羽生善治永世七冠を現代に生きる偉人としてその半生を描いた小学館の学習まんがスペシャル『羽生善治』。本書に収録された羽生永世七冠のロングインタビューを2回にわたってお届けします!
前編に続き、後編では、師匠との出会いやライバルの存在、これからの将棋界について、さらに子どもたちにおすすめしたい本も教えていただきました。特別公開の本編まんがの一部もあわせてお楽しみください。
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【本編まんが特別公開】小学生将棋名人戦に挑んだ羽生少年
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羽生善治ロングインタビュー後編
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師匠の二上達也九段について教えてください
二上九は、おだやかで優しい先生でした。美学を重じる昔かたぎの人でもあり、結果だけではなく、結果にたどり着くまでのプロセスや内容にもこだわりを持っていた人でした。
そういうところを僕も見習いたいと思っています。
羽生先生にとって、ライバルとはどんな存在ですか
僕と同年代のライバルたちには、ずっと支えられてきましたね。
ライバルというのは、お互いに持っている能力を向上させてくれる存在で、絶対にいたほうがいいと思います。
僕の今までの棋士生活を支てくれたのは、師匠であり、ライバルであり、あとは両親、家族、将棋道場の席主などですね。たくさんの人に支えられてきました。そういう人たちが僕の宝物だと思っています。
ライバルとの対局に負けて落ち込むこともあると思いますが、どうやって気持ちを立て直すのでしょうか
対局で負けて気分が落ち込むことも、悔しく思うこともあります。
そういうときに、いかに気持ちを立て直すか。若いころは難しかったですが、ある程度大人になってから、少しずつ自分を立て直すのが上手くなってきました。
どうするかというと、自分の「世界」をたくさん持って、気分転換をします。
この世というのはひとつですが、生きていく中で「世界」というのはたくさんあります。学校だったり、習い事だったり、家庭、近所、職場など、それぞれが「世界」です。
こっちの世界がダメなときはそっちの世界で気分転換、というふうにして気持ちを切り替えることができるので、自分の世界をたくさん持っているほうがいいと思います。
今、落ち込んだり悩んでいる人はどうしたらいいでしょうか
もし今、支えてくれる人や逃げ込める場 所がないと悩んでいる人がいたら、僕は「情報」がすごく大事だと思うので、困っていることについて「情報」を集めてみてほしいと思います。
困った状況になったときに、ただ立ち止まってしまうのではなくて、自分なりに色々調べてみるということが大切で、それがきっかけで、解決策を見出だせることもあるのではないかと思います。立ち止まらずに、とにかく進み続けることが大事なんじゃないかなと思います。
「永世七冠」の達成と国民栄誉賞の受賞について教えてください
僕も、悩んだり落ち込んだりしながらプロ棋士という仕事をしています。
そういう中で2017年に「永世七冠」を達成して、国民栄誉賞というとても名誉ある賞もいただきました。
人から評価してもらえるというのは、とてもありがたいことで、励みになります。
僕は、ただ評価してもらうだけよりも、自分でやってきた手ごたえと一致して賞をいただけた、というのが一番いい形なんだと思っています。それが、とてもうれしかったです。
これからの将棋界について、どうお思いですか
今、将棋界には藤井聡太七段のような若い棋士たちが大勢現われています。
藤井七段は、新しい時代の新しい感覚を持った棋士です。将棋全体もどんどん変わっているので、藤井七段も今風の将棋をアレンジして指している、新しい時代・世代を体現している人だと思っています。
僕も新時代のライバルたちとの対局を楽しみにしています。
藤井聡太七段はAI将棋世代ですものね。先生は2045年に訪れると言われているシンギュラリティ*7についてはどうお考えでしょう
テクノロジーの進化は止まることはないけれど、進んだ後にどういう世界ができるかは誰にもわからないですよね。
