赤ちゃんの歯並びが不ぞろいだったり、大きな隙間が空いていたりすると心配ですよね。赤ちゃんの乳歯の歯並びは、永久歯に影響を与えるといいます。そこで当記事では、赤ちゃんの歯並びが悪くなる原因や、歯並びを悪くしないための予防策をはじめ、歯並びが悪い赤ちゃんへの対処法、赤ちゃんへの正しい歯磨き法について、医療法人育徳会 磯村歯科医院 院長の磯村礼子先生に教えていただきました。
目次
赤ちゃんの歯並びが心配
赤ちゃんの歯は、生後6カ月くらいに下の前歯から生えはじめるのが一般的です。3歳ごろまでに20本の乳歯が生えますが、歯並びがガタガタだったり、隙間が空いていたりすると不安になりますよね。乳歯は赤ちゃんの歯の成長を支える大切なもの。乳歯が生える前、生えはじめ、そして生え揃うまで、毎日、しっかりケアしてあげてください。
赤ちゃんの乳歯の歯並びが悪いと永久歯にも影響する
以前は「乳歯は抜けてしまうのだからあまり心配しなくてもいい」などと言う人もいましたが、大きな間違い。食べ物をかむことはもちろん、言葉を話すときにも乳歯は大切な役割を担います。そして永久歯が適切に生えるための目印にもなります。
まずは「よくない歯並び」とはどんな状態を指すのかを見ていきましょう。
反対咬合(はんたいこうごう:受け口)
下の前歯が、上の前歯よりも前に出ている状態をいいます。歯の正しいかみ合わせは、乳歯でも永久歯でも、上の歯が下の歯よりも前に出ています。
反対咬合は上の前歯が内側に傾いている、あるいは下の前歯が外側に傾いていることや、上あごが下あごよりも小さく(つまり、上あごよりも下あごが大きく)、下あごが前に出ていることが原因となります。
上顎前突(じょうがくぜんとつ、出っ歯)
前歯、あるいは上の歯全体が極端に前に出ている状態を言います。
上の前歯が外側に傾いている(前方に出ている)、上あごが下あごよりも成長している、指しゃぶりのくせがあるなどが原因になります。
歯が生えるのが遅い方がいい?
乳歯は通常、下の前歯から生えはじめ、上の前歯、奥歯と続き、2歳〜3歳くらいまでに20本すべてが生え揃います。ただし、生える順番は必ずしもこの通りではなく、上の前歯が先に生えはじめる赤ちゃんもいます。
また、虫歯になるリスクを遅くすることにつながるという理由から、「歯が生えるのが遅い方がいい」という人もいるかもしれません。いずれにせよ、赤ちゃんの歯が生える時期をコントロールすることはできませんので、それについて過度に考えても仕方ありません。それよりも、乳歯は赤ちゃんの成長の大きな証です。多少の早い・遅いは気にすることなく、毎日ケアしてあげましょう。
赤ちゃんの歯並びが悪くなる原因
反対咬合や上顎前突は、日常生活の中に原因があることも。赤ちゃんの正しい歯並びには、口のまわりや舌の筋肉が十分に鍛えられ、あごがしっかり発育することが必要です。
おしゃぶりや指しゃぶり
指しゃぶりをすると、歯並びが悪くなる可能性があります。くわえた指が前歯を前に押しているような状態になるためです。また、おしゃぶりを使う期間が長すぎることも歯並びが崩れる原因になることがあります。
ただし、おしゃぶりは赤ちゃんの口のまわりの筋肉を鍛えたり、鼻呼吸ができるようにすることに役立ちますので、使用期間に注意しながら使ってください。
口を開けている癖
口を開けている癖があると、口のまわりの筋肉が十分に刺激されず、結果的に歯並びが悪くなることがあります。特に口を開けて、下あごを前に突き出すような癖がある場合、受け口になりやすくなるといわれています。また、哺乳瓶でジュースを飲むと虫歯が多発し、ひいては歯並びが乱れることになるので注意しましょう。
やわらかいものばかり食べている
やわらかいものばかり食べていると、あごが十分に発達せず、歯並びが悪くなってしまう可能性があります。また、奥歯でしっかりかむ習慣が身につかず、前の方の歯でかむようになってしまい、出っ歯の原因にもなってしまうことも。赤ちゃんが食べやすいようにと、やわらかいものばかりを与えないようにしてください。
片方でかむ、頰づえをつく
食べものを口の片方だけでかむ癖や、頬づえをつく癖があると、あごの片方だけに力がかかり、歯並びが悪くなってしまいます。
赤ちゃんの歯並びを悪くしないための予防法
赤ちゃんの歯並びを守るためにできることは何でしょうか? ここでは歯が生える前、離乳食の頃、歯が生えてきた頃の段階にわけてご紹介します。
歯が生える前の予防法:母乳やミルクのときから口のまわりの筋肉を鍛える
赤ちゃんの歯並びを悪くしないための予防法は、歯が生える前、つまり母乳やミルクを飲んでいる頃からはじめるといいでしょう。赤ちゃんは舌や唇、頬を使って母乳やミルクを飲んでいます。このとき、一生懸命に舌や唇、頬を動かすことで、筋肉を発達させることができます。
