子どもと向き合う時間は、一喜一憂のとまどいの連続。子育てに行き詰まることも日常です。歌人・俵万智さんが詠み続けた「子育ての日々」は、子どもと過ごす時間が、かけがえのないものであることを気づかせてくれます。「この頃、心が少しヒリヒリしている」と感じていたら、味わってほしい。お気に入りの一首をみつけたら、それは、きっとあなたの子育てのお守りになるでしょう。
たんぽぽのうた1 我よりも年若きベビーシッターに
我よりも年若きベビーシッターに子は生き生きと抱かれており
数時間会わないだけで、自分が「やさしいおかあさん」になれる
シッターさんというのは、子どもの扱いにかけてはプロである。自分より年は若くても、さすがだなあと思うことが何度もあった。(中略)シッターさんだけでなく、私の両親をはじめ、二人の叔母やいとこまで、とにかく頼れる人には頼りまくってきた。子どものおかげで、自分自身の人間関係も、濃くなったようにおもう。いろんな大人の目でみてもらうことは、子どもにとっても、プラスだろう。
そして誰かに預かってもらうことの、最大のメリットは、自分が「やさしいおかあさん」になれることだ。数時間会わないだけで、子どもに対して、ずいぶん心が広くなるのを実感する。
たんぽぽのうた2 親は子を育ててきたと言うけれど
親は子を育ててきたと言うけれど勝手に赤い畑のトマト
親は子どもにどんな手助けができるだろうか
教師をしていて気になったことの一つは、保護者が、案外簡単に「育てた」「育ててきた」と口にすることだった。もちろん、おぎゃあと生まれてからこれまで、生活のあらゆる面倒を見てきたわけだから、そう言いたくなるのもわかる。が、その大部分は、生きる糧を「与え」、生きるノウハウを「教えて」きたのだと思う。
子どもが、自分の人生を充実して生きていけるようになるまで、どんな手助けができるだろうか。今、私も一人の親として、自戒しながら自問している。
俵万智『子育て歌集 たんぽぽの日々』より構成



短歌・文/俵万智(たわら・まち)
歌人。1962年生まれ。1987年に第一歌集『サラダ記念日』を出版。新しい感覚が共感を呼び大ベストセラーとなる。主な歌集に『かぜのてのひら』『チョコレート革命』『オレがマリオ』など。『プーさんの鼻』で第11回若山牧水賞受賞。エッセイに『俵万智の子育て歌集 たんぽぽの日々』『旅の人、島の人』『子育て短歌ダイアリー ありがとうのかんづめ』がある。2019年評伝『牧水の恋』で第29回宮日出版大賞特別大賞を受賞。https://twitter.com/tawara_machi
写真/繁延あづさ(しげのぶ・あづさ)
写真家。1977年生まれ。 長崎を拠点に雑誌や書籍の撮影・ 執筆のほか、出産や食、農、猟に関わるライフワーク撮影をおこなう。夫、中3の⻑男、中1の次男、小1の娘との5人暮らし。著書に『うまれるものがたり』(マイナビ出版)など。亜紀書房ウェブマガジン「あき地」にて『山と獣と肉と皮』連載中。ブログ: http://adublog.exblog.jp/
タイトルイラスト/本田亮