キシリトールとは?
近年、キシリトールは砂糖の代用甘味料としてガムなどの多くの菓子類や食料品に添加されており、ご存じの方も多いでしょう。
キシリトールは白樺や樫といった樹木や植物を原材料とする天然の甘味料で、砂糖と同程度の甘さがありますが、カロリーは3/4程度という特徴があります。
虫歯の予防効果があるため予防歯科の先進国である北欧諸国でもよく用いられ、チューインガムやタブレット等に使用されています。
1983年には世界保健機関(WHO)、国連食糧農業機関(FAO)が安全性や有効性を認め、日本では1997年に食品添加物としての使用が認可されました。
また、イエロープラム、イチゴ、ラズベリー、カリフラワーなどの果物や野菜にも多く含まれ、普段の食事からも摂取できます。
このように私たちにとって身近な存在であるキシリトールですが、どのようなメカニズムで虫歯予防につながるのでしょうか?
キシリトールと虫歯の関係
虫歯の原因となるミュータンス菌は糖分を分解して歯を溶かす酸を産生しますが、キシリトールはミュータンス菌の栄養源とならず分解されないため酸は産生されません。つまり、キシリトールは「虫歯の原因にならない甘味料」なのです。
また、口の中で溶ける時に熱を奪う性質があるため、口に含むとスーッとした清涼感があります。そのため、口に入れると味覚が刺激されて唾液分泌が促進されます。
しかも、キシリトール配合のガムをしっかり噛んで咀嚼すると、さらに唾液分泌が増加して、口の中を洗い流す自浄作用が効果的にアップします。その結果、細菌が洗い流されやすくなって虫歯を抑えます。
では、具体的な研究報告を見てみましょう。
キシリトールの虫歯予防効果に関する研究
2008年に日本歯科大学のグループが報告した研究では、キシリトール含有ガムを噛むことで歯垢(プラーク)の付着程度を測る指標であるQHI(プラーク付着指数)がどのように変化するかを調べました。
その結果、QHIスコアの増加量がキシリトールを摂取した時期としなかった時期でおよそ1.5倍もの差があることが、統計学的に有意さをもって示されました(図1)。
また、2010年に北海道医療大学のグループが報告した研究では、キシリトール溶液による洗口を行うことでミュータンス菌の増殖にどのような影響があるかを調べました。
その結果、5%キシリトール溶液で4週間洗口を行った群は、唾液中のミュータンス菌数が洗口前と比べ約65%減少しました(図2)。
このようにキシリトールの虫歯予防効果に対して日本だけでなく世界各国で多くの研究が行われていますが、キシリトールが歯の修復(再石灰化)を促進するなど一部の研究報告については、イギリスの国際医療評価プロジェクトであるコクラン共同計画によって、「明確なエビデンス(根拠となる研究結果)がない」という評価もされています。
ですから、キシリトールの虫歯予防効果をさらに詳しく、正確に解明するためにも、今後のさらなる研究が望まれるところです。
キシリトールを活用した取り組みの例
このようにキシリトールの虫歯予防効果は未解明な部分があるものの、予防歯科先進国であるフィンランドでは予防歯科のために歯磨き・定期的な歯科検診・フッ素にさらにキシリトールを加え、効果を上げています。
このフィンランド式のキシリトールを取り入れた歯の健康啓発活動の一環として、2024年11月に東京都内の小学校で、あるプロジェクトが実施されました。
これは、給食後にキシリトール入りのガムを噛んで虫歯予防しようという取り組み「給食後にもキシリトールを噛もう!プロジェクト」であり、「いい歯の日」である11月8日にちなんで5日から8日までの4日間、東京都豊島区立の全小学校で行われたのです。
このプロジェクトでは、給食後の児童はキシリトール入りガムを噛むとともに、5分間のガムタイム中に豊島区歯科医師会の歯科医師による歯の健康やキシリトールに関する動画を視聴しました。
このような試みはキシリトールの効果だけでなく、子どもたちが虫歯予防について考えるいい機会になり、毎日の歯磨きに対するモチベーションの向上にもつながります。キシリトールを一つのツールとして、予防歯科の啓発活動が広がるといいですね。
キシリトールの安全性
