営業日が休館
場所:東京都港区北青山2-3-1 Itochu Garden 2階
こどもの視点カフェについて詳しくはこちら≫

取材・文/小林麻美 写真/五十嵐美弥 構成/HugKum編集部

今回の記事で取り組んだのはコレ!

  • 4 質の高い教育をみんなに

SDGsとは?

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