「赤ちゃんはどこから来るの?」と聞かれたら。3歳からの年代別・性教育を専門家がアドバイス

性教育というと性交渉などセクシャルな場面や、避妊のための教育だと思う方も多いかもしれません。自分自身が特に性教育を受けてきた記憶がない大人たちは、妊娠の心配があるころになったら、伝えればいいのでは?と思いがちです。でも、ネット社会の現代では、子どもたちが間違った情報を鵜呑みにしてしまう心配もあります。性教育はいつから始めたらいいのか、また、子どもの年齢に合わせた伝え方について、性教育について詳しい藤原美保さんに伺いました。

性教育は権利教育。発達にあわせて幼少期から伝え始めて

性教育は、人の権利や性の尊厳などについて学ぶ「権利教育」だといっても過言ではありません。なので、ベースには人との関係性や価値観、社会性、身体の発達、健康や安全についての知識が必要になり、一度にすべてを理解させることはできません。大人が子どもの発達に合わせて幼少期から少しずつ話していきましょう。思春期になってからでいいと後回しにせず、幼少期からその時期の理解度に合わせて、少しずつ伝えていくことがポイントです。

※年齢別にはなっていますが、本人の理解度に合わせて説明してください。個人差も大きく年齢が前後することもあります。

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未就学児(35歳)は体の機能を正しく伝える

この頃には自分の身体の性別について自覚する子が出てきます。自分の体のパーツに興味がわき、体の機能や男女の違いを意識するようになります。この年齢の子のなかには、女の子は便と尿が同じ所から出てくると思っている子がいるため、身体の部分や機能についての学びをスタートしてもよいでしょう。このとき、恥ずかしさや子どもへのわかりやすさを考えて「おちんちん」や「おまた」「おしりの穴」など、幼児語で話しがちですが、幼い頃から体の部位の名前を正しい医学的用語で話して聞かせることをおすすめします。

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赤ちゃんはどこから来るの?と聞かれたら

「赤ちゃんはどこから来るの?」という質問は、4歳前後のころに聞かれますが、この時期のこの質問のほとんどは、性行為よりも妊娠のしくみや自分はどこから来たのか?ということについての質問です。

その回答は、「精子と卵子が結合して赤ちゃんになり子宮で成長する」というシンプルなもので充分です。まだ彼らにはすべてを理解することはできません。「あなたの身体が成長したらまた話しましょう」と、彼らの理解と関心のレベルに応じ医学的用語を使って話してください。

 この頃から伝え始めたい内容

・自分の体が自分のものであり、他人に身体を触られるのを拒否することができる。
・自分も勝手に人に触ってはいけない。他人に触るときは許可(同意)を得ること。
・場所と場面や、身体のプライベートゾーンとパブリックゾーンの概念。

(人前でやっていいこと、だめなこと。自分が自由でいい場所、そうでない場所があることなど。これはまだ理解できない場合がありますが、5歳頃になると少しずつ理解していきます。)

これらのことを教えることにより、性的虐待を防ぐことや、もし受けた場合でも周囲の大人に報告することができるようになります。

学齢期前半(58歳)は、人の多様性について学ぶ

この年齢層の子どもは、まず「みんなと同じ」であることがよいことだと思っています。その結果、身体障害や障害による特徴的な見た目の人などを「非正常」と捉えることがあります。それを否定するのではなく、「そう思っているのね。でも実はね」と、いろいろな人がいること、違っていてもいいこと、多様性を互いに認め合うことが大切なことなどを、子どもにわかるように伝えていきたいものです。また、「ジェンダー」や「アイデンティティ」についても周囲からの期待を感じ始める年齢です。「男の子らしく」「女の子らしく」することを否定はしませんが、それだけが「正」であるわけではないことも同時に伝えていきたいです。

この時期に教えたいこと

・プライバシーや人間関係における他者への敬意、基本的な社会的習慣

・自分の権利だけでなく他者の権利を侵害しないこと

・身体のつくりや仕組みは男女で違うこと

・成長によって身体が変化していくこと

・ジェンダーは性器によって決定されない。心と身体の性別が一致しないことがある

・健康や病気についての知識や人の身体はそれぞれ違う

・人は多様であること

・結婚のシステムや離婚や別居、子どもがいない、事実婚など家族形態は様々だということ

・異性愛者、同性愛者、または両性愛者など、さまざまな性の表現やパートナシップがあること

・性的虐待や性暴力は人権侵害であり、防ぐには自分がしてほしくないことについて「NO」ということが必要だと伝える

・テレビなどのメディアにはフィクションとノンフィクションがあること

学齢期後半(912歳)はセクシャリティへの目覚めがある

男の子は精通、女の子は生理と第二次性徴期が始まる子が出てきます。この時期の子ども達がセクシャリティについて興味や疑問を持つことは自然なことです。精神的には個人のアイデンティティと独立を目指して、親よりも友人の意見をだんだん重要視するようになり始める時期です。ジェンダーやアイデンティティについても自覚が出てくる時期ではありますが、自分を同年代の子と比較して「ノーマル」かどうか悩む時期でもあります。

