先生たちの「アンガーマネジメント」を家庭にも応用!上手に怒る3つのキーワードとは?

怒りが爆発する前に知っておくだけでママのイライラまで解消でき、子どもが抱える心の負担も楽にさせられるというのが、いま、教育関係者からも注目されている“アンガーマネジメント”。怒りが生まれてくる構造を理解することで、ネガティブに考えがちだった過去の出来事もプラスに変えられるといいます。子育ての時間に余裕を持つためのテクニック。アンガーマネジメントコンサルタントの川上淳子先生にお話を伺いました。

アンガーマネジメントで、子どもが内面にもつ感情に気付いてあげよう

学校の中には、激しい言動で怒りをあらわにする子どもがいる一方で、自分のネガティブな気持ちを表せずに我慢をしている子どももいます。どちらも自分の気持ちを表現するという面から見ると、それぞれ課題があります。だからこそ、子どもの見えない怒り・感情の変化に気が付くことが必要です。

怒りは突然空から降ってくるものではありません。心の中にはコップがあると考えてみましょう。

私たちは朝から、この心の中のコップに「不安だ、寂しい」など、ネガティブな感情を注いでいます。アンガーマネジメントでは、この感情を「第一次感情」と呼びます。そしてこのネガティブな「第一次感情」が心の中のコップいっぱいに溜まっている場合、ちょっとした出来事がきっかけとなり、コップからネガティブな感情が溢れ、「怒り」が生じてしまいます。つまり、怒りは、「第二次感情」なのです。

「第一次感情」をキャッチすることが問題解決への糸口

子どもたちは家に帰るとこう言われます。

「お兄ちゃんだから、我慢しなさい」

「もう◯年生だから、一人で寝なさい」

「宿題、まだやってないの?」

学校では、朝から夕方まで時間に追われながら活動し、さまざまな価値観の友達の間で葛藤しながら過ごしています。時々気持ちを発散したくなることもあるでしょう。

「怒りのしくみ」がわかるようになると、目に見える言動だけを取り上げ、「どうして叩くの?」「どうして蹴るの?」と子どもを責めることはなくなります。子どもたちの言動の後ろにある本当の気持ちに気付き、子どもの「第一次感情を探る問いかけ」ができるようになるからです。そして、子どもたちとの信頼関係もより強いものとなります。実は、この「問いかけの力」こそ、山積する教育現場の課題を改善するために不可欠な技術なのです。

 

怒っている子どもを責めず、事実確認を

子どもどうしのトラブルでは、できるだけ早くその状況を把握するためにも、子どもたちが感じている「第一次感情」を捉えることが重要です。それでは、どのようにして「第一次感情」を把握することができるのでしょうか?

まず重要なのは「事実」の確認です。時間を空けずに、迅速に事実確認を行いましょう。

この時大切なことは、子どもを責めずに、「4W1H」を丁寧に確認することです。

過去から未来へ思考をシフトさせる方法

さらに事実を確認した後、「これからどうしたいのか」、問題解決に向け、お互いの考えを聞くと、第一次感情を引き出すことができます。

アンガーマネジメントでは、「過去と他人」は変えることができないと考えています。子どもたちはよく「○年生の時にもやられた」、「いつも叩かれる」と訴えてきます。そのような発言をし続けるのは、「過去と他人」に振り回されている状態と言えます。変えられない過去に捉われてしまっている考え方から、「未来と自分」を変えていく方向へとシフトさせていきましょう。

「アンガーマネジメント」で上手に怒るための3つのキーワード

Keyword1 怒りのピークは「6秒」

アンガーマネジメントにはさまざまな手法・テクニックがあります。その中でもとくに覚えておいていただきたい3つのキーワードがあります。この3つのことが理解できると、学校や家庭の様々な場面で、アンガーマネジメントができるようになります。怒りのしくみや性質を理解し、さまざまな場面でアンガーマネジメントの手法を活用することで、授業の質も、子どもたちの関係の質も向上します。

怒りはとても衝動性が強く、喜怒哀楽の感情の中でもコントロールしにくいものではないでしょうか。

「怒りの感情のピーク」は諸説ありますが、「長くて6秒」と言われています。そして、その6秒が過ぎると衝動的な怒りが徐々に収まっていきます。この6秒の間にしてはいけないことがあります。それは「反射」です。

怒りの感情にすぐに反射してしまうと、ひどい言葉で言い返したり、仕返しをしたり、取り返しのつかない事態を招いてしまいます。まず、売り言葉に買い言葉をしない、とっさの行動に出ないよう心がけましょう。

 

Keyword2 思考のコントロール「三重丸」で怒りポイントを把握


 

そもそもその「イライラ」はどこから生じてきたのでしょう? 答えはズバリ、「べき」的な価値観にありました

「べき」は「自分の願望、希望、欲求を象徴する言葉」です。

 ◦子どもは仲よく遊ぶべき。

 ◦先生に従うべき。

私たちには自分が信じているたくさんの「べき」があります。価値観と言ってもよいでしょう。それが目の前で裏切られると、怒りが生じます。つまり自分の考えと価値観が怒りを生み出しているのです。