飲みやすいように、吸引力が弱くても飲めるタイプの哺乳瓶ばかりを使ったり、哺乳瓶のキャップをゆるめたりすると、口のまわりの筋肉が十分に発達しない恐れがあります。
離乳食の頃の予防法:離乳食は歯ごたえのあるものも
離乳食を食べる時期は、母乳やミルクを卒業し、「食べものをしっかりかんで食べる」という人間にとって大切な習慣を身につける時期。この時期にやわらかいものばかりを食べていると、あごが十分に発達せず、歯並びが悪くなってしまいます。
やわらかい離乳食ばかりでなく、徐々に歯ごたえのあるものを与え、赤ちゃんがしっかりかんで食べられるようにしてあげましょう。
歯が生えてきた頃の予防法:虫歯に注意して、よくかみ、よい姿勢で食べる
乳歯が生えてきたら、何よりも、むし歯にならないよう注意してください。乳歯がむし歯になると、乳歯の下で準備している永久歯にも影響を与えてしまうことになります。
そして、食事のときはよくかみ、よい姿勢で食べることが大切になります。よくかんで口の筋肉を鍛えることはもちろん、背筋を伸ばして、足をきちんと床やフットレストに接してよい姿勢で食べると、自然と奥歯でかむ習慣を身につけることができます。
歯並びが悪い赤ちゃんへの対処法
ケアをしていても、さまざまな条件で赤ちゃんの歯並びが悪くなってしまうことはあります。そのときはどうすればいいのでしょうか? 対処法をご紹介します。
斜めやハの字
乳歯が斜めに生えたり、ハの字(例えば、下の前歯2本がまっすぐではなく、隙間があいて、上が広がっているような状態)になっていても、それほど心配する必要はありません。乳歯が生えはじめた頃は、あごも発育を続けていて、あごの発育とともに歯の位置も動いていきます。
また、乳歯は隙間が空いているのが通常です。この隙間は乳歯より大きな永久歯が生えてくるために必要なスペースである場合もあります。また、定期的に歯科医院でフォローする事をおすすめします。
前歯が大きい
赤ちゃんの乳歯は、下の前歯2本、上の前歯2本から生えてきます。そのため、前歯の大きさが気になることもあるでしょう。上下それぞれ2本の歯が同じ大きさなら、大きく見えても、それほど心配する必要はありません。赤ちゃんの成長とともに、口も大きくなり、目立たなくなっていくはずです。
左右で大きさが極端に違う場合は、大きい方の歯は、2本の歯がひとつにくっついてしまった癒合歯(ゆごうし)の可能性があります。乳歯の、特に下の前歯で起こることがあります。すぐに大きな問題になるわけではありませんが、溝があって、むし歯になりやすかったり、永久歯に影響する場合がありますので、一度、歯科医の診察を受けるとよいでしょう。
前歯が一本だけしか生えない、片方生えない
乳歯が生え方には個人差があります。多くの場合は、生後6カ月くらいで下の前歯が生えはじめて来ますが、早ければ3カ月くらいで、遅い場合は1歳を過ぎてから1本目が生えてくることもあります。1歳半検診の頃は個人差が大きいため、あまり気にする必要はありません。
ただし、1歳半を過ぎても1本も生えてこないようであれば、歯科医師に相談してみてください。
乳歯のときに歯科矯正は必要?
歯科矯正は、一般的には永久歯が生えてくる時期に行います。歯並びが気になる場合は、永久歯の上下の前歯がそれぞれ、2〜3本ずつ生えてきた頃に、歯科医のチェックを受けるといいでしょう。
ただし、乳歯でもかみ合わせが逆になってしまっている反対咬合(いわゆる、受け口)の場合は、乳歯から永久歯に生え変わる時期に治療を開始した方がいいケースもあります。
赤ちゃんへの正しい歯磨き法
赤ちゃんの歯磨きは、乳歯の最初の1本が生えてきたときからはじまります。きれいな歯並びのためには、乳歯をむし歯にせず、最後まできれいに保つことが大切です。
赤ちゃんの歯並びや歯の生える時期には個人差がある
赤ちゃんの乳歯の生え方には個人差があります。また、乳歯の生え方や歯並びには、口の筋肉やあごの発育が大きく関わってきます。歯並びばかりに注目するのではなく、離乳食の内容、食べる姿勢など、生活全般を通して赤ちゃんの歯のケアを行いましょう。また、呼吸は「生きる基本」です。口呼吸していると、口の中だけでなく、知的発育、運動能力的発育にも関与するといわれていますので、子どもが口を開けていたら注意してあげてください。
記事監修
磯村礼子
長きに渡る歯科医療の中で、隣接する磯村医院や介護の施設との連携から健康寿命が天寿と一致する為には、生涯を通して健全な口腔環境を維持していくために欠かせないもの、と考えている。「将来的にお子さんを育てていきたい」と考え始めたタイミングである「マイナス2歳からの生涯治療ゼロ」を掲げており、そのために、細胞レベルで食を通じた口腔管理が必要だと考えている。『介護不安解消ガイドブック』Amazonランキングにて7部門1位を獲得。
医療法人育徳会 磯村歯科医院
文・構成/HugKum編集部