HSC(人いちばい敏感な子)の天才作曲家少女8歳が、自分の強みを手に入れるまで

「うちの子は、人いちばい敏感な子だ」と思い悩んでいませんか?
今、天才作曲家少女として注目されている鈴木美音さんも、実はその気質(HSC=The Highly Sensitive Child)を持っています。
子どもの中にある才能を見つけ育むのに必要なこととは? 美音さんとご両親に、これまでの歩みをうかがいました。

8歳の天才作曲家少女が、愛知県にいる

愛知県在住の鈴木美音(みお)さん(8歳)。

 

「3歳くらいのときに、小さなおもちゃのピアノを買ってもらって、それをすきなようにジャンーンジャーンって弾くのが楽しかったことを憶えています。あと、家でお父さんがピアノを弾いてる姿がすごく好きで、自分もそんな風に弾きたいなって、小さいときから思っていました。」

と語るのは、愛知県在住の鈴木美音(8歳)さん。“ひょっこりはん”のモノマネをして記者を笑わせたりする、愛らしい小学3年生の女の子だ。

しかし、いざピアノの前に座ると、雰囲気は一変。アーティストのオーラをまとい、奏でる音楽はピカピカに磨かれた音の粒の川となる。

5歳からピアノ、6歳から作曲を始め、7歳の2017年には第32回全日本ジュニアクラシック音楽コンクール作曲ソロ部門で最高位を受賞。同年、自作曲が「子ども定期演奏会」のテーマ曲に採用され、サントリーホールで東京交響楽団によって演奏された。

 

美音さんが作曲した『ぼくたちのうた』は、自然の美しい情景が目に浮かぶようなメロディー。

絵本の巻末に掲載されている。

 

2018年10月には、絵本『ぼくたちのうた』(作/山﨑優子)の原画に共感、刺激を受け、頭に鳴り響いた音楽を発表。楽譜は絵本の巻末に掲載され、音楽会でも演奏し反響を呼んでいる。

 

英才教育ではない。身を守る武器づくりだった

 

美音さんのお父さん・直己さんは作曲家・編曲家で、テレビ番組用の音楽を多数制作している。また、音楽プロデューサーとして、演奏家のイベントを企画するなど、音楽の魅力を精力的に伝え続けている。

どんな英才教育によって、美音さんの才能が開花していったのか。

お父さんが美音さんの音楽の才能に気づいたきっかけを伺ったところ、想像もしていなかったエピソードを明かしてくれた。

「実は、娘はHSC(The Highly Sensitive Child=ひといちばい敏感な子)に分類される子なのです。特に大きな音や雑音・騒音は極端に嫌いで、小学校にあがるまでは、車道を歩くこともできなかったのです。車の音はもちろん、葉っぱのこすれる音さえ怖がっていました。」

すぐにびっくりする、人の集まるところやうるさい場所を嫌がる、元気な声がけが苦手。通っていたこども園では、引っ込み思案でお友達や先生とおしゃべりすることもほとんどできなかった。

「この子が小学校に上がって集団や社会に入っていくときに、何か自分を守れる武器をもたせてあげられないか。弱い存在なのではなく、自分にはこれがある、と思えるものをと。そう考えたときに、僕が教えてあげられることといえば音楽だったのです。」父・直己さんは切実な願いをこめながら、幼い美音さんにピアノや音楽の基礎を教えていった。

 

絵を見た瞬間に、音楽が聞こえてきた

父・直_己さんが弾いた曲をその場で五線譜に書き留める練習。

耳で聞いただけで音階を答える「絶対音感クイズ」や、テーマを振られてすぐ曲を作る「即興演奏」など、お父さんの音楽授業は工夫がいっぱい。

 

HSCの気質を持つ子の特性として、観察力、記憶力、集中力がすごい、という側面がある。「音に敏感」は「耳がいい」という個性であり、「外的刺激に過敏」は「情報を徹底的に処理する」という能力である。

美音さんは父・直己さんの音楽授業をごくごくと吸収し、感受性を豊かに育み、自分が自信を持って立てる場所を獲得していった。

「『ぼくたちのうた』の絵本の絵を見た瞬間に、音楽が聞こえてきたんです。この絵本にどんな曲を作ろうとか、そういうことではなくて、頭の中に自然に鳴るメロディーをいそいで書き留めないといけない、という感じで。どんどん音楽は流れていっちゃうので、手が追いつかないこともあるんです」と笑う美音さん。そのときの様子を、お母さんのちよさんはこう話す。

「家ではよくしゃべるし、ひょうきんなことをして笑わせてくれたりするんですけど、作曲しているときは話しかけられない雰囲気で。五線譜のノートにカリカリカリカリと一心不乱に書いていました。」

 

ひといちばい敏感な子との向き合い方

『ぼうたちのうた_』の収録風景。

研ぎ澄まされた聴覚で、美しい音を奏でていく。

 

音楽のプロではない母・ちよさんだが、歌うことは大好き。美音さんが赤ちゃんのときのことをこう語る。

「だっこして子守唄を歌って寝かせようとしても、気に入らない歌だとぐずって嫌がるそぶりを見せるんです。じゃあこれは?じゃあこれは?といろいろ歌って、気に入る歌になるとようやく安心して眠ってくれるような子でした。いまでも、私が鼻歌を歌っていると、キーが違うとか、テンポがずれたとか、細かく指摘してくるんですよ(笑)」当時をふりかえりながら明るく語るお母さんだが、何をしても泣き止まないことも多く、何が嫌なのか怖いのかが分からない子育てが、どんなに不安で大変だったことか。

ご両親がHSCのことを知ったのはつい最近だ。アメリカの心理学博士で1991年からHSCを研究しているエイレン・N・アーロン博士の日本語訳の本『ひといちばい敏感な子』(2015年刊/1万年堂出版/明橋大二・訳)に出合ったのがきっかけだった。

「ああ、これだったんだ。『他の子と違う』ことを怒ったり直したりさせなくてもいい、このままのこの子を受け入れてほめてあげていいんだ、ということが分かって、それまでもやもやしていた気持ちがすっきりしました」とお母さん。

ときには、発達障がいと誤解されることもあるHSCだが、アーロン博士によると5人に1人はHSCに分類され、それは障がいや病気ではなく気質だという。そして昔から、このタイプの人は、医師・看護士やカウンセラー、科学者、芸術家などの職で才能を発揮しているという。

「将来は、みんなに喜んでもらえるような曲を作る人になりたいです」と美音さん。今では元気に学校に通い、帰宅後は、お父さんとのピアノの練習と音楽授業に励む毎日。

「まだまだなところもたくさんありますが、僕が教えてあげられる範囲を超えていく日がもうすぐ来ると思うんです」と語るお父さんのまなざしには、それを楽しみにしている様子がうかがえた。

美音さん作曲の「ぼくたちのうた」はこちらで聴けます。

『ぼくたちのうた』
作・山崎優子/小学館

勇気をくれる風のうた、喜びあふれる夕やけのうた、きらきら落ち葉舞うさよならのうた…。そして、はるかかなたの宇宙や、自分自身の内側から聞こえてくるうたにも耳をすませてみたり。聞こえてくる音色はどれも大好きだけれど、いちばん好きなのは・・・。
ありのままの心で感じる音楽を、画家・山崎優子が鮮やかな絵に写し取った美しい絵本。

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