「高校生の声には価値がある」性教育アプリを開発し、『生理』をテーマに学校でジェンダー会議も実施した渋渋3年小島杏里さんインタビュー

渋谷教育学園渋谷高等学校(渋渋)の3年生小島杏里さんは、通学途中に痴漢被害にあったことをきっかけに、性教育に目を向け、中高生向けの性教育アプリ『SeiNavi(セイナビ)』の開発に着手。大人に任せるのではなく、高校生ならではの視点で性教育に向き合っています。性教育のほかには教育格差の是正にも挑むなど、世界に視野を広げ、常に新しいことに挑戦し続ける小島さんにお話を聞きました。

痴漢の相談窓口や助けを求められる環境があっても、声を上げづらい理由

――小島さんは中学生時代、痴漢被害にあったこと、そして友人も性別問わず被害にあっていたことをきっかけに、学校内外と連携した痴漢予防策や相談窓口の整備、性教育アプリ『SeiNavi』の開発に至ったそうですね。今まではそういった予防策や、困ったときに相談できる窓口はなかったのでしょうか。

小島さん そうですね。痴漢にあったときに警察や駅員さんに助けを求めたり、警視庁運営の防犯アプリ『デジポリス』を使ったりすることはできたと思います。ただ、相手から逆上されることを考えると、声を上げることは難しかったですね。20人の友だちに痴漢被害について聞いたことがあるのですが、18人が被害にあったことがわかりました。さらに、誰かに相談できた子は、そのうちのわずか1人でした。

――相談までつながるケースはとても少ないのですね。

小島さん はい。声を上げることが全てではありませんが、そうやって声を上げられないことで被害者の存在が「暗数」になり、表面に出てこなくなってしまうとも感じています。自分の経験からも、ショックを受けているときに相談しやすい環境が身近にあった方がいいと思い、窓口の整備に取りかかりました。

あとは、被害にあった際、駅員さんに相談した後はどんな流れになっているかが可視化されていないことにも気づいたので、そのイメージがつきやすくなるよう意識しました。それから、「駅員さんに相談をして万が一学校に遅刻したとしても遅刻扱いにはならない」という、みんなが知りたいことも明確にしました。

学校では生徒会長を務めた小島杏里さん

コミュニケーションのきっかけ作りと正しい知識の発信を目指して性教育アプリを開発

――『SeiNavi』の開発には、どのような目的があったのでしょうか?

小島さん 友人たちの話を聞いていて、性に関することを身近な人に相談できていないケースが多いと感じていました。性教育は「どうコミュニケーションをとっていくか」が根幹にあるので、話をするきっかけになるようなものを作りたいと思ったんです。

あとは性の情報源としての役割です。性別差はありますが、周りに聞いてみるとインターネットや動画サイト、SNS、アダルトビデオで知識を得ていて、安全安心な内容ではないことがわかりました。学校の授業も不十分ですし、子どもたちも正しい知識が何なのかがわからないままであることに不安を感じています。そこをカバーしたいと思い、幼馴染と一緒に取り組んでいます。

――アプリでは具体的にどんなことができますか?

小島さん まず、大きく”For me”と”With partner”という2つの機能があります。”For me”は性に関する知識を深めることができ、現在はAIチャットボット機能で相談できるようなコンテンツも開発中です。

”With partner”はコミュニケーションに特化していて、それぞれアンケートに答えて、お互いの考えを共有することができ、話のきっかけを作ることができます。今はパートナーと一緒に使うことを目的としていますが、ゆくゆくは家族や友人とも共有できるように機能を広げていきたいです。

性教育はまずは気楽に話せる環境が大切だと思います。そこで、アプリ全体を通しては、「性教育をもう少しポジティブに、明るく前向きに」ということ。それからジェンダーニュートラルであることに気をつけました。

専門性の高い分野でもあるので、企業からメンター・監修を受けながら、専門的な知見に基づいて開発することも大切にしています。

アプリの完成度は7割程度。進路確定後にさらに完成度を高める予定です。

テーマは『生理』。男子も参加して学校でジェンダー会議を主催

――2026年6月には、校内ではジェンダー会議も主催されたと聞きました。

小島さん きっかけとなったのが、渋渋が「女性からだ推進校」(※1)に登録されたこと。そこから保健室の先生とジェンダー会議をやろうという話になりました。

もう一つのきっかけは、生理についてのタブー感をなくしたいと思ったこと。以前、私が教室で生理について話していたら、「男子がいる前ではしないほうがいい」という空気になったことがありました。そのときは納得したものの、このタブー感が何かあったときの相談しづらさにつながっていると思うようになったのです。性のことに不快感を覚える方もいるので、不快感をなるべく取り除いて、楽しく学べる機会を作りたいと主催しました。

