絵本作家の方はどのように絵本と出会い、楽しんでいるのでしょうか。また、どんな思いを込めて創作に向かっているのでしょうか。
数々の名作の生みの親であり、80代の今もなお第一線で活躍されている、せなけいこさんにお話をうかがいました。
せな けいこ
1932年東京都生まれ。童画家・武井武雄に師事して絵を学ぶ。1969年に「いやだいやだの絵本」4冊シリーズで絵本作家デビューし、サンケイ児童文学賞受賞。独特の貼り絵と世界観で多くの作品を発表し、「めがねうさぎ」などの名キャラクターを生む。「あーん あーんの絵本<全4冊>」(福音館書店)、「おおきくなりたい<全4冊>」(偕成社)、「ばけものつかい」(童心社)、「おばけのてんぷら」(ポプラ社)など著書多数。そのほか紙芝居、挿絵など幅広い分野で活躍。その場で描いてくださった親子おばけ。
おばけの絵本が生まれたわけ
きっかけは、親子で好きだった「ゲゲゲの鬼太郎」
「ふとんに入らないで遊んでいると、おばけにされちゃうよ」というのは 私が50年近く前に描いた「ねないこ だれだ」のお話です。この本を出した時、「子どもが怖がって寝てくれてよかった」と言われたのですが、しつけのために描いたつもりはまったくなかったんですよ。息子が小さかった頃、親子で夢中になったのは水木しげる先生の「ゲゲゲの鬼太郎」でした。子どもにとっておばけは怖い。でも見てみたい。「おばけのテレビ、見せて」とせがむ息子の姿に、子どもの友だちになれるおばけを描こうと。そうして生まれたのが「ねないこ だれだ」でした。
我が子のために手作りした絵本
題材は育児を通して感じた子どものしつけ
「ねないこ だれだ」をはじめ、37歳で絵本作家としてデビューした頃の作品は、息子と娘がモデルになっています。たとえば「にんじん」は、私がにんじん嫌いだったので、息子には好きになってもらいたいと思って作った作品。息子が好きだったうさぎがにんじんがおいしいと言えば食べられるかな? と考えたりしてね。絵本の材料は家にあったデパートの包装紙やチラシ、画用紙の切れ端でした。以来、ずっとその手法ですね。だってもったいないじゃない。
子どもたちとは「うさこちゃん」シリーズをよく読んでいましたね。ディック・ブルーナの絵本が私も好きで、「にんじん」は「うさこちゃん」と同じサイズにしたんです。そうやって手作りした本をたまたま出版社の方に見せたら「本にしましょう」と。新人にもかかわらず「ねないこ だれだ」「もじゃ もじゃ」「いやだ いやだ」とともに4冊同時に出してもらえたのですから、今思えばとてもラッキーでした。ただ、子どもたちは絵本のモデルにされるのが嫌だったみたい。だから「いい子にしていないと、ママに絵本にされちゃいますよ」とよく言っていましたね(笑)。
両親のおかげで本好きに
日本の童画家の第一人者、武井武雄先生に弟子入り
私自身は子どもの頃から絵ばかり描いていて、母によく叱られていました。もともと武士の家系のかたい家で、両親は普通のお嬢さんとして育てたかったのに、私は男の子たちと外で兵隊遊びをするのが大好き。弟がいじめられたと聞けば、敵討ちに出て行くおてんば娘でした。でも、本が好きになったのは両親のおかげですね。玄関からずらっと本棚が並んでいる家で、そこで父の本をあさっては読んでいたので。最初の絵本の記憶は日本の童画家の第一人者、武井武雄先生の『おもちゃ箱』(現在絶版)で、『孫悟空』や漫画の『のらくろ』も好きでした。高校時代には絵本作家になると決めていて、美大に進むと言ったら親は大反対。独立心旺盛な私は「それなら明日から一銭もいりません!」と宣言し、高校卒業後は働きながら武井先生に弟子入りしたんです。当時、先生のお弟子さんは大正生まれのおじさんばかり。「こんなお子さんが!」と驚かれてね。でもあの時に武井先生に厳しく指導していただいたおかげで、こうして絵本作家になれたのだと思います。
親にダメだと言われると子どもは見たくなる
それぞれの子どもが自由に興味が広がるように
今もうちには両親から受け継いだ本、私と夫の本、子どもたちの本がいっぱいあって、それを眺めながら懐かしい気持ちになったりします。『かみなりむすめ』は『モチモチの木』の斎藤隆介さんの作品で、切り絵は一緒に仕事をしていた滝平二郎さん。戦争中に子ども時代を過ごして外国の本に触れてこなかったので「マザー・グース」の世界は新鮮でずいぶん読みました。私の夫は噺家で、息子と娘は自然と落語に親しんでいたんですね。『子ども寄席春・夏』は落語の楽しさを子どもに分かりやすく伝えてくれるのがいいなと思います。
よくお母さんたちから「子どもにどんな本を読ませたらいいですか?」と聞かれますが、それぞれの生活環境やら個人差があるでしょう。第一、親がダメっていうものを、子どもは見たくなるもの。感想文を書かなきゃと思うと面倒くさくなる。だから自由に興味を広げてもらうほうがいいんじゃないかしら。私もお説教は苦手だし、何よりおばけは小言を言わないからいいんですよ(笑)。
せな けいこさんのおすすめ絵本
「うさこちゃん おばけになる」
ディック・ブルーナ(作)、まつおか きょうこ(訳) 福音館書店 本体700円+税
おばけに変身してみんなを驚かそうと思いついたうさこちゃん。古いシーツをかぶり目のところに穴をあけたら、おばけのできあがり! いたずら好きのうさこちゃんの愉快なお話。。
「マザー・グースのうた 全5集」
マザー・グース(著)、谷川俊太郎(訳)、堀内誠一(絵)草思社 セットで本体 6500円+税
英米では必ず子ども時代に親しむ童謡集。詩人・谷川俊太郎の美しい訳、グラフィック・デザイナー堀内誠一の躍動感のある絵が不思議な世界に誘ってくれる。
「かみなりむすめ」
斎藤隆介(作)、滝平二郎(絵) 岩崎書店 本体1200円+税
雲の柱を相手に一人で「セッセッセ」をするかみなりむすめは村の子どもたちと遊びたくて、親に内緒で下界に降りますが…。叙情豊かな切り絵で描かれた、優しさにあふれた名作。
「子ども寄席 春・夏」 (シリーズ本のチカラ)
六代目 柳亭燕路(作)、二俣英五郎(絵)日本標準 本体1400円+税
ご隠居さんに熊さん、金ちゃんなど花のお江戸の長屋の人々が大活躍! 噺家の語り口調のままに、子どもたちに落語の楽しさを伝える9話を収録。落語初心者にもおすすめ。
せな けいこさんの絵本
「うさぎちゃん つきへいく」
せな けいこ 金の星社 本体900円+税
月へ行きたいうさぎちゃんのところに、宇宙人が迎えに来て月へ行くと・・・想像力を刺激する絵本。
「ねないこは わたし」
せな けいこ 文藝春秋 本体1450円+税
せなさんの絵本作家としての歩み、そして育児のことなどを語った自伝的絵本。
出典/おひさま2017年4/5月号