VR( 仮想現実)やAR(拡張現実)というテクノロジーがすごく進んできていますが、今後もしかすると、そういう世界で日常の大部分を過ごす人たちが出てくるかもしれない…
そうなったときに、どんな世界・社会で生きたいのか? ということを、われわれ人類が問われているのが今の社会ではないかと思っています。
このままどんどんテクノロジーだけが進化していくと、真心、道徳、倫理のようなものとのバランスが悪くなっていく感じはしています。
今の世の中は機械の性能を良くしていこうという方向ですが、その機械を良くするために、人間そのものの仕組みを解明しようとする段階が来るはずなので、そうなったときに、人類が積み上げてきた知恵や英知を調べざるをえないとか、解明せざるをえなくなるときが来ると思います。
若い人たちも夢中になる将棋の魅力は、どんなところだと思いますか
将棋のいいところは勝ち負けがはっきりつくところかな、と思っています。
実際の人生では、はっきりとは白黒つけないほうがいいとか、ときとして本当はこうなるべきなんだけど違う結果になっているとか、そういう曖昧なことが多いと思うんですが、将棋だと引き分けもなくきっちり勝負がつきますよね。
ただ、よい手を指せば勝てるとか、正しい選択をすればいい結果になるのかというと、必ずしもそうとは限らないのですが。
まんがの最後で「たどり着けど、未だ山麓」ということばが出てきますが、将棋を山にたとえると、羽生先生は、今どのあたりにいると思いますか
僕は「永世七冠」を達成できましたが、まだまだ実感として将棋をやってきた時間が短かすぎて、おそらく中腹までもたどり着けていないと思います。将棋は「10の220乗」(将棋でありうる棋譜の数を表している数字)くらいの可能性があるものなので、やっと山のふもとにはたどり着いたかなという感じでしょうか。
ほかの人と比較して、切磋琢磨して、ライバルと共に成長していけるのももちろん大事ですが、基本的には自分が生まれ持った能力や才能を少しずつでも伸ばしていけたらいいんじゃないかと思います。
「人は同じ」だと言っても、持っている才能はそれぞれ違って、得意・不得意があるので、その中で何をやっていくのかが、人生においては大事なのかなと思っています。
ありがとうございます。では、最後に読者のみなさまへメッセージをお願いします。
僕は「自分で考える」ということが、人生にとって、とても重要だと思っています。
将棋も自分で考えるゲームですしね。
考えて、決断して、結果勝っても負けても自分のせいです。勝ったらなぜ勝てたかを、負けたらなぜ負けたのかを考えます。
人間ですから、生きていく中で失敗したり成功したりしますが、自分で考えるほうが絶対に面白いと思いますよ。
大変恐縮ですが、最後の最後に子どもたちにおすすめの本を3冊教えていただけますか?
(笑)。そうですねぇ… 『クマのプーさん』『シャーロックホームズシリーズ』『ライ麦畑でつかまえて』ですかね。でも『ライ麦畑でつかまえて』は小学生の方にはちょっと難しいかもしれませんね(笑)。
ありがとうございました!!!
注釈*7 シンギュラリティ…AI(人工知能)が人類の知能を超えること。これによって、人間の生活が大きく変わると言われている。
2018年9月小学館にて インタビュアー/ 武藤心平(小学館)
学習まんがスペシャル『羽生善治』発売中!
羽生さんのインタビューの中には、子どもの可能性を伸ばすうえでのヒントがたくさんありました。羽生善治永世七冠の半生を描いた 小学館 学習まんがスペシャル『羽生善治』には、お子さんが読んで勇気や力をもらえる言葉がたくさん詰まっています。ぜひお子さんと一緒に読んでみてくださいね。
まんが/金田達也 原作/三条和都 監修/羽生善治
2017年の12月、「永世七冠」を達成し、2018年には将棋界初の国民栄誉賞を受賞! 「学習まんが人物館」の人気シリーズの64巻目として、羽生善治永世七冠の半生を描いた偉人伝。日本の伝統文化である将棋の頂点に立つ羽生善治永世七冠を、現代に生きる「偉人」として、詳しく、面白く、ドラマチックに描きます。羽生永世七冠の軌跡や業績はもとより、その驚異的な強さの秘密や日々のたゆまぬ努力を綿密に描きました。お子様の成長に役立ち、現代社会を生き抜くための知恵をふんだんに盛り込んだ学習まんがです。もちろん大人も楽しめる本格的な内容です。巻末には羽生永世七冠のロングインタビューも収録。撮り下ろし写真も満載!