「児童労働」ってなに? キーワードから学ぶ世界と私たちの関係【発育のススメ】

教育と訳されるeducationの語源はeduce。「能力や可能性を引き出す」という意味です。
本来の意味を知る福沢諭吉はeducationを「発育」とすべきと主張したそう。
この連載では、教える側ではなく学ぶ側を主体とした発育をコンセプトに、最先端の教育事情を紹介します。

 

普段口にしているコーヒーやチョコレート。Tシャツのコットン。その原料の多くはアフリカやアジアなど海外で生産されていますが、知らないうちに、児童労働で作られた商品を手にしているかもしれません。これを機会に、家族で児童労働について話し合ってみませんか?

「児童労働」から学ぶ世界と私たちの関係

児童労働を強いられている子どもは世界に1億5200万人(2016年)います。今もなお全世界の子どもの10人に1人が児童労働に従事している計算になります。もっとも児童労働が多い産業は農業や鉱業といった農林水産業で、次に多いのが工業製造業。そして路上でものを売る、家事使用人として働くなどのサービス業です。児童労働には貧困のほか、伝統や習慣の違いなどさまざまな問題が関係していますが、一般的には小学生や中学生にあたる年齢の子どもが学校に行けず、学ぶ機会を奪われている現実があります」

国際労働機関(ILO)に勤める荒井由希子さんは、児童労働の現状についてそう語ります。

児童労働問題は日本から遠く離れた国の出来事と捉えられがちですが、私たちの生活に大きく関わっています。ファストファッションに象徴されるように、より良質のものをより安価で求める傾向は、生産者である途上国に大きなプレッシャーをかけている場合があります。ファッションのみならずチョコレートのカカオ、コーヒー豆など身近な商品が児童労働により作られている可能性があるのです。

©ILO

着るものや食べるものから、世界に思いをはせる

「最近日本でもよく耳にするSDGs(持続可能な開発目標)の中にも児童労働が含まれ、社会的責任として、海外調達先における児童労働撲滅に取り組む日本企業も増えてきました。また、コーヒー豆やチョコレートで『フェアトレード』の認証マークが貼られているものがありますが、児童労働の禁止は認証基準のひとつとなっています。ヨーロッパでは、フェアトレードのバナナとそうでないバナナでは高価格でもフェアトレード商品が売れる傾向にあり、地球課題に対して消費者が敏感です。

日本でも、消費者が『今、身につけている洋服はどこの国で作られたものか?』『おやつに食べたチョコレートの原料はどこからきている?』など商品のラベルに注目することで世界に目を向け、また、児童労働を含めたSDGs に取り組む企業の商品を選択することで、世の中は少しずつ良い方向に向かっていくと考えます。児童労働のある世界は明るくありません。SDGsが目指す『誰も取り残さない社会』も児童労働のない未来です。児童労働撲滅のために『自分に何ができるだろう?』と考え、家庭や学校で話し合うなど、子どもの頃から地球課題に対して問題意識を持って行動することで、一人一人が児童労働にレッドカードを出せるようになるはずです」

児童労働  撲滅への具体的な歩み

1990年代には、ワールドカップやオリンピックで使われるサッカーボールを縫製するパキスタンの産業で児童労働が発覚し、世界的なニュースになりました。荒井さんが勤めるILOは、FIFA(国際サッカー連盟)やユニセフ、現地政府、企業などと協力し児童労働撲滅に尽力。これによってサッカーボール産業における児童労働がゼロになり、企業や消費者、国際機関などの国境を超えた協働によって児童労働が撤廃できることを証明しました。

東京2020オリンピック・パラリンピックの招致委員として活躍した荒井さんは、この経験を活かし、東京大会を児童労働撲滅の成功例にしたいと語ります。

東京大会では、児童労働禁止を含めた行動規範を守る企業の製品が使用されます。日本の支援のもと、パキスタンでは、サッカーボールに限らず、アスリートが着用するウエアやアイテムなど、スポーツ産業すべてにおいて児童労働をなくし、働く人の権利を守るILOプロジェクトを展開しています。2018年に覚書を結んだ大会組織委員会とILOは、世界から児童労働をなくすムーブメントをけん引する役割も担っています。スポーツのフェアプレーの精神にのっとって、東京大会が児童労働撲滅をはじめ、大会に関わるすべての人を賛美できる祭典になることを願っています」

児童労働とは?

©ILO

就業最低年齢(原則15歳、危険有害労働18歳)を下回る児童によって行われる労働。身体的、精神的、社会的、道徳的な悪影響を及ぼし教育の機会を阻害するもの。

児童労働をなくしたサッカーボール

サッカーボール縫製における児童労働をゼロにした成功例として知られるパキスタン。現在は写真のような成人女性が多く携わり、五輪やW杯の公式球を製造しています。

東京2020大会と児童労働撲滅活動

東京2020大会パートナー企業が行う「より良い労働への取り組み」の事例集は、ここから確認できます。

 

これを機に、「児童労働」の問題について親子で話し合ってみませんか。世界各国の格差や、国を超えた倫理問題など、学校での社会科の授業を超えた認識がそこから生まれるのではないでしょうか。

お話をうかがったのは…

国際労働機関(ILO)ジュネーブ本部 多国籍企業局上級専門家
荒井 由希子

世界銀行勤務を経て国際労働機関(ILO)入職。企業の社会的責任、途上国の労働問題などに従事。2013年にはI LOを休職し、東京2020オリンピック・パラリンピック招致に携わる。

「発育のススメ」は『小学一年生』別冊HugKumにて連載中です。

1925年創刊の児童学習雑誌『小学一年生』。コンセプトは「未来をつくる“好き”を育む」。毎号、各界の第一線で活躍する有識者・クリエイターとともに、子ども達各々が自身の無限の可能性を伸ばす誌面作りを心掛けています。時代に即した上質な知育学習記事・付録を掲載し、HugKumの監修もつとめています。

『小学一年生』別冊HugKum 2020年12月号  構成・文/山本章子

今回の記事で取り組んだのはコレ!

  • 1 貧困をなくそう
  • 10 人や国の不平等をなくそう

SDGsとは?

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