乳幼児教育保育実践研究家の井桁容子先生が、子育て中のママのお悩みに答えます。今回は「上手なほめ方・しかり方」についてお話を伺いました。
Q:活発な娘は、何度しかってもさわいだり、いたずらしたり。もっとほめなければと思っても、うまくできません。
子どもには、ほめ言葉が 重荷になることも
子どもは親の思いを敏感に察し、期待に応えようとします。そのため、ほ め言葉が「ほめられる結果でないと認めてもらえない」という評価として伝わってしまうことがあります。毎回、 「がんばってえらいね」とほめられることは、「がんばれなかったらえらくない」と同じ意味をもってしまうのです。これは、うまくいかないことやイヤなことを隠したくなる心を育ててしまうこともあるので、注意が必要です。
「ほめて伸ばす」というのは、むやみにほめたりおだてたりすることではありません。親が心から「すごいな」 「えらいな」と思う場面では、子どももそう感じていることが多いもので す。そのときにほめられることが自信になり、意欲につながっていくのです。
そしてほめること以上に重要なのが、うまくいかなかったとき、悲しかったりがっかりしたりといった気持ちを分かち合うことです。子どもが「どんなときでも受け止めてもらえる」と感じ、親への信頼が深まっていくことで、「ありのままの自分でいていいんだ」という自己肯定感が育つのです。
頭ごなしにしからず、 まずは理由を聞いて
子どもをしかるときの自分の気持ちを見つめてみましょう。「ちゃんとした子に育てなければ」という、親としての気負いがあるのではないでしょうか。また公共の場では、周囲への気兼ねから「しからなければ」と思ってしまうこともありますよね。でも子ども をしかる本当の意味は、危険なことを教えたり、自分の言動でだれかがいやな思いをすることがある、と気づかせたりすることにあります。
人間の子どもは、生後間もないころから相手の言葉や感情を理解する力をもっているといわれています。ですから「強く言わなければ子どもにはわからない」というのは、本当の子どもの力を知らない大人の思い込みです。困ったことをしたときは、目を合わせて 言葉で伝えるのが基本です。もちろん、 一度で理解できるとは限らないので、 少々根気は必要ですが。
よくない行動をしたときは、まず理由を聞いて、子どもの気持ちを受け止めたうえで「こうすればよかったね」 とアドバイスをしてみましょう。子どもは、自分の気持ちをわかってくれる人の言葉に耳を傾けるからです。
頭ごなしの「ダメ」は、「一方的にしかられた」と思うだけ。なぜダメなのかがわからないため、次の似たような状況に生かすこともできません。
「なぜ」を知ることは、「知識」になります。店内で大きな声を出してはいけない理由を「周りの人が驚くから」と理解していれば、場所がかわっても「周囲にたくさんの人がいるときは大きな声を出さないほうがいいだろう」という判断ができるようになるのです。
大人の都合で ほめたりしかったりしない
ほめることやしかることは、子どもを「大人の思いどおりに育てる」ための手段ではありません。子どもがこれからの人生を楽しく、幸せに生きていけるようにするための、大人からのアドバイスであるべきです。
「こうしたらほめる」「こうしたらしかる」と単純に分けるのではなく、「なぜそうしたのか?」を常にわかろうとすること。そして、子どもの気持ちをふまえて、よりよいアドバイスをしていくこと。簡単ではありませんが、これが大人に求められている役割なのです。
記事監修
乳幼児教育保育実践研究家、非営利団体コドモノミカタ代表理事。東京家政大学短期大学部保育科を卒業。東京家政大学ナースリールーム主任、東京家政大学・同短期大学部非常勤講師を42 年務める。著書に「保育でつむぐ 子どもと親のいい関係」(小学館)など。
2020年6月号『めばえ』 イラスト/原あいみ(京田クリエーション) 構成/野口久美