10月31日(日)は衆議院選挙の投票日。
今は当たり前のように男女ともに選挙権がありますが、昔はそうではありませんでした。
初めて女性が選挙権を得た選挙で、実際に投票した経験を持つ、もろさわようこさんに当時の貴重なお話をうかがいました。
もろさわようこ
1925年、長野県生まれ。婦人活動家・政治家として有名な市川房枝の元で機関紙編集に携わり。女性史研究家に。96歳になる現在も、執筆活動を続けている。
12月に『新編 おんなの戦後史』がちくま文庫より刊行予定。
戦争にくるわされた青春時代
私は今、96歳。小学校にあがったとき満州事変と呼ばれた戦争が始まり、日中戦争や太平洋戦争に拡大し、20歳のときに十五年戦争といわれた長い戦争が終わりました。そのため、子どものころは教育も、新聞も、ラジオ(当時、テレビはありませんでした)も、みんな戦争に勝つことばかりを伝えていました。だから、「女にも選挙権を」といって、大正時代から運動があったなど、教わることも、考えることもなかったんです。
日本が戦争に負け、男女平等や働く人たちの団結など、日本の民主主義化が進み、その道筋で女性も選挙権を持つことになりました。
21歳になっていた私は、初めての選挙を体験しました。ですが、当たり前のことをしていると思って、そのときは取り立てた感想はありませんでした。でも、知り合いの方は、大切にしまっていたもち米と小豆でお赤飯をたいて、お祝いしていらっしゃいましたよ。
その方は10代のむすめさん2人に「今までの日本は、女の人は参政権もなく、財産権も持てなかった。男中心の社会の下積みとして差別されていたんですよ」と、女性が男性と同じように選挙ができるようになった喜びを、語ったそうです。
一票と、お米の一俵をかんちがい!?
投票日当日に話をもどしましょう。投票は村役場で行われました。家から1㎞あるかないかという距離だったので、私は難なく行けましたが、村のはじのほう、交通の不便なところに住んでいた人は、4〜5㎞の道のりを歩いて行かなければならず、大変だったと思います。今のような車社会ではありませんから、移動は歩くか、自転車しかありませんでした。
投票所は日常とは異なる、晴れの場所としてはなやいだ様子がありました。集まった女性たちも、初めての選挙ということで少し緊張していたようです。ただし、この日の女性の投票率は66・97%で、男性の78・52%を大きく下回りました。
これは、女性の選挙への認識や関心がまだまだうすかったからだと思います。当時、お米が配給制だったのですが、「女性が〝いっぴょう〞もらえるというけれど、いつ1俵配給になるんですか?」と、聞いた人もいたそうです。
また、女性が選挙に行かなかった理由の一つに、当時、字を書けない人が多かったことがあります。男女差別の中で、学校に行くことができずに働かされた女性たちが少なからずいました。戦前の中等教育でも、男性は漢文、英語を学んだのに対し、女性は家事、裁縫でした。
総理大臣も私たちもみんな同じ一票!
私が選挙について考えを深めていったのは、初めて投票をしたあとでした。社会には、貧富の差、社会的地位、学歴などのさまざまな差別がありますが、選挙のときは総理大臣も、私たちも一票です。地位があるから、学歴があるからといって二票使うことはできず、みんな同じ一票しか使えません。選挙権は平等で、よりよい政治をつくるために欠かすことのできない貴重な権利です。選挙権をおろそかにすることは、自分をおろそかにすることだと思います。
女性参政権に力をつくした市川房枝さんは「平和なくして平等なし、平等なくして平和なし」とおっしゃっていました。また、「男たちが立派な理由を並べて戦争を肯定しても、女はそれにまどわされまい、どんな理由があろうとも戦争はいやだ、その思いをよりどころに、一票の権利を生かして使おう」とも。そんな先生が亡くなったときの取材で、「どなたが市川房枝さんの遺志をつぐのですか?」と聞かれて、私は「日本中の女性です!」と答えました。
私は戦争が終わったとき、再び同じあやまちをしないためには、いちばんつらい立場や、めぐまれない立場にいる人たちの場に立ってものを考え、行えば、大きなまちがいはないだろう、そう考え、歩み出しました。以来、平和のために一票を入れています。
一国の政治が、人びとの選挙ではなく、指導者だけの意向で決まっていくなんていうことを二度とさせないためにも、民主主義を大切につくっていくのが選挙です。ぜひ候補者を調べて、大切に選挙権を使ってほしいと思います。
※学習雑誌『小学8年生』10・11月号初出。
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構成・文/和田明子