「森」と「林」はどう違う?
「森」と「林」ってどう違うの?と子どもに聞かれたらどう答えますか。
ひょっとすると、「森」の方が「林」よりも、「木」の数が1つ多いので、「森」の方が木がうっそうとしげっていたり規模が大きかったりするんだよ、なんて答えていませんか。
漢字は確かにそうなんですが、実際にはそれほど単純なものではありません。
「もり」は「盛り」、「はやし」は「生やし」の意味から
まず、「もり」と「はやし」の語源は何かというと、「もり」は「盛り」、「はやし」は「生(は)やし」の意からだといわれています。つまり、「もり」は盛り上がっているという意味、「はやし」は樹木などが群がりはえているという意味だと考えられています。
なぜ、「鎮守の林」と言わないか
たとえば、その土地の守護神をまつった神社を取り囲む木立(こだち)のことを「鎮守の森(「杜」とも)」といいますが、この森は小高く盛り上がっているように見えます。だから「もり」なのだと思います。そしてこれを「鎮守の林」とは決して言いません。
植物学的に使われる「林」
これに対して「林」は、「はやし(ばやし)」と読んで「雑木林」「スギ林」、「りん」と読んで「熱帯降雨林」「原生林」のように、植物学的な場合に使うことが多いようです。
子どもに、「森」と「林」はどう違うのと聞かれたら、どちらも多くの木が生い茂っているということでは同じだけれど、「森」は木がこんもりと盛り上がるように生い茂っているところ、「林」は植物学的に使うことが多いと教えてあげてください。間違っても、「木」の字が1つ多いか少ないかの違いだよ、なんて教えないように。
記事執筆
辞書編集者、エッセイスト。元小学館辞書編集部編集長。長年、辞典編集に携わり、辞書に関する著作、「日本語」「言葉の使い方」などの講演も多い。文化審議会国語分科会委員。著書に『悩ましい国語辞典』(時事通信社/角川ソフィア文庫)『さらに悩ましい国語辞典』(時事通信社)、『微妙におかしな日本語』『辞書編集、三十七年』(いずれも草思社)、『一生ものの語彙力』(ナツメ社)、『辞典編集者が選ぶ 美しい日本語101』(時事通信社)。監修に『こどもたちと楽しむ 知れば知るほどお相撲ことば』(ベースボール・マガジン社)。NHKの人気番組『チコちゃんに叱られる』にも、日本語のエキスパートとして登場。新刊の『やっぱり悩ましい国語辞典』(時事通信社)が好評発売中。