「ん」で始まる言葉、日本語には実はこんなに…!?【知って得する日本語ウンチク塾】

打ち消しの意味の「ん」、その通りを意味する「んだ」etc…

 

『例解学習 国語辞典』(小学館)より

 

たとえば、小学生向けの『例解学習国語辞典』(小学館)という辞典には、「ん」そのものが載っています。「わたしは食べません」「知らん顔」などの「ん」です。これは、上のことばの意味を打ち消すときに使います。

私がかつて編集長をしていた『日本国語大辞典』という辞典は、収録語数が50万項目の日本最大の国語辞典ですが、「ん」で始まる語は、方言や他の項目を参照している見出しを含めて30項目もあります。

たとえば、「んん」なんていう項目も。「思い出したり、自問自答したりするときに発する語。うん。」と説明されています。「んん、とうとう勝ったか」などと言うときの「んん」です。

方言というのは、たとえば「んだ」があります。「東北方言などで、相手の言ったことに対して、その通りだという気持を表わすのにいうことば」です。文学作品の使用例も引用されていて、そのひとつは井上ひさしさんの『吉里吉里人(きりきりじん)』(1981年)からのものです。

「『どうやら、田植が済んだばかりのところらしいね』〈略〉『んだ』古橋と彼に随行する編集者の佐藤久夫に頷いてみせて」(二)

この「んだ」は東北地方に行くとよく耳にします。「吉里吉里」は岩手県の地名です。

『日本国語大辞典』以外の辞典にも、「ん」で始まる語は載っていて、ヘェ~と思うような語がけっこうあります。ぜひお持ちの辞典を引いてみてください。ただし、「しり取り」で使える普通名詞の語はありません。残念ながら。

 

記事執筆

神永 暁|辞書編集者、エッセイスト

辞書編集者、エッセイスト。元小学館辞書編集部編集長。長年、辞典編集に携わり、辞書に関する著作、「日本語」「言葉の使い方」などの講演も多い。文化審議会国語分科会委員。著書に『悩ましい国語辞典』(時事通信社/角川ソフィア文庫)『さらに悩ましい国語辞典』(時事通信社)、『微妙におかしな日本語』『辞書編集、三十七年』(いずれも草思社)、『一生ものの語彙力』(ナツメ社)、『辞典編集者が選ぶ 美しい日本語101』(時事通信社)。監修に『こどもたちと楽しむ 知れば知るほどお相撲ことば』(ベースボール・マガジン社)。NHKの人気番組『チコちゃんに叱られる』にも、日本語のエキスパートとして登場。新刊の『やっぱり悩ましい国語辞典』(時事通信社)が好評発売中。

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