「指計算」で算数がキライになっていた子を救った「クリア数図カード」。数を見える化することで計算がスラスラになった!開発者の元小学校の先生に聞きました

小学校を退職したのち、非常勤講師として算数指導の支援に携わっていた新田暢先生が考案した「クリア数図カード」は、指計算で苦労していた子との出会いで生まれました。数を見える化した教材は、計算が苦手だったたくさんの子どもたちを救っています。困り感のある子のための道具のネットショップを運営するtobiracoの平野さんが、新田先生に「クリア数図カード」の特性と開発にまつわるエピソードを伺いました。

指を使ってする指計算はやめさせるべき?

先生が開発された「クリア数図カード」には指計算を卒業させる効果があるそうですが、指計算はやめさせたほうがいいですか?

すぐにやめさせる必要はありません。指計算は指で数の増減が見えます。数字は抽象的ですが、指は具体物です。具体物を使って増えたり減ったりした答えを出していますから、指計算はその子にとってはわかりやすく合理的な方法でもあるんです。

計算を理解していない子に指計算はできません。丸を描いて増えたり減ったりを教えてもわからない子は少なからずいました。その点、指計算をしている子は足し算、引き算そのものは理解していますからね。

指計算をつづけていると、くり上がり、くり下がりでつまづきます

-指で計算を理解していたとしても、いずれは卒業できると思うのですが。

「そのうちできるようになる」と考えないないほうがいいです。6年生になっても指計算をしている子はいます。すぐにやめさせるのではなく、指を使わなくても数をイメージしながら計算できるようになることが大事です。

答えが10以上になると、指が足りなくなってしまいますから、くり上がりのある足し算やくり下がりのある引き算を習うようになると、指計算の子はとても苦労するんです。なんとか両方の手を使って器用にできたとしても、3年生,4年生で学習する筆算になるとお手上げ状態になってしまう可能性が高いのです。指計算を否定はしませんが、早めに卒業させたほうがいいですね。

-指計算を卒業させるにはどうしたらいいですか?

指を使わずに、10個のかたまりと2個で12とイメージできるようにすることです。7+5=12なら、まず「10個のかたまり」をつくるために、「5個の部屋」から3個だけ引っ越して「7個の部屋」に加えると「10個のかたまり」ができます。「5個の部屋」に残った2個を「10個のかたまりに」足して12個になるとイメージできるかどうかが大事。指計算から卒業できない子は、この計算の過程が頭の中でイメージできないため、指という具体物を使ってしまうのです。

-なるほど。数が増えたり減ったりする過程を思い浮かべることができなければ、指に頼るしかないですよね。

そうです。まずは具体的なモノを使って数の増減を実感できるようにすることです。

「算数セット」の計算カードは162枚!ハードルが高い1年生の算数

-1年生の算数で数が増えたり減ったりを実感できるようにするのではありませんか?

算数セットのブロックを使って一応は数の増減を学ぶのですが、その時間が短いんです。すぐに単語帳式の計算カードを使って、足し算引き算の計算式と答えを暗記させてしまうんですよ。計算カードは、10までの足し算引き算がそれぞれ45枚、合わせて90枚。2学期で習うくり上がりのある足し算とくり下がりのある引き算は、それぞれ36枚。全部で162枚もあります。

-162枚もの計算カードを暗記するんですか! ハードル高いですね。

はい。しかも私が問題だと考えているのは、計算カードの暗記が宿題として出されることなんです。家庭で充分に練習できる子ばかりではありません。162通りを暗記できない子だっています。

できないまま2年生に上がるとつまずくのは目に見えています。1年生でのつまずきが、のちに習う筆算やかけ算、割り算にも影響し、「算数ができない」「どうせやってもできない」という自尊心の低下につながってしまう。これだけは、絶対に避けなければいけません。

学校だけではマスターがむずかしい1年生の計算

-1年生で習う計算のつまずきが、上の学年まで引きずってしまうんですね。

1年生レベルのたし算、ひき算は簡単だから「そのうちできるようになるだろう」と思われがちです。実際私も1年生を担任していた時にはそう思っておりました。が、162通りもの計算を暗記するのは、1年生の子にとってそれほど簡単ではありません。

「そのうち覚える」と考えずに、1年生で習う足し算引き算を完璧なものにしておくことがとても大切です。

-先生がお考えになる「完璧に」と「できる」とは違うのですか。

「完璧に」というのは、7+5をみてパッと12と答えられることです。「え〜と」と考えて答えを出すのではなくて、見た瞬間に答えられるくらいになってほしいです。そのためには頭の中で足し算、引き算をイメージできることであり、イメージできるようになるまで、くり返しトレーニングすることです。

「クリア数図カード」は、頭のなかでイメージできるようになってほしいと考えて作りました。多くの小学校では,2年生の九九を完璧に覚えさせようという取り組みはされています。しかし、1年生の足し算や引き算を完璧に習得させようという取り組みをする学校はそれほど多くないように感じています。

