子どもと向き合う時間は、一喜一憂のとまどいの連続。子育てに行き詰まることも日常です。歌人・俵万智さんが詠み続けた「子育ての日々」は、子どもと過ごす時間が、かけがえのないものであることを気づかせてくれます。「この頃、心が少しヒリヒリしている」と感じていたら、味わってほしい。お気に入りの一首をみつけたら、それは、きっとあなたの子育てのお守りになるでしょう。
たんぽぽのうた1 叱られて泣いてわめいて
叱られて泣いてわめいてふんばってそれでも母に子はしがみつく
子どもにとってお母さんって
子どもにとって、ある意味自分は全世界に近いぐらいの存在なんだな、と思うのはこの歌のようなときだ。母が世界の一部にすぎないのなら、叱られて泣いてわめいてそこを離れればいいのだが、子どもは、そうはできない。この母にもう一度機嫌よくなってもらわないことには、世界は再開されない、というぐらいの思いがあるのだろう。
たんぽぽのうた2 のど自慢の鐘なら幾つ鳴るだろう
のど自慢の鐘なら幾つ鳴るだろう叱りすぎたか甘やかしたか
子どもをつい厳しく叱ってしまったときに
育児書のたぐいを開くと「叱るよりも褒めよ」というのが昨今の主流だ。つい厳しく叱ってしまうと、頭の中で「カーン」と鐘が鳴るような気がする。のど自慢で、一番ランクが低いしるしの、あの鐘の音である。
俵万智『子育て歌集 たんぽぽの日々』より構成


短歌・文/俵万智(たわら・まち)
歌人。1962年生まれ。1987年に第一歌集『サラダ記念日』を出版。新しい感覚が共感を呼び大ベストセラーとなる。主な歌集に『かぜのてのひら』『チョコレート革命』『オレがマリオ』など。『プーさんの鼻』で第11回若山牧水賞受賞。エッセイに『俵万智の子育て歌集 たんぽぽの日々』『旅の人、島の人』『子育て短歌ダイアリー ありがとうのかんづめ』がある。2019年評伝『牧水の恋』で第29回宮日出版大賞特別大賞を受賞。https://twitter.com/tawara_machi
写真/繁延あづさ(しげのぶ・あづさ)
写真家。1977年生まれ。 長崎を拠点に雑誌や書籍の撮影・ 執筆のほか、出産や食、農、猟に関わるライフワーク撮影をおこなう。夫、中3の⻑男、中1の次男、小1の娘との5人暮らし。著書に『うまれるものがたり』(マイナビ出版)など。亜紀書房ウェブマガジン「あき地」にて『山と獣と肉と皮』連載中。ブログ: http://adublog.exblog.jp/
タイトルイラスト/本田亮