ネットからの歪んだ情報に触れる前に正しい教育を


塾通いやお稽古ごとがはじまると、子どもにスマホを持たせるご家庭も増えます。子どもがネットなど周囲の情報から誤った性の情報に触れる前に、性について家族間で話し合いをすることで、身体や心の変化について個人差があるのが正常で健全であることを伝え、安心させましょう。

この年齢の子ども達はゲームからアダルトサイトにつながってしまう心配もあるため、フィルタリングの必要性や、使用をするうえでのルールを一緒に考えることがおすすめです。利用するにあたり、ネットを通じて見知らぬ人と話すことや、オンラインで写真を共有する場合のルール、彼らが嫌な思いをしたときの対処方法などを一緒に考えましょう。

この時期に教えたいこと

・性ホルモンの影響で自分の身体に起こる変化

・月経周期、射精といった性と生殖の解剖学と生理学

・妊娠の仕組みや妊娠による身体の変化

・避妊方法や性感染症について

・社会的規範、性犯罪、性暴力から自分の身を守ること

・ジェンダーについての理解

PCとスマホの安全な使用方法(メディアリテラシー)

・インターネットで調べものをするときの注意点や個人情報についてネットを使う上でのリスク

中学生(1215歳)でも親に相談できる関係作りを

この世代の若者たちはセンシティブで、特有の感性を持っている場合があり、親の言うことに耳を傾けないこともあります。なので、それ以前から性の話をして、トラブル対応や、身体やアイデンティティの変化について、親へ相談できるようにしておきましょう。この世代では、健康な関係性と不健康な関係性を学ぶ必要があります。10代の性交渉のリスクや避妊の重要性。若年での意図しない妊娠は、健康や社会的な側面にマイナスな結果をもたらすケースが少なくないことを教えましょう。

 ネットリテラシー、リスクを一緒に考える

この年代のいじめなどは現実世界よりネット上での攻撃が主流になります。自分や友達、知り合いのヌード写真や、性的に露骨な写真を共有することや拡散することは法律に触れる場合があることを伝えましょう。そして、写真がフェイク動画に使われるなど、ネット上に上げた写真や動画にはどんなリスクがあるのかを一緒に考える機会を設けてください。

そしてアダルトビデオやアダルトサイトなどのセックスの描写が真実か偽か、現実的かどうか? そしてそれらが肯定的か否定的かを判断できるように教えていく必要があります。アダルトビデオの世界が性の教科書になることは男女ともに避けたいことです。

 この時期に教えたいこと

・性交渉のリスクと責任

・マスタベーションや性的欲求についても個人差があること

・思春期における衛生とセルフケアの重要性

・安全な性と避妊の方法、妊娠と性感染症(STI)の知識

・人工中絶

・権利侵害、暴力を予防すること

・性的関係における同意の意味の理解

高校生(1518歳)はより具体的な対応方法を学ぶ

この時期のティーンエイジャーには、自分のとった性的な行動が法的、社会的にどのような責任が問われるかを理解することが重要です。これまでの知識を実際に自分の性的行動に結びつけられるようにより、具体的な対応方法になどについて実際に考えていかなくてはいけません。リスク対策についてもより具体的に話しましょう。女の子だけでなく、彼女を妊娠させる可能性がある男の子にも正しい情報をきちんと伝えましょう。
自分の性的指向がはっきりしてくる年齢です。セクシャリティにおいて自分の性的限界を知り、性的行動にはお互いの「合意」が必要であるため、自分の意思決定が必要であることをしっかり伝えます。

男女の身体は時間とともに変化することを知る

そして生殖能力や機能を含む男女の身体は、時間の経過と共に変化することを理解させましょう。女性が妊娠できる時期にはタイムリミットがあることなども、若い頃から知っておくことは大切です。また、パートナーとの関係性の構築や継続、終結についても理解が必要です。人の気持ちは変わることなど、私達の性の課題は思春期だけの問題ではなく、生涯付き合っていかなくてはならない課題であることも、親子で話しあえるといいですね。

この時期に教えたいこと

・避妊具、緊急避妊法などを正しく安全に使うこと方法

・無計画な妊娠をした場合の選択肢やサポート機関

・自分やパートナーが妊娠した場合の身体、精神的ダメージ、費用や相談先について

・性感染症の対応

お話を伺ったのは

藤原美保|健康運動指導士、介護福祉士、保育士 株式会社スプレンドーレ代表

発達障害のお子さんの運動指導の担当をきっかけに、彼らの身体使いの不器用さを目の当たりにし、何か手助けができないかと、感覚統合やコーディネーショントレーニングを学ぶ。その後、親の会から姿勢矯正指導を依頼され、定期的にクラスを開催。周囲の助けを受け、放課後等デイサービス施設「ルーチェ」を愛知県名古屋市に立ち上げ現在に至る。著書に『発達障害の女の子のお母さんが、早めにしっておきたい47のルール』(健康ジャーナル社)『発達障害の女の子の「自立」のために親としてできること』(PHP研究所)がある。

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