例えば、集合する時刻「8時20分」を例に見ていきましょう。先生は、「学校は何事も5分前行動。8時15分に集まるべき」と思っています。

①8時15分 ②8時20分 ③8時25分イライラを減らしたいと思ったら、自分の許容範囲を広げる、ちょっと許せないけど「まあ許せる」という①と②の境界線を広げることです。つまり、自分の「べき」の範囲を広くすることが、怒りをコントロールする重要なポイントなのです。また、機嫌によって境界線を大きくしたり、小さくしたりせず、安定させることが大事です。

①の時は、自分の考えと同じなので怒りません。②の時は、自分の考えと少し違っています。だからイラッとする。でも少しは許せる状態です。③になるとは、自分の考えと全く異なる時間です。だから激高してしまいます。

Keyword3 行動のコントロール「分かれ道」の線引きをしよう


 

人生はいつも分かれ道。

私たちは選ぶことで人生を進めてきました。

怒ることも怒らないことも、すべてです。

ふり返ってみると、あんなに怒ったのに、状況は何も変わらなかったという出来事もたくさんあるでしょう。

こうした不要なイライラに悩まされないために、「分かれ道」が有効です。「分かれ道」は、イライラする理由を4分割し、視覚化して考え、行動していく手法。「過去と他人は変えられない」、「変えられるのは未来と自分」というアンガーマネジメントの考え方に基づき、変えられることをしっかりと見極めて自分の行動を変えていくことが目的です。

思考のコントロールの「三重丸」を使い、「②を超えたら、怒る」と決めたら、さらに「分かれ道」で、その出来事や状況が、「変えられること」なのか、「変えられないこと」なのか、「重要なこと」なのか、「重要ではないこと」なのか、線引きをしてみましょう。「今できること」「今できないこと」が明確になり、そこに集中して取り組めるようになります。さらにイライラも減り、仕事の効率も上がるはずです。

「分かれ道」の使い方

イライラを「分かれ道」を使って線引きし、下の4つの箱のどれに当てはまるかを考え、適切な行動を選び、取り組む。どうすれば自分や周りの人にとっても、長期的に見て健康的かを考えて行動する。

子どもに伝えよう!怒るときの3つのルール

学校生活を通してトラブルを経験することは、子どもの成長に必要なことです。その学校で起きるトラブルのほとんどは人間関係です。だからこそ、子どもたちに「怒るときのルール」を伝え、共有しておきましょう。

さらに、主語を自分にして伝える「I(アイ)メッセージ」で気持ちを伝えられるように指導していきましょう。

上手に怒るとは、相手や自分、モノを傷つけずに、自分が怒っていることをきちんと相手に表現することです。

「私はこう言われたからさびしかった」

「私はそばで聞いてほしかった」

このような表現で、感情的にならずに自分の気持ちを伝えるようにさせましょう。

子どもたちが上手な怒り方を身に付けることができれば、コミュニケーションの歪みを減らし、良好な関係を積み重ねることができます。

人を傷つけない

叩く、蹴る、押すなどの暴力行為はいけません。また、子どもたちは自分の言った言葉が相手を傷つけていることに気づかないことがあります。言葉でも人を傷つけたり、言葉で挑発したり、相手に問題行動を取らせたりする行為は許されません。

自分を傷つけない

子どもたちの自己肯定感は意外と低いものです。投げやりな言動をしてしまう、無気力や無関心を装うなど、自分の心を傷つけてはいけないことを伝えます。自傷行為など、自分の体を傷つける行動もいけないことです。

モノを壊さない

壁やドアを蹴ったり、ノートを破って捨てたり、子どもたちはいろいろな形で怒りを表そうとします。他人や公共のモノだけでなく、自分のモノも壊したり、傷をつけたりすることは許されません。誰かの物を隠すこともルール違反です。

 


 

教えていただいたのは、
川上淳子先生

Edu Support Office 代表

◇ 一般社団法人日本アンガーマネジメント協会 アンガーマネジメントコンサルタント アンガーマネジメントキッズインストラクタートレーナー

◇小学校教諭一種普通免許状 ◇養護学校教諭一種普通免許状 ◇幼稚園教諭一種免許状 ◇保育士  ◇学習療法士1級 ◇心理検査士 ◇初級教育カウンセラー

【プロフィール】

大分県出身。1979年宮城教育大学幼稚園教員養成課程卒業。1984年から宮城県小学校教員として勤務。1998年公立小学校にて教員を務める傍ら、教育雑誌に多数執筆。2014年よりアンガーマネジメントを学び、現場で実践を重ねる。2016年3月、勧奨退職し独立。現在は「日本中の教室にアンガーマネジメントを!」 「日本中の子どもたちをアンガーマネジメントで幸せに!」 をモットーにアンガーマネジメントコンサルタントとして執筆・講演活動を行う。2児の母。

【URL】http://edu-support-office.jimdo.com/


子ども、保護者、教師が笑顔で仲よく! 教師のためのケース別アンガーマネジメント

著/川上淳子

1500円+税(小学館)

 

再構成/HugKum編集部

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