先述したようにキシリトールはWHOや厚生労働省が安全性を認めていますが、2024年6月にアメリカのグループが報告した研究では、3000人を超える住民などを対象に血液中のキシリトールのレベルを測定し、健康との関連性について調査しました。
その結果、3年間にわたって追跡調査したところ、血中キシリトールレベルが上位25%に位置する人々は心臓発作、脳卒中または心血管関連の死亡リスクが2倍近くに増加することが明らかになりました。また、キシリトールは血栓形成促進性があり、血管を詰まらせやすくする性質があることも判明しました。
このような研究報告があれば、「キシリトールは危ない」と思われがちですが、通常の範囲の少量摂取であれば、消費者である私たちが心配する必要はないと言えるでしょう。
ただし、一度に多めのキシリトールを摂取すると腹痛や下痢といった消化器症状を引き起こす可能性があります。これはキシリトールの小腸での消化・吸収が難しいからですが、症状は一時的なものであり、大きな問題にはなりません。
効果的にキシリトールを摂り入れるために
キシリトールの効果を存分に発揮できるような提案をいくつかしてみましょう。
1. 適量を摂取する
厚生労働省のホームページでは、虫歯予防のためにはキシリトールが5%以上配合されたガムまたはタブレットを5~10g毎食後に摂取し、継続するとよいとしています。
2. 各自の好みに合った商品を選ぶ
キシリトールの効果は、長期間にわたって定期的に摂取することで得られます。ですから、味や食感といった好みが合うものや、いつでも購入できる商品を選ぶことが大切です。
3. 砂糖など糖類を含む商品は要注意
キシリトール配合の商品でも砂糖や水飴などの糖類が含まれることがあるため、商品パッケージをチェックして購入しましょう。
4. 摂取するタイミングは食後または歯磨き前
タイミングの決まりはないですが、キシリトールの甘みで食事の味覚に影響が出ることがありますので、食後の摂取が望ましいでしょう。
5. ガムとタブレット、歯の状態などを参考に選ぶ
歯が少ない幼児は、誤飲リスクなどの面からタブレットが安全です。永久歯が生えてしっかり噛めるようになる6歳以降ではガムも大丈夫ですが、商品に記載された推奨年齢等を確認し、年齢に応じた商品を選んでください。
6. 基本の歯磨きは忘れずに
虫歯予防効果のあるフッ素と同様、キシリトールもそれだけで虫歯予防が万全というわけではありません。基本となる歯磨き習慣を毎日実践しながら、あくまでも補助的なものとしてキシリトールを活用しましょう。
* * *
以上より、多くの効果が認められるキシリトールを有効活用できるように、日常の生活習慣の中にうまく取り入れるようにしてくださいね。
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記事執筆
島谷浩幸
参考資料:
・島谷浩幸:歯科から見る農作物と健康〔2〕農作物と虫歯予防.農業および園芸97(7),634-637,2022.
・佐藤宏和ほか:キシリトール含有ガム摂取によるプラーク形成および唾液成分に及ぼす影響.日本歯周病学会会誌50(4),231-237,2008.
・川守田暢ほか:キシリトール溶液による洗口の唾液中ミュータンス菌レベルへの影響について.日本歯科保存学雑誌53(4),359-366,
2010.
・Riley P et al: Xylitol-containing products for preventing dental caries in children and adults. Cochrane Library, 2015.
・Marco W et al: Xylitol is prothrombotic and associated with cardiovascular risk. Europian Heart Journal 45(27), 2439-2452, 2024.
・Oku T et al: Threshold for transitory diarrhea induced by ingestion of xylitol and lactitol in young male and female adults. J Nutr Sci Vitaminol 53(1), 13-20, 2007.
・厚生労働省:キシリトール.e-ヘルスネット.