市原隼人がコメディドラマ『おいしい給食』をコロナ禍で届けたい理由とは?

給食をモチーフにした人気学園コメディ『おいしい給食season2』で主演を務める市原隼人を直撃。市原さんが、給食マニアの教師、甘利田幸男役への熱い思い入れや撮影秘話をたっぷり語ってくれました。

給食をいかにしておいしく食べるかという教師と生徒の闘いを描く人気ドラマ『おいしい給食season2』(テレビ神奈川、TOKYO MX、BS12トゥエルビほかで放送)で主演を務めた市原隼人に単独インタビュー。主人公である給食マニアの教師、甘利田幸男(あまりだ・ゆきお)役に情熱を注いできた市原さんは「これまでやったなかで一番ハードな役でした」と現場を振り返りながら、撮影秘話や本作に懸けた思いを語ってくれました。

©2021「おいしい給食」製作委員会

子どもからお年寄りまで幅広い層に支持され、ドラマを経て映画化もされた『おいしい給食』シリーズ。10月よりスタートしたseason2では甘利田が新しい中学に赴任してきます。生徒たちを手厳しく指導する甘利田ですが、相変わらず毎朝献立をチェックし、来たる給食の時間を万全な態勢で迎えています。そんななか、甘利田の担任する3年1組に、かつて甘利田と給食対決をしてきた宿敵、神野ゴウが転校してきたことで、再び2人の給食を巡る闘いが勃発!

season2では、ヒロインとして学年主任の宗方早苗役を土村芳が務めたほか、佐藤大志が神野ゴウ役を2年ぶりに続投。また、バラエティに富んだ給食の人気メニューに加え、ノスタルジーあふれる駄菓子も登場するので、親子で見れば大いに盛り上がれそうです。

『おいしい給食』はコメディでありながら道徳的な物語でもある

©2021「おいしい給食」製作委員会

――season1、劇場版を経てのseason2がスタートしました。season2の現場はいかがでしたか?

「season2の制作が決まったのは、『おいしい給食』シリーズを好いて下さったファンの皆様のお気持ちの賜物なので、感謝しつつもその期待に応えなければという思いが強かったです。新たに何を着火剤にしていけばいいのか、どこまで表現していいのか、頭の中でいろいろと演じてみましたが、今回も相当難しかったです」

――給食の時間が楽しみすぎて小躍りしたり、ハイテンションで食レポをしたりする甘利田役。気力と体力の両方を使われる役だそうですね。

「演じさせていただいている甘利田は、ちゃんと自分のなかで整理しながら作りこんでいかないと向き合えない役でした。朝はだいたい4時に起き、約2時間ほどかけて現場に行くのですが、撮影でのアドレナリンの余韻に包まれて、毎日眠れなかったです」

©2021「おいしい給食」製作委員会

――season2ならではの魅力はどんな点でしょうか?

「今回は土村芳さん演じる宗方早苗という新たなヒロインが加わり、クラスの生徒もゴウ役の大志以外は一新して新しい子どもたちに変わっています。また、下校時に甘利田が駄菓子屋通いをするという要素が加わったり、“シンゲン”というワンちゃんが登場したりと、新鮮な風が吹いていると思います。もちろん『おいしい給食』というテイストは全くぶれることなく、地に足が着いた物語なので、今シーズンもしっかりと楽しんでいただけると思います」

©2021「おいしい給食」製作委員会

――甘利田が生徒に放つ言葉は、語気が強めであっても、常に正しい発言ばかり。例えば「自己中心的な人間は必ず人に迷惑をかける」「感謝できない人間は社会生活を営めない」といった台詞も印象的でした。

「そうなんです。『おいしい給食』は道徳的な本質をしっかりお届けできる作品でもあります。小さなお子さんには表面的なコメディとして楽しめますし、大人が観ても物語の展開において、ドラマの面でのメッセージ性に満足感を得られるような作品を目指しました。なので暴力的になり過ぎてもいけないし、振り切り過ぎて、観て下さる方がついてこれなくなってもダメだと。そこのさじ加減が難しかったのですが、幅広い層に楽しんでいただける大衆向けのエンターテイメント作品になっていると思います」

子役たちとの共演で救われる瞬間がある

©2021「おいしい給食」製作委員会

――先生役を演じてみて、子役の共演者から得たものはありますか?