指計算で泣いている子のために作ったクリア数図カード

-クリア数図カード開発のきっかけを教えてください

私は小学校教員を55歳で早期に退き,改めて採用してもらった小学校で非常勤講師として勤務してきました。その中の学校で1年生のTくんに出会いました。彼は算数が苦手ですが分かりたいと思う気持ちは強く持っていました。

足し算の学習でも引き算の学習でもサクランボ計算の学習でも、指を使って答えを出そうと一生懸命でした。そばで、私の指を貸しながら支援してきました。それでも思うような結果がでなくて涙する姿を見て、何か良い教具はないものかと探しました。しかし、思うような教具を見つけることはできませんでした。

Tくんのように指を使っても答えが見つけられない子ども、指で答えを見つけられるようになってもその指計算から抜けられない子ども、そんな子どもたちはたくさんいます。それなら、速く、簡単に、正確に答えを見つけられる教具を作ってみよう。そんな思いから考え出したのがこのクリア数図カードです。

暗記ではなく、計算を見える化して頭の中でイメージできるようにするクリア数図カード
8+6は、台紙の8に6の透明なカードを重ねます。

-クリア数図カードを使うと、なぜ頭の中でイメージできるようになるのですか?

クリア数図カードは、数字を暗記するのではなく、丸の数が増えたり減ったりする過程を見ながら答えを出すので、イメージできるようになるんです。

5+3=8なら、5のカードに、3のカードを重ねると8が頭に浮かぶようになるまでトレーニングします。最終的にはクリア数図カードがなくてもイメージできることが目標です。

-1年生の2学期になるとさくらんぼ計算を習いますが、これも頭の中でイメージできないと困りますね。さくらんぼ計算が苦手だったという大人は多いです。

はい。さくらんぼ計算こそ、パッと頭の中でイメージできるようにしておくことが大事です。さくらんぼ計算は数の分解・合成と呼ばれる「数の構成」を学ぶことができます。

「5」をふたつに分解すると、4と1、3と2、2と3というように、あるいは「5」は4といくつ、3といくつ、2といくつというように「合わせていくつ」になるかを「合成」したり。これが、くり上がりの足し算、くり下がりの計算をするうえで、たいへん重要になってきますからね。

「魔法のカード」と呼んで指計算を卒業できた4年生の女の子。学習全般に好影響が

クリア数図カードでイメージできるようになって初めて、ドリルを使います。

-実際にクリア数図カードを使ってみて、子どもたちの反応はどうですか。

試作品のカードの反響は予想以上の反響でした。「指を使わなくってうれしい」とか「10になる数がわかった」とか「くり上がりやくり下がりの計算ができるようになった、など声があったのですが、これらはすべて3年生の声でした。やはり、1年生でのつまずきが尾を引いてしまっていたのだと思うのです。

そんな中、試作品のカードをすっかり気に入って使ってトレーニングして指計算を卒業することができたのは、4年生の女の子でした。その子は教室から飛び出すなどの問題行動がありましたが、計算に自信がもてたことで他の教科にも影響が出たようです。教室を飛び出すことが少なくなりました。

数図カードで指計算を卒業して、学習全般に意欲が出た子

-自信がつくと、子どもは変わりますね。

ほんとうにそうです。10までの引き算ができなくて泣いていた女の子が「魔法のカード」を使うようになったら、どんどん引き算ができるようになって、他の人に「私、引き算が得意」と言ったそうです(笑)。1年生の足し算、引き算で困っている子がこんなにいるのならと、魔法のカードを製品化してたくさんの子どもたちに使ってもらおうと思いました。

普段の生活の中で、数を身近なものにしてほしい

-数を見て覚えるということなら、家庭でできることがありそうですね。

たくさんあります。おやつを分けるにしても、3個食べたらいくつ残る?と聞いたり。パッと見て数えなくても、5個や3個がわかるようになることもしてほしいですね。サイコロもいいですよ。サイコロの目は数えなくてもわかりますからね。

-数えなくても数がわかることが、なぜ必要なのでしょうか。

量感覚を身につけるトレーニングになるんです。数の違いもわかるようになります。クリア数図カードでも、読み上げた数字のカードをとるカルタ遊びで、数の概念を身につけられるようにしています。

でも日常生活のなかで数のトレーニングができるものはたくさんありますから、使わない手はありません。具体物で数を実感できることは、カードで学ぶ以上に大切です。まずは具体物で数の概念が身についてこそ、数をイメージできるようになるのですから。

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記事監修
新田 暢(にった・みつる)さん
ダイワ新田教材株式会社代表取締役。小学校教師を55歳で早期退職し、現在は非常勤講師として小学校の特別支援学級で算数を指導。小学校教諭時代に出会った計算が苦手な子のための教材の考案をきっかけに、手作り教材で指計算の子どもやくり上がりやくり下がりの計算を苦手とする子どもたちに教え、効果を上げる。その後、計算を苦手とする多くの子どもたちのためにと、「クリア数図カード」として製品化。インスタグラムで現役教師に取り上げられて話題となり2か月で3000セットを売る。

取材・構成/平野佳代子(tobiraco)

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