ジェンダー会議当日は「生理」をテーマに、男女一緒にクイズをしたり、実際の生活を想定したロールプレイをしたりしました。ロールプレイのお題は「友だちに生理用品を買ってきてと言われたらなにを選べばいいか」、「生理のときはどんな食事がいいか」、「友だちに声をかけるならどんな風に」など。みんな積極的に楽しく参加してくれました。

※1 思春期女性の婦人科受診支援プロジェクト「JKクリニック」の理念に賛同した学校が登録される。

――男子も積極的に参加したのですね。

小島さん 参加者で一番多かったのが中学1年生の男子で、私も驚きました。

『SeiNavi』は、もともと性教育に興味がある人だけが利用していて、リーチしたいターゲット層に届けられていないという悩みがありました。一方でジェンダー会議は学校というみんなが参加できる場でやっているので、興味がない人にも届けることができます。自分がやりたいことにすごく近いですし、達成感がありました。

――この会議は後輩に引き継がれているそうですね。

小島さん そうなんです。会議後に、中1の男子生徒が「今まで性のことを知りたかったけど、友だちに聞いたときに下ネタだと笑われて、それ以来話せなくなった。この会議で話してもいいことだとわかりました」と言ってくれたことが印象に残っています。学校の中で性について話し合える文化ができ、それがこの先も続いていくことがうれしいです。

大人が考えている以上に、子どもは性について知りたいと思っている

――大人に任せるのではなく、小島さんたち学生主体で動き、発信しようと思った理由はありましたか?

小島さん 教育には学習指導要領があり、学校をすぐに変えることは難しいとわかったからです。今の性教育は、デートDVや性感染症などのリスクについては教えるものの、性行為を怖いもの、ネガティブなものとして扱っていると感じます。だからリスクだけでなく、もっとポジティブなものにもなり得るなど性教育を前向きなものに変えたいと思いました。

また、当事者だからこそ、どういうことを知りたくて学びたいのかが明確だというのも理由です。

このアプリをプレゼンテーションした際、大人の方や企業の方からは「大人が言うと上から目線になって言いにくいところがあるけれど、若者が言ってくれると前に進むこともあるから、ありがたい」というような声もいただき、高校生だからこその声に価値があると感じました。

大人は「こんなことを子どもに教えたらびっくりさせちゃうのでは」とためらっている部分があるようですが、子どもたちってもっと知りたいと思っているんです。実際に学んでみると「知ることができて良かった」という感想も多いです。

――性教育はタブー視されている側面もあります。オープンに活動することにためらいはなかったですか?

小島さん 最初はありました。性教育の活動はバッシングの対象になることが多く、先生や周りにも心配されました。

恥ずかしさもありましたが、「杏里は性教育やっている人」という風にキャラに組み込むと、相談しに来てくれる子がいたりして。この人になら話してもいいという存在になれているのはすごくうれしいです。

自宅の本棚には性教育の本が。家庭で当たり前に話せる環境はすごく大事

――小島さんは性教育をどんな風に学んでこられましたか? 家庭でも話をすることはありましたか?

小島さん 小さい頃から家の本棚に性教育の本があって、当たり前のように読んでいました。特に好きだったのは、 『なぜなの ママ? -3歳からの性教育絵本-』(北沢杏子著、やなせたかし絵/アーニ出版)という絵本です。

幼児期にバスの中でしりとりをしたときのエピソードを母から聞いたことがあります。母が「ゴリラ」と言ったら、私が「卵子」と周りに聞こえる声で続けたそうです(笑)。車内はシーンとなったようですが、母はそのまましりとりを続けてくれて、私がそういう言葉を知っていることを誇らしかったと言ってくれました。

家はそういったこともオープンに話せる環境で、お父さんも生理用ナプキンを当たり前に買ってきてくれます。私の活動もすごく応援してくれていて、性教育の学会に一緒に参加してくれるなど、家族みんなで学んでいる感覚がありますね。

――幼少期からそういった学びの環境があったのですね。

小島さん はい。幼少期から当たり前に話せる環境はすごく大事だと実感しています。保護者の方と話すと、「子どもが思春期になってしまってもう話せない。いまさらかしこまって話すのもどうなんだろう」「家庭内で性について話をするのが難しい」という声をよく聞きます。

個人的には保育園、幼稚園くらいから家庭と教育現場が一緒になって進めていくのがいいのかなと。例えば宿題で「家庭で話しましょう」というのがあれば、家庭内でのコミュニケーションが生まれるのかなと感じています。