「すごくたくさんあります。彼らはいい意味で気負いがなく、自然体にそこに居てくださる。その真っ直ぐな目を見ていると、役者という職業を忘れさせてくれる瞬間があります。芝居というのは虚像であり、どんなに必死にやっていても、僕たち俳優は嘘をついているわけで、常に罪悪感を感じています。ですが、生徒たちが嘘のない居方をしてくれるので、なんだか自分がすごく救われる気がしますし、とても学ぶことが多い日々を過ごさせていただきました」

――佐藤大志さんと2年ぶりに共演してみた感想も聞かせてください。

©2021「おいしい給食」製作委員会

「大志が声変わりをしていて、びっくりしました。『でかくなってやがる』という台詞もありましたが、身長も伸びていて、親心のようなうれしさを感じました。『おいしい給食』がスタートして2年の月日が流れましたが、いわばこのシリーズは、ある種のドキュメントでもあるのかなと。この2年間で、僕たちもいろんなことがありましたし」

――本作の時代設定は1986年ですが、その時代の魅力をどう捉えていますか?

「令和になってからいろんな規律がより厳しくなり、子どもたちはルールに守られて生きている気がします。それに比べて、1986年は個々が主張し合って、面と向かって意見をぶつけ合うことができていた時代だったかと感じます。だからこそ愛くるしい人間臭さがキャラクターにも反映されているので、日本人の古き良き心みたいなものを忘れてほしくないと思いながら甘利田役を演じていました。

コロナ禍の今だからこそ、1986年ならではの人情深さや人とのつながり、生きていく喜びなど、いろんな物を届けなければならないという覚悟がありましたし、お客様に何か恩返しがしたいという思いを携わった監督やスタッフ、キャストみんなが持っていました」

©2021「おいしい給食」製作委員会

――今回は、米飯給食が描かれますが、「わかめご飯」をうれしそうに味わう甘利田先生の表情がとてもおちゃめでした。あの食べ方は市原さんのアイディアですか?

「すべて僕のアイディアです。わかめご飯を前にして、心はこんなにもウキウキ躍っているという気持ちを伝えたくて(笑)。また、今回、甘利田は輪島漆塗のお箸を使いますが、先割れスプーンから進化したことを実感しました」

――進化はしても『おいしい給食』は、昭和、平成生まれの大人たちはもちろん、令和の小学生や中学生が観ても共感できる普遍的な内容になっていますね。

「そこが給食のぶれない点で、三世代で同じメニューを食べていることも多いです。地域の特色によってメニューが変わることはありますが、給食センターでは栄養面、情勢を如実に反映した経済的な面をはじめ、いろんな目線から考えられたメニューを作ってくれています。いわば給食は、三世代で一緒に楽しめる共通ツールでもありますね」

『おいしい給食』は、どんな作品よりも子どもたちに愛情をかけた作品

撮影/山崎伸子

――会見で市原さんは「役者は、人を笑わせるのではなく、笑われる職業だと思います」と言われていましたが、コメディを演じるにあたり、どんな点を意識されていますか?

「チャップリンが『人生は近くで見ると悲劇だが、遠くから見れば喜劇である』と言っていますが、まさにそのとおりかと。芸人さんはまた違う捉え方をされるかもしれませんが、僕ら俳優は1人の登場人物の人生を一生懸命、必死に生きた上で、笑われる職業であるべきだと思っています。

特に今はコロナ禍で、気持ちが落ち込んでいる方が多い時期です。甘利田が給食に翻弄されつつも、滑稽なほど必死に生きている姿は、きっと共感を呼ぶと思いますし、思い切り笑ってもらえるんじゃないかと。また、甘利田は相手に負けたらちゃんと負けを認め、相手を尊重して称えることもできる。そこをはじめ、道徳要素を観ていただけたら、きっと生きる活力を取り戻していただけるのではないかと願っております」

――市原さんのキャリアにおいて『おいしい給食』シリーズはどんな位置づけの作品になりましたか?

©2021「おいしい給食」製作委員会

「僕にとってはものすごく特別な作品になりました。原作もない完全にオリジナルの作品で、0から始まった役でしたので、物を作るという教訓を教えられたような気がします。また、『おいしい給食』は、どんな作品よりも子どもたちに愛情をかけた作品になったとも思います。

監督、キャスト、周りのスタッフも含め、しっかりと子どものことを考えて、厳しくも優しく、親のような気持ちで作っていきました。怒涛のように撮っていったので、クランクアップした時は、監督が感極まって言葉に詰まっていましたが、僕もまさしく同じ思いで、泣けてきました。それほどみんなが一丸となって共闘して向かっていかないとなし得ない作品でしたし、本当に素晴らしい経験ができたと思っています」

『おいしい給食 season2』(全10話)10月よりテレビ神奈川、TOKYO MX、BS12トゥエルビほかにて順次放送中
監督:綾部真弥、田口桂 脚本:永森裕二 出演:市原隼人、土村芳、佐藤大志、勇翔(BOYS AND MEN)、山﨑玲奈、いとうまい子、直江喜一、木野花、酒井敏也…ほか
公式サイト:https://oishi-kyushoku2.com/

©2021「おいしい給食」製作委員会

取材・文/山崎伸子

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