どんな親でも、勉強であろうと運動であろうと、わが子には興味のあることに意欲的に取り組める子になってほしいと思うものです。そのために、親は子供とどのように関わり、やる気を引き出してあげればよいのでしょうか。保育士の井桁容子先生にお話をお聞きしました。
Q . 将来は、勉強にも運動にも意欲的に取り組む子になってほしい!子どものやる気を伸ばすために、親はどう関わっていけばいいですか?
A . 子供は皆、もともとやる気をもっています
最初に、やる気とは何か? を考えてみましょう。「やる気」とは、「自分で〜をしたい」という気持ちです。そして、それは「〜が好き」「〜ってなんだろう?」という関心や好奇心から生まれるもの。子どもは皆、いつだってやる気満々です。問題は、子どもの「やる気」を、大人が見落としたり否定したりしてしまっていることなのです。
いたずらも「やる気」の現れ
いたずらは「好奇心」のきっかけ
わざとコップを倒して水をこぼす。本棚の本を全部取り出してしまう。親は「困ったいたずら」と思いがちですが、実は子供のこうした行動こそ、やる気の現れです。コップを倒したらどうなるのかな? 本を出したら、この棚はどうなっているのかな? そんな好奇心がきっかけとなり、「自分で調べてみよう!」という意欲が芽生えて行動につながっているのですから。
コップを倒した子供は、「体がぬれて冷たい」「お気に入りの絵本を汚してしまった」などの経験から、多くのことを感じとります。頭ごなしに「ダメでしょ!」と叱りたくなるのは、「困ったいたずら」と思うから。「やる気があっていいね!」と考えて(笑)、「ぬれちゃったね。次から水遊びはお風呂でしようか?」など、前向きな言葉をかけてあげてください。子どもの思いをきちんと受けとめることで、いたずらの結果が貴重な学びにかわるはずです。
子供の「やる気」とは、大人にとって都合の良いことばかりではない
自分のことは自分でする、積極的に行動する、習いごとを頑張る……。大人が考える「やる気」は、大人にとって都合がよいことに偏りがちです。でも、そのイメージに合わないものを「やる気」とみなさないのはもったいない! 危険なことでなければ、子供の「やりたい」は尊重するのが理想です。大人が結果を先取りし、する前にやめさせるのは避けましょう。将来につながる意欲を育てるためには、「知りたい」「やりたい」が満たされる経験の積み重ねが必要なのです。
意欲は安心感の上に育つ
子供は大人の「OK」サインを感じ取り、すべての「やる気」が発動される
子供は1歳前後になると、何かをする前に親や身近な大人の顔を見るようになります。これは「社会的参照」と言われるもの。子供は、大人の表情などから「自分のしていること・しようとしていることを相手がどう思っているか」を読みとり、その後の行動を決めているのです。
何かをしてみたいと思って親の顔を見たとき、「OK」のサインが感じとれれば、子供は安心して実行に移します。「ダメ!」という雰囲気だと、あきらめてしまいます。また、親が自分に注意を向けてくれないと不安を感じ、意欲そのものをなくしてしまいます。
子供がしたいことを自由にできるのは、満ち足りているときだけです。生理的に満たされるのはもちろん、精神的な充足も欠かせません。こわいことや不安なことから守ってもらえる、何をしても否定されず、自分の気持ちを理解して受け入れてもらえる……。こうした経験の積み重ねは、「親から愛されている」という安心感につながります。そして、安心感こそが「やる気」を育てる土台になるのです。まずは、大人にとって都合のよい「やる気」だけでなく、子供の思いを丸ごと認めることから始めてみましょう。
お話
乳幼児教育保育実践研究家、非営利団体コドモノミカタ代表理事。東京家政大学短期大学部保育科を卒業。東京家政大学ナースリールーム主任、東京家政大学・同短期大学部非常勤講師を42 年務める。著書に「保育でつむぐ 子どもと親のいい関係」(小学館)など。
※「めばえ 別冊 and8月号より」