――ここまで高校生目線のお話を聞いていて、子どもたちは正しい知識をきちんと知りたいんだなということがわかり、印象的でした。

小島さん 学校ではリスクだけを教えてくれますが、いざ社会に出ると、今度は「早く子どもを産んで」という空気になるので、その間の知識がないことにとまどいがあると思うんです。そこを両輪で教えていけるのが理想かなと思いますね。

教育格差是正にも関心。インドのスラム街に住む子どもに無料の英会話レッスンも

――教育格差の是正にも挑んでいるそうですね。高校生講師による無料オンライン英会話も主宰されているそうですが、どんな内容ですか? 活動のきっかけも教えてください。

小島さん 『Your English Classmate(YEC)』という英検一級保持者の高校生講師による無料オンライン英会話で、運営から授業まで高校生だけでやっています。完全無料、完全ボランティアで行えるのは、私たちが高校生だからこそ。意義のあることだと思っています。

私は小学1年生から小学3年生までアメリカに住んでいた経験があり、渋渋でも英語を鍛えられてきました。「英語を使って恩返しをしたい」と思ったことが、この活動を始めたきっかけです。

これまでは日本で活動していましたが、今はインドの方に向けたレッスンも行っています。

――インドの方にオンラインレッスンをしているんですか?

小島さん はい、『YEC India』として、インドのスラム街 “Sanjay Colony” に住む子どもたちに向けて開催しています。

学校のインド研修に行った友だちの話を聞いて教育格差を知り、英語を話せないことで職業選択の幅が狭まっている実情を変える手助けができればと、レッスンを展開することにしました。現地はパソコンの台数も限られていますが、英語を学びたいという意欲がすごくて、逆にヒンディー語を教えてくれたり、文化を教えてくれたりします。こちらも学ぶことが多いです。

オンラインレッスンの様子

――教育格差を実感されたことが活動のきっかけになったんですね。

小島さん そうですね。私自身も高校1年生でブラジルに1か月留学した際、児童労働が当たり前という状況にすごくショックを受けて。さらにそれを滞在していた寮で話をしたら、15か国ぐらいの子たちのほとんどが「それの何が問題なの?」という反応でさらに驚きました。

高校2年生でラオスに行ったときは大学に行くために稼いでいるという同年齢の先生がいて、教育の意義や自分が豊かに学べている環境をどう還元できるかを考えるようになりました。

学校があるのは渋谷区。友だちとカラオケに行くのが楽しみという、普通の高校生の一面も教えてくれました。

原動力は好奇心! 将来は政策を作っていく立場になりたい

――世界に目を向け、さまざまなことに挑戦しています。小島さんの原動力はなんでしょうか?

小島さん 好奇心です。そして根底にあるのは暴力や差別などマイナスなところをなくすため、自分のポジティブさを活かして、楽しい感じで取り組んでいきたいというところです。性教育も、未来志向や若者としての声、今できることを考えて、みんなと一緒に楽しくやっていくのがいいと思います。

私が「やりたい」と言ったことを両親が全力で応援してもらえたのも大きいと思います。両親からは「それはやめておけば」など、否定されたことは一度もありません。渋渋には中学受験をして入学したのですが、それも私の希望です。

――中学受験が自分の意志だったのですね。では、最後に将来の夢を聞かせてください。

小島さん 大学では公共政策を学びたいです。経済の視点もそうだし、データサイエンスなど実装できる分野を学びたいと思っています。広くは社会心理学やセクソロジー、公衆衛生や人間生物学を多角的に学んで、いずれは政策を作っていく立場になりたいです。

性教育にまつわることでは、教育制度の整備に加え、ユースクリニックを増やす、包括的性教育を根付かせることを目標にしています。

――これからの活躍も楽しみにしています。本日はありがとうございました。

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お話を聞いたのは

小島杏里 渋谷教育学園渋谷高等学校3年生

2008年の夏生まれ。高校1年生から性教育アプリの開発や痴漢・盗撮防止プロジェクト、カンファレンスの開催などを通して、性教育を「タブー」からポジティブへと変える活動を続けている。中高では生徒会や模擬国連にも打ち込み、数々の賞を受賞。英会話塾「Your English Classmate(YEC)」の元代表として、取り組みをインドにも広げた。趣味はジャズダンスとエレキギター。

この記事を書いたのは

長南真理恵 ライター

子育てや教育、エンタメにまつわる方々への人物インタビューを多く取材・執筆。大人はもちろん、子どもたちから話を聞くのも好きです。3兄弟を育てる母でもあり、同じように子育てに向き合っている方たちが共感できたり、悩みや困りごとに寄り添えるような記事を発信しています。

撮影/杉原賢紀

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